CA1471 – 情報バリアフリーに向けた国際的な動き / 大原裕子

カレントアウェアネス
No.273 2002.09.20

 

CA1471

 

情報バリアフリーに向けた国際的な動き

 

 本年は国連アジア太平洋経済社会委員会(United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific:ESCAP)が第48回総会において定めた「アジア太平洋障害者の十年(The Asian and Pacific Decade of Disabled Persons 1993-2002)」の最終年である(「アジア太平洋障害者の十年」は2003年度を初年度とし,さらに10年延長した)。この最終年を記念して,日本で本年10月に3つの国際会議が開催される。さらに本年10月滋賀県大津市で,ESCAP主催の「ESCAPアジア太平洋障害者の十年最終年ハイレベル政府間会合(ESCAP High-level Intergovernmental Meeting to Conclude the Asian and Pacific Decade of Disabled Persons)」が開かれる。

 「アジア太平洋障害者の十年」とは,ESCAP域内の各国が,立法,広報,施設整備等のさまざまな角度から行う国際的障害者施策推進運動をいう。そのひとつに「情報バリアフリー」実現への取組みがある。これは,障害を持つ人にも自由に情報を獲得できる環境を整備していこうという動きである。ちなみに高齢者や障害者など,心身の機能に制約のある人でもウェブで提供されている情報に問題なくアクセスし利用できることをウェブアクセシビリティという。

 日本においても,2001年1月に施行された「情報通信ネットワーク社会形成基本法」にもとづき,高齢者・障害者向け通信・放送サービスやインターネット機器のアクセシビリティの向上を促進するために総務省によるバリアフリー関連施策としても行われている。

 アクセシビリティの確保は,「アジア太平洋障害者の十年」の活動の柱であり,そのためには技術の標準化が必要である。ESCAP加盟国と障害者NGOの主催により,2002年6月バンコクで開催されたICTセミナーにおいてICT(情報とコミュニケーション技術)ガイドラインが採択された。この中に,一般公衆が提供を受けるコンピュータ化された新しい情報サービスシステムは,当初より障害者によってアクセス可能であるか,アクセス可能なものへ適応できることを国家は保証すべきである,とあり,世界標準の開発を支援するよう述べられている。この世界標準の例として,W3C (World Wide Web Consortium),WAI (Web Accessibility Initiative),DAISY (Digital Accessible Information System)の3つがあげられている。

 W3C は,ウェブの発展と相互運用性を確保するための共通のプロトコルを開発することにより,ウェブの可能性を最大限に引き出すべく設立された国際組織である。W3Cのもとで,WAIは障害を持つ人のためのウェブアクセシビリティの向上を目指すために,指針やツールを発表している。W3Cは1999年5月に,ウェブページの作成者やウェブ作成ツール開発者を対象に,障害を持つ人にもアクセス可能なウェブ作成を目指した『ウェブ内容アクセス指針1.0』を発表した。

一方,DAISYは視覚障害者や普通の印刷物を読むことが困難な人々のためにデジタル録音図書の国際標準規格として,DAISYコンソーシアムにより開発と維持が行なわれている情報システムである。海外の図書館においてもDAISY図書の導入や,アクセシビリティの高いウェブページの提供に関心を寄せているようだ。

たとえば, オーストラリア図書館情報協会(Australian Library and Information Association: ALIA)は,『障害をもつ人々への図書館と情報提供サービスに関する声明の草稿』を2002年に改訂した。その目的の中に「全ての図書館と情報サービス部門がサービス提供することを促進し改善すること」をあげている。基本理念として「障害者の基本的人権を認め,全ての図書館と情報サービスの提供を受けることを公平化することを求め」ている。ユニバーサルデザインを促進するものとして具体的に名称があがっているものには,設備や建物のほかに,「目録,データベースなどの情報提供」もある。そして,「全ての図書館と情報提供者から障害を持つ人も等しく情報提供を受けられるようにする(替わりの形態に複写することも含む)ために著作権が障害とならないように協会は支援する」とある。

 英国でも2001年以来公共図書館における視覚障害者サービス改善にかかわる取組みが続けられており(CA13691440参照),2002年5月に改訂(2000年10月策定)された活動指針である「視覚障害者のための図書館サービス」にも「図書館ウェブへのアクセス」の1章が設けられ,指針が示されている。

 また,IFLAの視覚障害者サービス部門も新しいガイドラインを策定する準備を進めている。

関西館事業部図書館協力課:大原 裕子(おおはらゆうこ)

 

Ref.

(財)日本障害者リハビリテーション協会障害者情報ネットワークノーマネット[http://www.normanet.ne.jp] (last access 2002.7.18)

内閣府障害者施策[http://www8.cao.go.jp/shougai/index.html] (last access 2002.7.18)
ウェブアクセシビリティ実証実験事務局みんなのウェブ[http://www.jwas.gr.jp/index.html] (lastaccess 2002.7.18)
外務省[http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/escap/index.html] (last access 2002.7.18)

IFLA. [http://www.ifla.org/](last access 2002.7.15)
(財)日本障害者リハビリテーション協会DAISY研究センター[http://www.dinf.ne.jp/doc/daisy/](last access 2002.7.26)
毎日新聞[http://www.mainichi.co.jp/universalon/](last access 2002.7.26)

Australian Library and Information Association.[http://www.alia.org.au/home.html] (last access2002.7.26)

National Library for the Blind. Library andinformation services for visually impairedpeople: national guidelines. [http://www.nlbuk.org/bpm/appendixa2.html] (last access 2002.7.26)

World Wide Web Consortium. [http://www.w3.org/](last access 2002.7.26)

 


大原裕子. 情報バリアフリーに向けた国際的な動き. カレントアウェアネス. 2002, (273), p.8-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1471