CA1440 – 英国公共図書館における視覚障害者サービスの実態 / 吉田啓子

カレントアウェアネス
No.268 2001.12.20


CA1440
英国公共図書館における視覚障害者サービスの実態

英国における視覚障害者への図書館サービスは,ボランティア組織を中心とする様々な組織が担ってきたが,利用対象者の特定が難しい,連携がうまくいかない,最新の専門的なサービスができない,などの問題点があった。一方,公共図書館には,視覚障害者を含むすべての地域住民にサービスをする法的義務があるが,1983年から97年までの視覚障害者サービスに関する調査結果を比較したところ,視覚障害者を特別なサービス対象として捉えていない,ニーズを考慮した図書館政策の改善や予算配分がされていない,利用可能な資料が制限されている,機関相互の連携体制が整備されていない,などの問題が改善されていなかった。

ところが1995年,障害に関連した事柄を理由に障害者へのサービス提供を拒否したり水準を下げたりすることは違法であるとする「障害者差別禁止法(Disability Discrimination Act: DDA)」が制定され状況は変わってきた。1998年には図書館情報委員会が20万ポンドの助成金をもとに,STV(Share the Vision:英国王立盲人協会,国立盲人図書館,他数団体の協力機関)と協力して,視覚障害者に対する公共図書館サービスを改善するために調査を要する分野を特定した。そして,1999年にラフバラ大学図書館情報統計部門(LISU)において実際に調査が行われた。諸外国の事例や1996年に英国図書館協会から出された「視覚障害者への図書館・情報サービスに関する全国ガイドライン」に記述された基準と照らし合わせて評価を行い,1997年の英国王立盲人協会による公共図書館調査時と比べて各種サービスの進展状況を分析した。

調査は郵送によるアンケート方式で行われ,208館中141館(67%)から回答があった。分野ごとの結果は次のとおりである。

・政策:「視覚障害者に対するサービス方針を明文化」5%,「方針あり」15%,「障害者に対するサービス方針を全体的な運営方針の一部に含む」43%,「方針を明文化していない」42%。明文化された方針のある方が,より幅広く視覚障害者のニーズに応じている。

・予算措置:大多数の館では視覚障害者サービスの特別予算を確保しておらず,1997年以降,視覚障害者サービスの予算の割合は少しずつ減少する傾向にある。

・人員配置:専門職員を置いている館は62%で,1997年の調査と類似した結果となった。サービス水準と人員配置には明らかな関連性があるが,3分の1の職員が視覚障害者サービスの訓練を受けていない(1997年より悪化),一般職員で支援技術・設備の訓練を受けている者が少ない,といった点は問題である。

・協力:他機関との非継続的,随時の連携を持つ館が増えているものの,諸外国の例と比較して遅れをとっている。

・評価:視覚障害者サービスの正式な評価をしていない館が27%。正式な評価でも,一般的な評価手順のなかでのみ行っているという回答もあり,「ガイドライン」を用いた評価をした館は20%未満であった。

・資料整備・提供:録音資料(トーキングブック)と大活字本は増加している。分野別では,マイノリティ言語資料については,50%が大活字本または録音資料を用意している(1997年より低下)。大人向けの小説や伝記は整っているが,ノンフィクション,特に科学技術・医学・参考資料は整っていない。

・設備:改善されてはいるが,大多数の館では視覚障害者のための設備が不十分である。中央館でも専用読書設備は少なく,分館や移動図書館では極めて整備状況が悪い。

・機器・アクセス:機器の整備状況は,「再生・録音機」68%,「拡大読書機」57%,「カーツワイル朗読機」31%,「光学式読取装置」16%であった。「盲導犬許可」(93%)や「自動ドア設置」(70%)などの施設へのアクセスや,「アウトリーチサービス」(93%)は整備状況がよい。サインやガイド,支援技術などは整備が遅れている。

・促進・宣伝:必要不可欠であるとは考えられていない。

この調査結果を踏まえて,公共図書館の視覚障害者サービスについて以下のような勧告がなされた。
・ニーズの明確化
・サービス方針や職員養成,蔵書計画の年次計画における明文化
・サービス費用や専門職員数に関する統計の必須項目化
・関連機関間協力推進の明確化
・評価基準としての「ガイドライン」の共通化,設備整備計画の基準化
・利用者調査による問題点の明確化
・マーケティング戦略の一環としての利用促進活動

英国政府は,公共図書館基準を今年1月に公表しているが(CA1383参照),この基準のなかでも障害者に関して特記し,視覚障害者向け資料について言及している。今後はこのような全国基準の達成を目標とすることで,視覚障害者サービスの改善,各機関の格差の縮小や連携が進むことが期待される。

吉田 啓子(よしだけいこ)

Ref: Kinnell, M. et al. A new outlook?: services to visually impaired people in UK public libraries. J Librariansh Inf Sci 33(1) 5-14, 2001
須賀千絵 英国における公共図書館政策の転換 三田図書館・情報学会研究大会発表論文集 2000年度 17-20,2000[http://wwwsoc.nii.ac.jp/mslis/am2000/suga.pdf](last access 2001. 9. 28)