CA1476 – CDRSから発展型デジタルレファレンスサービスへ−QuestionPointの開始− / 浅見文絵

カレントアウェアネス
No.274 2002.12.20

 

CA1476

 

CDRSから発展型デジタルレファレンスサービスへ
−QuestionPointの開始−

 

 米国議会図書館(Library of Congress : LC)とOCLCの主導による,デジタルレファレンスサービスが開始された。その名は”QuestionPoint”。デジタル時代の新しいレファレンスサービスの幕開けである。

 LC中心に始められた共同デジタルレファレンスサービス(Collaborative Digital Reference Service:CDRS:CA135514221437参照)は,2001年1月にOCLCとの協定締結後,北米を中心に西欧,アジアなど世界中から250の参加館を集め,相互に積極的な質問・回答の交換を行ってきた。そのデータはナレッジベース(Knowledge Base:KB)と呼ばれるデータベースに蓄積されていったが,使用していた試験的ソフトウェアの処理能力を上回ってしまったため,2002年1月,LCとOCLCは第2段階の発展的協力に関して合意するに至った。

 こうして2002年6月3日から開始された新たなサービスは”QuestionPoint”と名付けられた。

 QuestionPointは,「図書館員による図書館員のための」サービスであり,LCとOCLCは「図書館にとっての最善を尽くすために協力する」ことを確認している。LCはレファレンサーの質の向上やワークフローのほか,法的な問題等の政策課題を担当する。対してOCLCは技術的基盤とともに,会員の管理,サービスの促進,マーケティングを担当する。

 QuestionPointとCDRSとの最大の違いは、CDRSが参加館相互で質問や回答をやり取りしていたのに対して, QuestionPointではレファレンスの受理から回答までをウェブベースで行うことができるようになったことであろう。これによって,QuestionPointに加盟している図書館の利用者は,インターネットに接続可能なパソコンがあれば,加盟館のウェブサイトを通じて,24時間いつでも無料で質問を送付することができる。質問は,熟練した専門のスタッフによって,インターネット上の情報だけでなく,同館が所蔵する資料を用いて調査され,オンラインで回答される。また質問を受理した図書館で回答できない場合には,QuestionPointのネットワークに転送すると,蔵書・専門分野・職員数等,加盟館のプロファイルのデータベースを検索して,世界中の加盟館の中でその質問に回答するのに最も相応しい加盟館へ自動的に振り分けられる。このようにして作成された回答は質問とともに,グローバル・ナレッジベース(GKB)というデータベースに蓄積され,加盟館はもちろん,利用者も検索することができる。

 またQuestionPointは,ライブチャット機能も備えている。例えばLCでは,平日午後2時から3時の1時間,精鋭のスタッフがインターネットで質問を受け付ける。利用者はスタッフが提供する情報について,インターネット上でリアルタイムでやり取りすることができる。ここでは,利用者が使用するのが難しい,または見つけづらいオンライン上の情報源についてもアドバイスを受けられる。チャットサービスは,LCの6つの閲覧室のスタッフによって実施されているが,サービスを行う閲覧室の数,利用時間は拡大される予定である。

 QuestionPointとCDRSとの間にはその他に大きな違いが2点挙げられる。1点めは会員制による有料サービスであることである。年間契約制を取っており,QuestionPointのウェブサイトからも申し込み可能である。図書館外部の個人利用者は直接QuestionPointのネットワークシステムにアクセスはできないが,加盟館のウェブサイトを通じて無料で利用でき,利用資格も問われない。2点めは,個々の図書館やコンソーシアム等のレベルで構築されているオンライン上のレファレンス協力ネットワークシステムとQuestionPointとを連動するよう,カスタマイズできることである。単独館でも加盟できるが,このような複数の図書館によるグループ加盟のほうが料金も安価になっており,QuestionPoint当局もグループでの参加を奨励している。料金については,(1)ネットワークを通じて回付されてきた質問に回答できる体制をとる,(2)担当した質問と回答の記録をGKBに登録する,(3)GKBに加えた記録を必要に応じて編集する,の3点に同意することによって,さらに安い料金でサービスを受けることができる。全体的に料金は抑えられており,民間でデジタルレファレンスサービスに進出しているLSSI社等のそれと比べると非常に低価格である。

 このQuestionPointの図書館にとってのメリットとしては,コストを削減できること(Eメール・インターネット接続機能のあるパソコンさえあれば参加でき,新しいソフトウェア等は不要),効率が上がること(加盟館は,回答できなかった質問について,今までのような煩わしい手続きなしに自動的に他館に照会することができる),すでに構築されているローカルレベルのレファレンス協力ネットワークと両立でき,ローカルレベルでは回答できなかった質問を世界規模のネットワークに照会できること,インターネット界での権威を高め,上質の情報提供者としての立場を強化できること等が挙げられる。

 しかし,問題点もいくつか指摘されている。まず,このQuestionPointを推進するに足る図書館員の質の向上である。質問に回答する加盟館は,その回答の正確性に責任を持つことを求められる。また日々変化しているデジタル環境に職員を順応させる訓練が必要になってくる。LSSI社関係者は,「デジタルレファレンスには研修やマーケティングが不可欠であり,その訓練なしにはたとえシステムがあっても役には立たないだろう」と指摘している。次に、デジタル資料の扱いについてである。図書館で提供するデジタル資料のライセンス・複写等に関しては,出版者との契約の中に制限を多く含んでいるが,ある1機関としか契約していないデジタル資料を,このQuestionPointを通じて全ての加盟館,そしてその利用者に公開することになった場合,出版者側の利益が損なわれる恐れがある。このような事態が起った場合,出版者側が態度を硬化させることは十分に考えられるだろう。また,QuestionPointのサービスにより利用者が直接来館する必要性が減ることの適否や,LCとOCLCがどれだけ緊密な関係を築けるかについても議論が起っている。

 解決しなければならないハードルはいくつか残されているが,広大な知識の海に漕ぎ出したQuestionPoint。LCの幹部は,このQuestionPointに参加しない図書館は将来的になくなるだろうと予想し,OCLCの幹部も,QuestionPointが検索サイトGoogleに取って代わる夢を語る。QuestionPointがデジタルレファレンスの世界を今後どのように変えていくのか,注目に値するだろう。

主題情報部科学技術・経済課:浅見 文絵(あさみふみえ)

 

Ref.

QuestionPoint [http://www.questionpoint.org/index.html](last access 2002. 1. 4)

Library of Congress. Global Reference Network.http://www.loc.gov/rr/digiref/] (last access 2002.10.24)

News from The Library of Congress. [http://www.loc.gov/today/pr/2002/] (last access 2002.10.24)

Quint, Barbara. QuestionPoint Marks New Era in Virtual Reference. Information Today, Inc. NewsBreaks & Conference Reports. 2002.6.20 [http://www.infotoday.com/newsbreaks/nb020610-1.htm] (last access 2002.10.24)

 


浅見文絵. CDRSから発展型デジタルレファレンスサービスへ−QuestionPointの開始−. カレントアウェアネス. 2002, (274), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1476