CA1268 – 米国の政府情報電子化をめぐる協力の動き / 幡谷祐子

カレントアウェアネス
No.240 1999.08.20


CA1268

米国の政府情報電子化をめぐる協力の動き

つい2,3年前まで,アメリカの政府情報は紙,マイクロ,CD-ROMといった媒体で発表されており,これらは政府印刷局(Government Printing Office: GPO)から各寄託図書館に無償送付され,他の資料と同じように受入・整理されてきた。しかし,1993年の「政府印刷局における電子情報アクセス促進法(Government Printing Office Electronic Information Access Enhancement Act)」や1996年の「政府刊行物改革法(Government Printing Reform Act of 1996)」が議会を通過したことからも分かるように,最近の政府情報の供給については,次第にインターネット使用の動きが高まっている(CA1149CA1220参照)。そして,インターネット上で利用可能な政府刊行物はデジタル資源の中でも,もっとも普及し,権威があり,安定したものの分野に属している。だが,果たしてそれは完全なコレクションになっているのだろうか?

1996年にネットワーク情報連合(Coalition for Networked Information: CNI)が「ネットワーク環境における連邦情報へのアクセスとサービス(http://www.cni.org/projects/fedinfo/www/fedinfo.draft.html参照)」という調査を行った。これは当初,労働統計局(The Bureau of Labor Statistics: BLS)他4つの省庁を例にとり,従来の形態でGPOを通じて得られる政府情報と,インターネット上で得られるそれとがどの程度対応しているのかを見極めることが目的だったが,調査の過程では新たな問題も提起された。例えば,インターネット上では,政府情報の中でも最も利用頻度が高く重要なものとなっている統計データが利用可能か,検索はどれくらい容易か,各省庁がインターネットの利点をうまく利用するための準備態勢を整えているか等である。このような政府情報デジタル化における過渡期の状態を調べるために,2年後の1998年にも同じ調査が行われた。

調査からは,インターネットによる政府情報の提供は少しずつ進歩し,ウェブ上でのみ利用可能な資料も出現していること等から,もはやインターネット抜きでの包括的コレクション形成は不可能になってきていることが明らかになった。一方,結局のところは,今日のデジタル政府情報は従来あった政府情報を補完する存在であり,真の代替品としては十分でないという結論が導き出された。その理由としては,印刷物でしか入手できない情報がまだまだ多いということの他にも,情報を提供する省庁側にも,受け入れる図書館側にもネットワーク環境を整備する上でコスト面の問題があること,またインターネット上で提供される情報は保存とアクセスの点で不安定であること等があげられる。

こういった問題を解決するために,政府機関と図書館の協力関係が生まれてきている。農務省(The U.S. Department of Agriculture: USDA)とコーネル大学の農学図書館であるアルバート・R・マン図書館は,その協力関係により政府情報のデジタルコレクションをうまく形成した例の1つである。

1993年,マン図書館と農務省の経済調査部(Economic Research Service: ERS)は,共同で農務省経済統計システム(USDA Economic and Statistics System)を設立した。これはERSが作成する統計データを,マン図書館のインターネットサービスを通じて提供しようとするものであった。このサービスはすぐに大成功を収め,その後農務省からは国内農業統計部(National Agricultural Statistics Service)と世界農業予測委員会(World Agricultural Outlook Board)が加わった。こうして協力関係が育つにつれて,供給されるデータの種類も増え,また新たに報告書類の提供もはじまるなどサービスは拡充していった。

現在,システムのサーバは農務省とマン図書館の共同管理の下に置かれている。マン図書館はサーバの運用を担当するだけでなく,提供されるデータや報告書を自館のコレクションに加えることによって,コレクションの強化を図っている。また,レファレンス部門は,農務省の担当者と共にシステムの利用者からの問い合わせに答えている。一方農務省の側は,インターネットサービスの一部を図書館に委ねることにより,運用コストの軽減を図るとともに,図書館が蓄積してきたサービスのノウハウを活用することによって,システムを成功させることができた。

上記のような利点を見ても,今後こうした協力関係はますます進められるべきであろう。インターネット上の政府情報へのアクセスは,ただの付加的なサービスで終わってはならない。同様にまた,電子的にアクセスできない情報の存在を無視することはできない。政府情報に関わる機関は,これからも従来の媒体とデジタル媒体の両方の世界に目配りし続ける必要がある以上,データ提供者である政府機関と,伝統的なサービス機関である図書館との協力関係は,これからも豊かな実を結ぶことと思われる。

幡谷 祐子(はたやゆうこ)

Ref: Souza, Jennifer L., et al. Government information today: the dilemma of digital collections. Collection Management 23 (3) 21-31, 1998
Lawrence, Gregory W. Building digital collections of government information: the Mann Library/USDA partnership. Collection Management 23 (3) 49-60, 1998