CA1611 – 障害者サービスの潮流−DAISY & 統合デジタル図書館ワークショップ報告− / 原田圭子

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カレントアウェアネス
No.290 2006年12月20日

 

CA1611

 

障害者サービスの潮流
−DAISY & 統合デジタル図書館ワークショップ報告−

 

 IFLAソウル大会に先立ち,8月17・18日に,韓国点字図書館で標記ワークッショップが開催された。主催者の韓国点字図書館は,1969年に設立された韓国初の点字図書館であり,民間による運営であるが韓国の点字図書館界で中心的な役割をはたしている。

 ワークショップでは「DAISYと統合デジタル図書館」をテーマに,日本,韓国を含むアジア,ヨーロッパの8か国から12の報告がなされた。本稿では,このうちの主なトピックを紹介してゆきたい。

 

DAISYの普及と資料のデジタル化

 DAISYは現在デジタル録音図書の国際標準規格として普及している。(CA1471CA1486参照)。最新の規格であるDAISY3.0(2002年にANSI/NISOZ39.86として採択)は「マルチメディアDAISY」と通称されているとおり,音声だけではなく画像・テキストを格納し処理できる規格である。

 デンマークの国立視覚障害者図書館(DanishNational Library for the Blind:以下,DBB)では,2000年にDAISY図書の新規作成を,2002年にはアナログ資料からDAISY資料への遡及変換を開始し,すでに14,000タイトルのDAISY図書をサービスに供している。また,2008年までに過去のアナログ資料をすべてDAISY化する計画も進んでいる。

 フィンランドのセリア視覚障害者図書館(CeliaLibrary for the Visually Impaired:以下,Celia)でも,年間約1,600タイトルを新規作成し,今後約15,000タイトルのアナログ資料を変換する予定である。

 また録音資料の製作では,デジタル情報の特性を生かしたシステムにより効率化が進んでいる。日本点字図書館が2005年に導入した新システムでは,録音時の環境音を消去したり,録音音声レベルを一定に保つ技術の導入により,これまで録音ブースで行うしかなかった録音作業が自宅でも可能となった。さらに,メールやファイル転送を使用することで進捗管理,録音と校正などを平行処理できるようになり,これまで20−25週かかっていた録音資料作成が5−8週間で完成するようになっている。

 

新サービス

 このようなDAISYの普及により,サービスの可能性が広がっている。先の北欧2カ国では,録音資料はオンデマンドでコピーを作成し提供しているが,利用後の廃棄を前提に,資料の返却を不要とするサービスを開始している。

 韓国のLGサンナム(Sangnam)図書館では,「ユビキタス図書館」と銘打って,韓国点字図書館が作成した録音資料をインターネットや電話回線経由でPCや専用の携帯電話端末に送信するサービスを開始した。

 このほか,直接ウェブ経由でデータを送信してそれを専用ソフトで視聴したり,点訳ソフトや読み上げソフトで読み上げたりするサービスは,各国で開始されている。

 

対象利用者の拡大

 身体障害者,失語症,知的障害者,聴覚障害者など「読み書きに障害を持つ人々」に対しても,「マルチメディアDAISY」の有効性が認められつつあり,利用対象の拡大が進められている。DBBやCeliaはサービス対象者を視覚障害者から,「読むことに障害を持つ人々」に拡大した。また,スウェーデンでは著作権法により,2002年から正式に認可された団体は,印刷物を読めない障害をもつ人々への貸与を目的に,著者や出版社の許可を受けずに録音図書の製作ができるようになった。

 日本でも,著作者団体と図書館関係団体との当事者間協議が行われているところである。

 

デジタルディバイド

 ワークショップでは,先進的な取り組みの例が多く紹介されたが,同時に課題もあらわになった。

 国レベルでは,すでに何万タイトルもDAISY資料が作成され提供体制が整っているところがあれば,作成自体が始められたばかりのところもある。また個人レベルでも中・高齢の視覚障害者は最新の再生機器,再生ソフトの操作が困難である,再生機器自体が比較的高価であるため購入できない,など,最新の技術・環境を利用できない人々が数多くいる。このようなデジタルディバイドの解消が今後の大きな課題である,という認識を参加者は共有できた。

関西館事業部図書館協力課:原田 圭子(はらだ けいこ)

 

 

Ref:
DAISY & 統合デジタル図書館. 韓国電子図書館.(オンライン), 入手先 < http://infor.kbll.or.kr/workshop/index-jap1.asp >, (参照 2006-11-9).

Tank, Elsebeth. DBB on our way to the hyper modern digital library. 2006 Seoul Workshop: Daisy & Integrated Digital Library. 2006. 1-6.

Voutilainen, Paivi. Designing and building a digital Library system at Celia Library for the Visually Impaired,Finland. 2006 Seoul Workshop: Daisy & Integrated Digital Library. 2006. 7-9.

Amano, Shigetaka. Biblio-Net Service in Japan. 2006 Seoul Workshop: Daisy & Integrated Digital Library. 2006. 10-13.

Youk, Kuen-Hae. Ubiquitaous Library. 2006 Seoul Workshop: Daisy & Integrated Digital Library. 2006. 14-17.

 


原田圭子. 障害者サービスの潮流−DAISY & 統合デジタル図書館ワークショップ報告−. カレントアウェアネス. (290), 2006, 5.
http://www.dap.ndl.go.jp/ca/module/ca/item.php?itemid=1046