カレントアウェアネス
No.228 1998.08.20
CA1208
バングラデシュの図書館学教育
1947年に英領インドがインドとパキスタンに分離独立したとき,ベンガル地方の東部は,東パキスタンとしてパキスタンの一部となった。しかし,英領インドにおける図書館活動の中心であったカルカッタをはじめとする,工業化の進んだ西ベンガル地方がインド領となったため,独立当初の東パキスタンは図書館がほとんどなく,図書館学教育も行われていなかった。
1956年に設立されたバングラデシュ図書館協会が1958年に準専門職レベルの技術職員養成のための資格取得コースを開設し,バングラデシュにおける図書館学教育が開始された。その後,1959年にダッカ大学に図書館学科が設置され,学部卒業者を対象とする1年制の資格取得課程が開設された。これは最終課程であったが,資格取得者はもう1年研究を続けることによって図書館学修士の学位を得ることができた。資格取得課程は1985年まで存続した。その後,1962-63年に1年制の修士課程が設置され,1983年まで続けられた。
1971年にバングラデシュはパキスタンから独立した。ダッカ大学では資格取得課程を継続する一方で,1975年に1年制の予備課程を設置した。これは,他学科の修士課程の第1年次に相当するもので,1年制の図書館学修士課程につながっていた。また,1975年には修士課程修了者を対象とする論文修士(M. Phil.)課程が開設された。この課程への入学は1985年まで続いた。1985年には,図書館情報学士号を取得できる3年制の優等学部課程が設置された。
3年後の1988年に博士(Ph. D.)課程が開設された。この課程は修了に2-5年を要し,入学資格には学位の他に2年の教授経験と業績の証明が求められている。博士号取得には学位論文の提出が必要である。博士課程が開設されて以来,1994-95年度までに5人の学生が入学し,4人に博士号が授与されている。今日,バングラデシュの図書館専門職員のほとんどがダッカ大学卒業生である。
ダッカ大学による以上の課程の他に,ラジシャヒ大学に資格取得課程が1992年に開設された。また,継続教育プログラムに対しては,イギリス,アメリカ,ドイツ,スウェーデン,韓国,日本から援助が行われている。
バングラデシュの図書館学教育の問題点は,コンピュータに関する教育が十分に行われていないことである。ダッカ大学の図書館学課程ではコンピュータの実習がない。これは,図書館学校にコンピュータの設備が全くないためである。このような状態を改善するため,ダッカ大学図書館学科に外部からの資金援助でコンピュータセンターを設置する計画がある。
第三世界の発展途上国としてのバングラデシュの図書館学教育の現状から判断すると,課題と見通しは他の多くの国と類似している。バングラデシュにおいて必要な技術に基づく図書館学教育システムを実現するには適切な計画と努力,そして時間が必要である。
鈴木 康之(すずきやすゆき)
Ref: Fazle, Kabir. Library education in Bangladesh. Libr Times Int 13(3) 25-26, 1997
長倉美恵子 シリーズ・世界の図書館員教育10:バングラデシュ 現代の図書館31(1)65-66,1993