CA1111 – 中国の情報規制、インターネットにも / 渡邊幸秀

カレントアウェアネス
No.210 1997.02.20


CA1111

中国の情報規制,インターネットにも

高い経済成長を続ける中国では,95年パソコンの販売台数が100万台を超すなど,情報化社会突入の兆しが現れている。インターネットも中国科学院などの研究機関や大学,外資系企業などでの利用が始まり,95年には一般市民にも開放された。その利用者数は95年7月の段階で4万人に達し,96年11月には北京に本格的なインターネット・カフェもオープンした。

しかし中国政府は経済建設のためこうした情報産業の発展を奨励する一方で,その利用の規制にも力を入れ始めた。その第一歩が96年2月に公布された「コンピューター情報ネットワーク国際接続管理暫定規定」である。この規定により国の安全に危害を加え,国の秘密を漏らすような行為やポルノ情報への関与は禁止され,インターネットの利用者は郵電省の提供する回線を使用し,政府の主管部門に登録しなければならなくなった。これに違反すると最高1万5千元の罰金が課される。また同月この規定をふまえ公安省はインターネットを利用する際には30日以内に公安機関に届け出るよう義務づける通知を出した。

これに先立って96年1月にも政府は国内でのインターネットヘの新規加入を制限する通知を出している。理由は接続能力が限界にきており,設備の拡充が必要であるということであったが,以上のような一連の措置と関係があるという見方もある。5月に接続サービスの受け付けは再開されたが,9月には中国政府が具体的に100以上の「有害情報」を指定し,国内の接続業者にこうした情報を接続しないよう指示したことが明らかになっている。その「有害情報」の対象は海外の民主化運動団体やチベット亡命政府などのほかに,香港・台湾の報道機関やワシントン・ポスト,ニューヨーク・タイムズ,CNNテレビにまで及んでいる。

中国は天安門事件以後,西側の「平和的転覆」(武力ではなく情報など平和的手段で体制の崩壊をはかること)を恐れ,党や政府に都合の悪い情報,特に海外の反体制組織などからの情報の流入を警戒してきた。またポルノも従来から精神汚染の元凶として排斥の対象となっていた。その上最近中国では経済が発展するにつれて,モラルの低下,治安の悪化といった負の現象が顕在化し,政府は思想的な引き締めでこれを矯正しようとやっきになっている。こうした中で規制の対象は国外の新聞・雑誌,映画やビデオ,さらに衛星放送と広がり,ついにインターネットにまで及ぶことになったのである。

では実際に規制は可能なのであろうか。西側のみならず中国の専門家もそれについては否定的である。米国務省のジョン・フォアード氏は「中国国内にあるパソコンをすべて破壊しないかぎり不可能であろう」と語り,中国科学院の路甬祥副院長も「実際の規制は難しい」とし,有害情報を規制するには「自動的に有害情報を見つけるソフトの開発すら必要になる」と見ている。

渡邊 幸秀(わたなべゆきひで)

Ref : American Libraries 27 (5) 1996.6
北京週報 44,1996
日刊中国通信 1996.3.8
朝日新聞 1996.2.16
読売新聞 1996.5.8;11.16
日本経済新聞 1996.1.19;2.5;9.17
産経新聞 1996.9.14;11.16(夕刊)