CA1310 - アフガニスタンの図書館事情 / 熊谷尚子

カレントアウェアネス
No.247 2000.03.20


CA1310

アフガニスタンの図書館事情

アフガニスタンは1978年の軍事クーデター以降,ソ連の侵攻,ゲリラ組織の対立を経て1996年にタリバーンが支配権を握るまで,長い間混乱が続いた。社会・経済は破綻し国内外に300万もの難民を出している。そうした状況を反映して図書館も公共・私立を問わず深刻なダメージを受けた。以下,アフガニスタンにおける図書館の発展経緯と現状を紹介する。

アフガニスタンの図書館は,王の一族ナシル・ウッラー・ハーンが,所蔵する彩飾写本のコレクションを1924年に一般に公開したことにはじまる。しかし,同館はほどなくして内戦で破壊され,公共図書館の本格的な発展は1950年代をまつことになる。1956年にカブール公共図書館が国家5ケ年計画のもとに開館し,ユネスコの専門職員の指導を受けて,以後の公共図書館のモデルになった。大学図書館は1964年のカブール大学中央図書館開館を皮きりに整備が進んだ。1972年には国立公文書館が設立された。また,公共施設(官庁・博物館・学校)に図書館が付置された。人材育成面ではカブール大学と教員養成アカデミーに図書館学の基礎講座がおかれた。1971年にはアフガニスタン図書館協会が結成されている。

ユネスコは1950年代にIFLA等と連携して第三世界の図書館振興事業に力を入れはじめ,アフガニスタンには6回の専門家派遣(expert mission),2名の留学,資金補助等で援助した。他のアジア諸国に対するものと同様,ユネスコの図書館政策は基礎教育・成人教育支援事業と密接に関係していたと思われる。

こうしてアフガニスタン戦争当時には全国的な公共図書館網が形成されていたのが,戦争やそれに伴う略奪などにより,そうした基盤は失われてしまった。例えばかつて豊富だったカブール公共図書館の蔵書―アラビア語・ペルシア語・ロシア語の貴重な資料を含む―は全くの無秩序状態にある。書籍は床に積まれ,紛失した書籍は8,000冊にものぼると推定される。国立公文書館は1993年以降閉鎖,貴重な写本の保存状態が危惧される。1995年に開館していた6カ所の大学図書館の中では,カブール大学図書館が最大の被害を受けた。戦前の豊富な蔵書の約半数は略奪やロケット攻撃による火災にあい,損失は15万冊に達するという説もある。

現在図書館は共通の問題を抱えている。つまり,専門的人材の欠如,および書籍がいい加減に整理され,しかも大部分が深刻なダメージを被り保存環境も劣悪という事実である。代わりにパキスタンに拠点をおくNGOが人々の情報源になっている。例えばACBAR(Agency Coordinating Body for Afghan Relief)やSIEAL(Sanayee Institute of Education and Learning)は整備された蔵書を持ち,利用度が高い。

識字率向上および成人教育は公共図書館の重要な役割だが,既存の施設は大都市に集中しているため,その多くが地方に住んでいる国民に対する働きかけが弱い。1995年の識字率は32%と世界最低水準にある。これに対して1994年,ACBARの資料情報センター(ARIC)が他のNGOや国連と協力して,ABLEプロジェクト(ARIC Box Library Extension Project:巡回文庫を通じて利用者に本を供給するプロジェクト)を開始した。各文庫は一個の金属製ケース(高さ60×幅45×奥行き30cm,内部は上下二段に仕切ってある)で約200冊のダリー語・パシュトー語の本,雑誌,小冊子,子ども向けの本を収納する。本箱は車に積まれて各地を巡回し,公共施設(学校・病院・モスク・バザール)に置かれる。貸出した資料は数週間後に回収される。現在,30の巡回文庫がアフガニスタンの32地方中22地方で活動している。同プロジェクトの目的は教育的な読書資料の供給および「読むことの楽しさ」を広めることである。利用者と書籍数は絶えず増加しており,人々の利用マナーは良好で書物を尊重する気風があるという。難民キャンプや他のNGOでも同種の試みが進められており,人々の関心は非常に高い。

古来アフガニスタンは「文明の十字路」と称されてきた。イラン高原北東部,中央アジアと南アジアの要衝にあって諸民族・文化が交錯し,さまざな王朝が文化をはぐくんできたからである。特にヘラート周辺は11世紀以降ペルシア文学の中心となり,15世紀には為政者による文芸保護が隆盛した歴史を持つ。書物の尊重はこうした風土によるものであろう。アフガニスタンが困難な状況を乗りこえ,過去の遺産を保持していくとともに,再び豊かな文化の担い手となる日がくることを願う。

熊谷 尚子(くまがいしょうこ)

Ref: Encyclopedia of Library and Information Science. 1, 111-118, 1968
Dupree, Nancy Hatch. Libraries in Afghanistan. Int Preserv News (19) 20-27, 1999
Stephen, Perker J. Unesco and Library Development Planning. Library Association Publishing, 1985. xvi, 493p.
宮部頼子 ユネスコの対途上国図書館開発事業に関する一考察:初期20年間の対アジア・アフリカプログラムを中心に 図書館学会年報 34 49-59,1988