カレントアウェアネス
No.228 1998.08.20
CA1206
地図の保存状況調査
蔵書の保存計画をたてる際には,保管される蔵書の物質的状態を評価することが不可欠の要素である。しかし,これまで評価について論ずるときは主に図書が対象で,地図資料については保存方法や取扱い方にのみ注意が向けられ,評価の問題は取り上げられなかった。
地図には特別な扱いが必要とされる。図書には保護となる表紙がついており綴じられている。また,目録をとりラベルを貼り書架に排架されるため,保管や検索が比較的容易である。一方,地図は綴じられておらず形態・用紙も様々であり,目録をとっている地図図書館が半分位しかない。地図は垂直に吊り下げられるか,キャビネットの中に平らに置かれるか,丸められるかの方法で保管されている。したがって,これらの違いをみても地図の物質的状態を調べるために図書とは違った基準が適用されてしかるべきである。
パーデュー大学図書館では,米国研究図書館協会(ARL)の助成による,資料保存計画策定プログラムの一環として,地図コレクション(14万枚)の中から,サンプルとして378枚の地図をランダムに選び,物質的状態を評価した。評価項目としては,出版社,刊行年,酸性度,もろさ,脱色度(色落ち),しみ,インクや鉛筆で書かれた跡の有無,破けている箇所の面積,破損箇所をセロテープで貼りつけた面積,折り目,端のすり切れ,しわの13種類をあげた。損傷のないものを0点,ほとんど問題とならない程度のものを1点,かなりの程度のものを2点と,損傷の程度を点数化した。
以下はその調査結果である。
- コレクションを構成する地図の発行者の85%は合衆国地質調査所,カナダエネルギー鉱山資源局である。また発行年は1950年以降が多い。コレクションのこうした特徴は第二次世界大戦後にできた地図寄託図書館制度によるものと考えられる。
- 10年ごとの地図の脱色度についての調査によると,発行後20年たった地図の脱色が著しい。
- 発行後40年たった地図から折り切れ,もろさが出始める。
- 所蔵地図資料の90%が酸性紙である。
- 7%に鉛筆またはインクによる書き込みがある。書き込みの多くは図書館員によるものである。
- 折り畳み地図の36%は最初の折り目の部分から損傷を受けている。
- 端のすり切れやしわについては,想像していたよりもはるかに損傷の程度が軽かった。印象と実態が食い違っていたのは,キャビネットの中に平らに置いた地図の場合,一番上の地図に傷みが集中するため,コレクション全体が傷んでいるような印象を受けたからであろう。
- 図書と比べた場合,破損している資料の割合が高かった。製本等の保護措置がとられている図書と,そうなっていない地図の違いからきたと思われ,地図には特別な保管上の配慮が必要であることを示している。
評価項目 | 0点 | 1点 | 2点 | 1または2点 | 計 |
もろさ | 352 | 9 | 17 | 26 | 378 |
脱色 | 240 | 138 | 0 | 138 | 378 |
しみ | 342 | 34 | 2 | 36 | 378 |
端のすり切れ | 202 | 66 | 10 | 76 | 378 |
破損 | 305 | 57 | 16 | 73 | 378 |
過去の折り目 | 338 | 26 | 14 | 40 | 378 |
現在の折り目 | 341 | 15 | 22 | 37 | 378 |
テープ補修 | 354 | 6 | 18 | 24 | 378 |
しわ | 283 | 91 | 4 | 95 | 378 |
インクの印 | 352 | 13 | 13 | 26 | 378 |
形態・用紙の大きさがまちまちで,枚葉単位が中心の地図資料は,一般図書と比べ保存・保管の点で厄介な資料である。国立国会図書館地図室でも頻繁な利用提供とその納架作業が伴うため,資料の保存は大きな問題である。日ごろ保存方法や取扱い方には注意を払っているものの,地図資料そのものの物質的状態を調査することは考えてもみなかった。一般の図書とは異なった評価項目をたてて物質的な状態を調査したこの研究は高く評価できるものであり,地図室で所蔵資料について調査する際にもその方法論は大いに参考となるだろう。
小澤 知子(おざわともこ)
Ref: Allen, R.S. Map collection physical condition assessment survey: methodology and results. Bull-Spec Libr Assoc, Geog Map Div (184) 11-27, 1996