CA1207 – 図書館と書店が一つの建物に-リペリ(フィンランド)の試み- / 水流添真紀

カレントアウェアネス
No.228 1998.08.20

 

CA1207

図書館と書店が一つの建物に
−リペリ(フィンランド)の試み−

フィンランドの東部に,リペリという人口1万2千人の町がある。リペリは,豊かな土地と美しい景色を持つ,湖の岸に広がる田舎町である。

リペリでの図書館の歴史は,1845年につくられた教区図書館に始まる。1929年にはフィンランドで図書館法が施行されて公立になった。分館も徐々に整備されて最盛期には18館あったが,1973年,移動図書館がきめ細かく巡回するようになって整理され,2館だけが残された。1980年代後半には新しい建物がつくられ,図書館システムもすべてコンピュータ化された。この数十年で図書館は大きく進歩し,貸出冊数も1961年の1万6千冊から1996年には23万冊に,住民一人あたり19冊にもなっている。

しかし,1990年代になると国内外で景気が悪化し,リペリでもこれまでと同じようには公共サービスに投資できなくなった。それは図書館でも同様で,経済的にもっと有利な,これまでとは異なるサービスを考える必要がでてきた。

そこで,文部省やフィンランド図書館協会などの支援も受けて新しい計画がたてられた。リペリの人々がサービスの変化をどう受け止めるか,経済的にはどうか,といったことが分析され,その結果,図書館利用者はこれまでの基本的なサービスに加えて,新しいサービスにも興味を持っていることが分かった。新しい事業とは,例えば,本やCDの販売,ビデオレンタルなどである。もちろん,人によって要求は様々であり,伝統的なサービスと,新しいサービスの両方が求められた。

リペリでは,結局,図書館と書店を同居させるという方式が採用された。これにより,図書館は従来通りの予算以外に,新たに家賃等書店から受け取る収入を独自の財源として持ち,図書館活動のために使うことができるようになった。書店は,家賃を支払って図書館施設の一角で営業し,使用料を支払って図書館の設備やデータベースを使い,必要に応じてパートとして図書館職員を雇って書店を手伝ってもらう,という契約を図書館と結んだ。

書店経営者にとっては,新しく書店をつくる際,図書館の設備やデータベースを使えることは非常にありがたいし,本に関しての専門的知識を持つ図書館員に必要な時だけ手伝ってもらうことができるのも便利である。図書館内の書店が開店したのは,1996年7月。一年ほど経った時点での利用者の反応は非常に良い。書店で新刊書を見つけ,図書館で予約したり借りたりすることができるし,反対に,図書館で見たものを書店で注文することもできるからだ。

一つの建物に図書館と書店が同居することによって,それぞれの利用者を取り込むことができる。両者は決して競争相手ではないとはわが国でも良く言われることだが,リペリでのこの試みは,こうした両者の好ましい連携のあり方を図らずも示しているのかもしれない。財源の問題や複数書店が存在する場合など,どこの町でもできることではないだろうが,図書館と書店の関係を考える上で,興味深い事例ではある。

水流添 真紀(つるぞえまき)

Ref: Kontkanen, Laila. Library and bookshop under the same roof in Liperi. Scand Publ Libr Q 30 (4) 24-26. 1997