CA953 – 同性愛関係コレクションは是か否か:公共図書館サービスと選書方針 / 岸美雪

カレントアウェアネス
No.179 1994.07.20

 

CA953

同性愛関係コレクションは是か否か−公共図書館サービスと選書方針−

「利用者のニーズと社会の動きとに図書館は無関係ではいられない」と言えば,誰しも総論では納得することであるが,米国で人口の10%が直面しているとされる同性愛のこととなると,米国の図書館でも反応はさまざまである。

同性愛(ゲイ,レスビアン)の動きは,1969年のストーンウォールの反乱以来,顕在化してきたばかりでなく主張をもちはじめた,と言われている。このことはこのテーマを扱う資料数にもあらわれてきている。1969年以前には,関連する新聞は20紙以下,関連する図書も500タイトル以下とみられていたものが,1989年では300紙以上の新聞,9,000タイトル以上の図書が出版されているといわれる。

その一方で,このテーマに関する資料の収集は十分とはいえない,という指摘がなされている。1988年に行われた同性愛に関する出版物リストからの375タイトル抽出調査によれば,LCで所蔵していたのは半分以下であった。収集を妨げる要因としては,「同性愛の利用者は地域には住んでいない」とか,「一般的でない」「書店が扱っていない」「ILLで借りればすむ」「他の資料で手いっぱい」などが挙げられている。

こうした状況の中で,設立12年目を迎えるシカゴにあるGerber-Hart Library & Archives では,同性愛者の生活の記録を保存する活動を行っている。Henry Gerber(1896-1972)とPearl M. Hart (1890-1975)の収集していた資料をもとにしたこのコレクションは,約50人の核になるボランティアにより,土曜の午後と月・木曜の夜間に公開されている。コレクション内容は,雑誌,ビデオ,レコード,オーディオテープをはじめ手書きの原稿など多彩で,政治団体や機関の作成したペーパー,特に1970年代以前の資料は活動の軌跡を知るのにたいへん貴重な資料である。未整理の資料の中には,ポスターやイベントの際のTシャツなども含まれている。こうしたコレクション収集機関のダイレクトリーも,ALAの社会的責任ラウンドテーブルのゲイ・レスビアン・タクスホースの後援により作成され,米国,カナダ,メキシコの機関について編纂されている。

こうした活動の一方で,西部や中西部の公共図書館では,同性愛関係資料は蔵書として適切でないと非難をうけている例も報告されている。

米国の公共図書館は,伝統的に,教育機関などと並んで社会の価値を実現する場とされ,その価値観と相いれない内容や表現をもった資料に対する排除や別置の処置などを図書館に要求する例が今までもおこっているが,図書館サービスが及んでいないグループへのサービス提供という理想と,どのようにおりあっていくのだろうか。

岸 美雪(きしみゆき)

Ref: Kniffel, Leonard. You gotta have Gerber-Hart: A gay and lesbian library for the Midwest, Am Libr 24 (10) 958-960, 1993.11
Gay publications under fire in PLs, Libr J 119(2) 17-18, 1994.2.1
Gough, Cal et al. eds.Gay and Lesbian Library Service. McFraland & Company 1990
JLA図書館の自由に関する調査委員会編 『収集方針と図書館の自由』JLA 1989