CA1460 – 図書館統計の国際標準化における動向 / 徳原直子

カレントアウェアネス
No.272 2002.06.20

 

CA1460

 

図書館統計の国際標準化における動向

 

はじめに

 本稿では図書館統計の国際標準化,すなわち,国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)で定められた国際規格,ISO2789国際図書館統計(1)の内容とその動向について述べる。

 ISOの図書館統計に関わる活動は,図書館等の情報機関に関わる標準化を扱う専門委員会TC46(Information and Documentation)の中の分科会SC8において行われている。最近の動向については,ISO/TC46のホームページ(2)より情報を得た。

 

1.現在までの動向

(1) 1974年ISO2789制定の経緯

 図書館統計が国際レベルで収集されたのは,1950年のユネスコ(UNESCO)によるものが最初であった。以来2年ごとに各国の図書館統計データが収集され,1970年に第16回ユネスコ総会で「図書館統計の国際的標準化に関する勧告」が採択された後は,3年ごととなった(3)

 ISOとユネスコとの協力関係は,ユネスコの「図書館統計の入手と比較の可能性」と題された報告書(Unesco/STR/13. Paris. 8th June 1953)から始まった。1966年にハーグでISOと国際図書館連盟(IFLA)共催の図書館統計に関する会議が開催されると,ユネスコ,ISO,IFLA三者の協力関係ができ,前述の「勧告」はその成果として生まれた(4)

 ISOの国際図書館統計の規格制定にあたっては,このユネスコ勧告と同一の内容で国際規格原案(DIS)が提案された。1972年秋にハーグで行われたISO/TC46第14回総会では,DISは無修正のまま国際規格となることが決議され(5),その後,1974年に最初のISO2789が制定・出版された。

(2) 1974年の内容と1991年改訂までの動き

 制定の経緯から見て,ISO2789の内容はユネスコの勧告と同一であるため,『ユネスコ文化統計年鑑』を参照することでその内容の把握と,その後の動きを追うことができる。

 1980年版の『ユネスコ文化統計年鑑』(3)の内容を紹介すると,第1表に各種図書館とその蔵書数の国別統計があり,他表に館種ごとの詳細な統計が掲載されている。その統計項目は,次のとおりである。

 管理単位数/奉仕の拠点数/コレクション(図書(6)・マイクロフォーム・視聴覚資料・その他の図書館資料)/年間増加数(冊・その他の資料)/登録借用者数/利用者貸出図書数/相互貸借数/経常経費(計・人件費)/職員数(資格保持者・職場訓練者)/奉仕対象人口(6)

 『年鑑』における1991年までの主な変更点としては,1980年より[1]コレクションと年間増加数に視聴覚資料とその他の図書館資料を加えたこと,[2]利用者貸出図書数に相互貸借に関する図書数を含めたこと,[3]相互貸借数の計上方法が図書数から申込受付(および貸出実施)件数になったこと(3),1987年を最後に[4]専門図書館の統計収集が中止になったこと(7),などが確認できるが,統計項目自体に大幅な変更は見られない。したがって,1974年以降1991年までの間,ISO2789自体にも大きな変更はなかったと類推される。

(3) 1991年の改訂(第2版)の内容

 ISO2789第2版のための作業も,ISO,ユネスコ,IFLA三者の協力のもとに進められた。1991年に改訂された第2版と1974年の第1版との違いは,慶應義塾大学の糸賀雅児氏によると,主として次の3点である。

  • [1]公共図書館と学校図書館について,蔵書規模別に設置単位数を数える際の規模のランク分けが変更された。
  • [2]所蔵・増加・廃棄の各資料統計における資料のタイプ分けが,音楽資料やオーディオビジュアル,グラフィック,エレクトロニックなどの新しいメディアにも対応するものとなった。
  • [3]相互貸借について,貸し出しと借り受けの両方とも申し込み件数と充足件数とを数えることになった(4)

 

2.最近の動向

(1) 改訂(第3版)に向けた動き

 現在,ISO2789:1991の改訂版となる第3版を準備中である。

 第3版に向けた作業グループ(WG)の設置は,1997年5月にロンドンで行われたISO/TC46第27回総会で決議された(8)。その後,1998年5月のアテネ・ミーティングで新規業務として承認され,ISO2789改訂に向けてSC8の作業グループWG2が最初の標準化原案(WD)を作成することが決定された(8)。WG2の事務局はドイツ規格協会(Deutsches Institut fur Normung : DIN)が務めている。

 委員会原案(CD)の投票期間は1999年12月〜2000年4月,国際規格原案(DIS)の投票期間は2001年2月〜2001年7月であった。DIS投票では,11か国から全部で60枚におよぶレポートがコメントとして提出されたが,15か国中14の賛成を得て承認された(9)。2001年11月に作成された国際規格最終案(FDIS)(10)は,膨大なDIS投票時のコメントが反映されたためか,DISとは章立てから異なり,特に電子的サービスの利用の測定に関する部分に変更が目立った。FDIS投票はこれから行われ,その投票期間は2か月間である。国際規格になるのは,早くとも2002年度末と思われる。

