CA1447 – ロシア国立図書館のIT化 / 桂木小由美

カレントアウェアネス
No.269 2002.01.20

 

CA1447

 

ロシア国立図書館のIT化

 

 ロシア国立図書館(Russian State Library: RSL)は,旧ソ連諸国のなかでも最も早く機械化に取り組み始めた図書館の一つである。1960年代後半からいくつかの試みがなされたが,予算不足等の問題によって完成には至らなかった。

 1995年,RSLは欧州委員会(EC)の資金提供の下,図書館の「機械化」の実行可能性に関する調査を行った。調査の結果,RSLは18か月間にわたってTACIS(Technical Assistance to Commonwealth of Independent States)の「RSL情報システム構築プロジェクト」の下でIT化を進めることと,100万ユーロの資金提供を受けることが認められた(後に6か月延期され,30万ユーロが追加された)。このプロジェクトの優先的な課題としては,インターネットでアクセスできる目録の作成,電源供給システムとLANの再編成,次に目録の遡及入力,相互貸借の機械化,さらに総合目録作成と利用者サービスに関するモスクワの主な図書館との協力体制作りが挙げられていた。なお,TACISプログラムは,様々な資金援助を行うことによって,東欧諸国・中央アジア・モンゴルの民主化と経済的繁栄に基づく社会的発展を促進することを目的に,1991年から欧州連合(EU)によって実施されている。

 スコットランド国立図書館やドイツのエレクトロニック・データ・システム(Electronic Data System)社など国内外の諸機関の協力の下,パイロットプロジェクトが1998年12月に開始された。プロジェクトに先立ち,RSLは1996年から98年にかけてソロス基金の「インターネットロシア図書館」プログラムによってサーバとワークステーションを確保し,97年にはモスクワ市の援助で光ファイバーを敷設した。また,RSLは97年から99年にかけて,独自の目録作成ソフトウェア「MEKAシステム」を開発していたため,MEKA作成データを変換して取り込むことも重要な課題であった。

 パイロットプロジェクトの計画の一つに,19世紀ロシア人作家のカード目録1万枚の遡及入力があった。これは,ユネスコが1994年に出した図書館近代化に関する報告書のなかでも優先的な課題と位置づけられていたものである。ロシアとドイツの合弁会社であるプロソフト(ProSoft)社が作業を担当し,USMARCによる入力を成功させた。

 一方,MEKAシステムからの変換作業も進められた。その結果,1998年5月以降受入のロシア語図書,1999年1月以降受入の外国語図書などを含む,約50万件のレコードを持つOPAC(http://www.rsl.ru/e_res1.htm)が完成した。

 施設の整備も進められ,1999年12月には「IT閲覧室」がオープンした。座席数は40で,インターネットやRSLが所蔵しているCD―ROM,OPACをはじめとするデータベースにアクセスすることができる。2000年6月には同様の閲覧室(座席数38)が新たにオープンした。

 新しいサービスも取り入れられた。例えば,”Russian Courier”と呼ばれる文献配送サービスは,郵便,ファックス,インターネットを通じて文書のコピーを利用者に届けるものである。また,マイクロフィルムやマイクロフィッシュの作成と提供,各種データベースの代行検索なども行っている。

 以上のようなパイロットプロジェクトのほか,RSLでは,ITに関連した様々なプロジェクトが進行中である。そのうちいくつかを紹介する。

  • (1)Open Russian Electronic Library(http://orel.rsl.ru):ロシア語の重要な電子資料(映像などを含む)を保存し,インターネットを通じて提供することを主目的とする。これにより,例えば,様々な分野のノーベル賞受賞者の論文等にアクセスできるようになった。
  • (2)Meeting of Frontiers(http://frontiers.loc.gov):米国の西部開拓,ロシアのシベリアや極東の開拓に関する文書について,2か国語(ロシア語・英語)で表記した「マルチメディア電子図書館」である。
  • (3)The Memory of Russia(http://orel.rsl.ru/pr_memory.htm):15世紀から16世紀前半の学問的価値のあるスラブ語の書物を収めたデータベースである。ベラルーシ,ロシア,ウクライナ,フランス,ユーゴスラビアの図書館が所有していた資料を電子化したのもので,インターネットで公開されている。現在,参考資料を追加する作業が進行中である。なお,このプロジェクトは,ユネスコの「世界の記憶(Memory of the World)」プログラム(CA918参照)の一部である。
  • (4)Cataloguing of Internet Resources(http://www.rsl.ru/dc):1998年にロシア基礎研究基金とソロス基金の資金提供の下で開始されたプロジェクトで,インターネット上の情報資源の目録を作成している。ダブリンコアのフォーマットとBBK分類法(ロシアの分類システム)が用いられている。

 ところで,こうしたIT化を進めていく際には,これに対応する職員の研修が欠かせない。RSLでは,閲覧サービスやデータ入力に携わる職員の研修のほかに,パイロットプロジェクトの中心的な職員に対して,英国,フランス,ドイツへの研修旅行が行われた。図書館のIT化に関してEUの多くの図書館職員との意見交換が行われた。

 パイロットプロジェクトが実施された2年の間に,図書館職員が国内外の利用者ニーズや図書館協力,資源共有などに目を向けるようになったという。RSLはロシア国立図書館(サンクトペテルブルグ),モスクワ国立大学,外国文学図書館,国立議会図書館とともにコンソーシアムを作り,TACISに対して「第3千年紀のロシア図書館」という新しいプロジェクトを提案している。また,2000年4月にはRSLとTACISプロジェクトの共催で「図書館の電子化された未来の実現」と題した国際会議が開かれた。この会議ではTACISとRSLのプロジェクトの成果が発表され,ロシアにおける電子図書館の発展について協議が行われた。このように,各国の協力を得つつ,RSLは今後,IT化をますます進めながら,その機能をいっそう発展させていくことだろう。

桂木 小由美(かつらぎさゆみ)

 

Ref.

Segbert, M. et al. Creating an information system for the Russian State Library. ALEXANDRIA 13(1) 17-25, 2001

Fuegi, D. et al. The Moscow Manifesto. [http://www.exploit-lib.org/issue6/moscow] (last access 2001. 9. 13)

RSL. [http://www.rsl.ru] (last access 2001. 10. 19)

 


桂木小由美. ロシア国立図書館のIT化. カレントアウェアネス. 2002, (269), p.3-4.
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