CA1146 – 書庫管理に関するISO規格 / 永村恭代

カレントアウェアネス
No.217 1997.09.20


CA1146

書庫管理に関するISO規格

近年,資料を保存するのに,資料が傷んだ後に技術を用いて資料に干渉するより,資料が傷む前に書庫環境を整備して予防しようという考えが広まってきている。書庫環境の考え方も,温度・湿度を管理するといった今までいわれてきたことに加え,安全管理等を含み幅広くなっている。こうした背景もあり,ISO/TC46/SC10(用語解説T25参照)で,バンザ博士(Dr.Helmut Bansa)がリーダーを務める作業グループ(WG3)は現在「図書館と文書館書庫の必要条件」(CD 11799,参照番号ISO/TC46/SC10 N105)と題した国際規格の草案の検討を進めている。

いままで,国により独自に書庫の規格を出版したものはある。例えば,イギリス国家規格では,BS5454:1989「文書館資料の書庫と展示」で,書庫の立地条件,建物の構造と材質,資料の安全管理,火災警報や消火設備,書庫内環境(イギリスの気候に基づく),照明,備品,展示,メディア変換の際の注意を示している。しかし,国や地方により気候や経済状況が異なる中,書庫環境の詳細を国際規格で定めることは難しい。そこで,ISOの草案では,絶対こうしなければならないと言うことは避け,新しい書庫の建設や既存の書庫の改装時の参考になる一般的なルールを示している。ただし,閉架式書庫での資料の使用と長期保存を前提にしている。また,図書館と文書館には様々なメディアが一緒に保管されているが,写真資料,機械可読データ媒体等に関しては,例えば,写真資料についてのISO5466:1992(JIS K7641:1994「写真−現像処理済み安全写真フィルム−保存方法」),ISO6051:1992(JIS K7642:1994「写真−現像処理済み写真印画紙−保存方法」)など,それらを専門に扱う規格に任せている。

草案の内容を章ごとにみていくと以下のようになる。1.範囲,2.参照規格,3.定義,4.建物の立地条件(自然災害や公害のある場所は避ける等),5.建物の構造(大きな建物の一部でも安全管理が出来るようその中で独立していること。建物の材質は,外壁,屋根,床は外界の気候の変化に室内が影響を受けないもの,書庫の内壁,床,天井は保湿性,吸湿性の高いものにすること。火災時の安全と効率的な気候のコントロールの為,書庫の区画は200m2か600m3を越えないこと等),6.設備と備品(火災感知器,火災警報機,消火システム,侵入者警報機,照明設備,換気設備,温度・湿度監視装置。温度と相対湿度の急な変動を避けるといった室内環境。棚などの備品への注意等),7.書庫の利用(書庫の清掃。箱,製本,書類ばさみ等での資料保護。資料を書架に収める際の注意等),8.災害対策計画,9.展示(展示の際の照明の注意等),添付文書A.大気汚染の最大限度,添付文書B.災害対策計画に含むべき12項目(建物の構造の把握,貴重書の場所の詳細や閲覧などで貴重書が移動しそうな場所の把握,資料修復の専門家や勤務時間外に連絡が取れるスタッフの住所と電話番号)。

この草案は,最近では1997年5月にロンドンで開かれたTC46総会にかけられている。今後の会議の予定はISOのホームページ(http://www.iso.ch/)のISO meeting calendarで確認することができる。

永村 恭代(ながむらやすよ)

Ref: ISO & Document storage requirements. Abby Newsl 19 (6-7) 93, 1995
ISO CD 11799 Storage requirements for library and archive materials.
BS5454: 1989 British Standard recommendations for storage and exhibition of archival documents.