(2) 第3版(FDIS:2001)の内容

 1991年の第2版と比較すると,第3版の内容は大幅に変更されている。顕著な変更点としては,電子図書館サービス,電子的サービス,蔵書としての電子情報資源の利用に関する統計項目の追加,1998年に制定・出版された「図書館パフォーマンス指標(ISO11620)」(11)に対応するための新たな統計項目の追加である。

 注目すべきは,第3版で新たに追加された付属書Aであろう。付属書Aでは,電子図書館サービスの利用を測定するための新たな統計項目を提案し,その測定上の問題点,電子的サービスと電子蔵書(electronic collection)の関係性・位置づけについて詳細に記述している。現在こうした統計項目について検討している図書館にとって,有効な指針となり得るだろう。

 今回の改訂版中,定義用語または統計項目において新規追加・変更があったもので,特に興味深いものを以下に示す。

  • [1] 資料種別に関わる定義用語の変更・追加

     電子資料(electronic document)はこれまでマイクロフォーム以外のすべての「機械可読形態資料」を包含していたが,定義の中に電子資料に関連する次の12の用語が用意された。

     抄録・索引データベース/アクセス権(access right)/CD-ROM/データベース/デジタル資料/電子図書/電子蔵書(electronic collection)/電子雑誌/全文データベース/マルチメディア資料/その他のデータベース/その他のデジタル資料。

  • [2] 電子蔵書として収集する統計項目の追加

     電子図書,その他のデジタル資料,無料インターネット資源,データベースの項目が追加され,雑誌の下位項目に,冊子・マイクロフォーム,電子雑誌,の項目が追加された。

  • [3] 「図書館パフォーマンス指標(ISO11620)」に必要な統計項目の追加

     実際に借りた利用者(active borrower)数,貸出資料数,開架資料利用数,館内利用資料数,来館利用者数,開館日数,座席数,ワークステーション数の項目が追加された。

  • [4] 電子的サービスの利用に関わる統計項目の追加(付属書Aより)

     積極的に集めるべき項目として,セッション数,ダウンロードされた資料数,ダウンロードされたレコード数,仮想来館者(virtual visit)数が示された。

 

 おわりに

 現在,「図書館パフォーマンス指標(ISO11620)」の日本工業規格(JIS)化が進められている。図書館パフォーマンス指標とは,図書館の使命・目標に照らして,図書館サービス・活動の質および有効性を評価するものである。これに対し,図書館統計は図書館の比較・評価に用いられてきたものの,業務報告の色合いが強い。しかし今後は,図書館統計が図書館パフォーマンス指標の影響のもと,サービスの効率化・有効性を測る「図書館評価」の観点で語られる機会が増えるに違いない。ISO2789のJIS化はまだ検討されていないが,そうなれば,統計数値の標準化の必要性が高まり,JIS化の要求も出てくることになろう。

 最後に,本稿で紹介した第3版は国際規格最終案(FDIS)であり,変更の可能性があることに留意されたい。

資料提供部複写課:徳原 直子(とくはらなおこ)

 

(1) 現行の国際規格は ISO2789:1991 Information and documentation − International library statistics. 1991. 9p
(2) ISO/TC46. [http://isotc.iso.ch/livelink/livelink] (last access 2002.4.30). ISOのホームページ[http://www.iso.ch/]からもアクセスできる。
(3) 7図書館 ユネスコ文化統計年鑑 1980.p.915-978
(4) 糸賀雅児 ISO/TC46関連規格解説シリーズ 第2回図書館統計 情報・ドキュメンテーション標準化ニューズレター (2) 1-15, 1992
(5) 太田泰弘 ISO/TC46ドクメンテーション第14回総会報告 ドクメンテーション研究 23(1) 13-22, 1973
(6) コレクション中の「図書」は,書架メートルと冊数の表示となっている。「奉仕対象人口」は,公立図書館と学校図書館だけ表示されている。
(7) 『ユネスコ文化統計年鑑』1991年版によると,“専門図書館の統計数字は1984年と1987年の調査から得られた。様々な理由により,専門図書館の調査は当分の間中止している。”とある。
(8) 杉山時之 1997年度ISO/TC46ロンドン総会出席報告 情報・ドキュメンテーション標準化ニューズレター (9) 2-5, 1998
(9) (2)のホームページ内「04Projects」フォルダ内 「2789 DIS Result of voting」(last access 2002.4.30)
(10) ISO/FDIS2789:2001. Information and documentation − International library statistics. 2001. 47p. (2)のホームページ内「04Projects」フォルダ内 「FDIS2789 E011122」(last access 2002.4.30)で参照できる。
(11) ISO11620:1998 Information and documentation – Library performance indicators. 1998. 56p

 


徳原直子. 図書館統計の国際標準化における動向. カレントアウェアネス. 2002, (272), p.3-5.
http://current.ndl.go.jp/ca1460