CA1075 – アメリカの図書館と障害者法(1) / 田中邦夫

カレントアウェアネス
No.203 1996.07.20


CA1075

アメリカの図書館と障害者法(1)

1990年7月26日に制定された米国の『障害をもつアメリカ人に関する法律』(Americans with Disabilities Act: ADA)は障害者差別の撤廃を目指す画期的な法律である。法律の第2章「公的サービス」では公共施設および公共交通に対する障害者のアクセスの保証を含み,第4章「電気通信」では聴覚障害者による情報の獲得を保障するシステムの設置を定めている。

図書館はわが国の『図書館法』の諸条項にも見られるように代表的な公共施設であり,建築物としての図書館へのアクセスの保障,および図書館資料に対するアクセスの保障は,ADA制定後の米図書館界の急務であった。

以下この問題について,まず制定時の米図書館界の疑問と対応を一問一答式に述べているLibrary Journal誌の3回連続の記事から,いくつかの事例を選んで紹介し,さらに(次号)ADA制定後の動きの一つを紹介することにより,ADAが図書館界に与える影響を具体的に見てみたい。

 ADAは図書館に対してどういうことを要求しているのか。
 公立の図書館は1992年1月26日以降,障害をもつ就職希望者及び職員に対して差別を行ってはならない。また公立私立を問わず一般公開されている図書館は,同日より遅くない時点でサービスにおける差別を撤廃する。

 図書館の駐車場に「障害者用」駐車スペースをいくつ作ればよいか。
 「障害者用」駐車スペースは,より正しくは「アクセス可能な(accessible:障害者に利用しやすい)」駐車スペースというべきである。ADAの規定では25の駐車スペースのうち少なくとも1つがアクセス可能でなければならない。アクセス可能な駐車スペースは13フィート(約4m)以上の幅をもたなければならない。多くの図書館で「アクセス可能」と指定されているところは,12フィート(約3.7m)ないしそれ以下の幅しかない。

 図書館建築においてもっともよく見られる障壁(barrier)は何か。
 図書館の中には障壁が多い。アメリカの図書館でアクセス可能な洗面所を有するのはおそらく50%以下であろう。例をあげると,1)ペーパータオルの容器の位置が高すぎる。2)「アクセス可能」のつもりらしいトイレのストールが狭すぎ,手すりが不十分で便座の高さも不適切。3)小便器の位置が高すぎる。4)鏡の最下部が高すぎ床から40インチ(約1m)以上である。5)一番よく見られるのは,蛇口の金具を捻らなければ水の出ない水道。さらに,6)光および音による火災警報機が備えられていない。閲覧者用スペースでは光による警報機が50フィート(約15m)に1つはなければならず,またそれが煙で隠れないように天井から最低6インチ(約15cm)は離れていなければならない。7)別の階に行くのに階段しか使えない。8)閲覧室や主題室,その他の場所を示すための点字その他の表示がない。(設備の位置や寸法についてはそれぞれ基準となる細かい数値がある。)

 視覚障害のある閲覧者が参考室にリーディング・マシン(RM)を設置するか,あるいは朗読者を用意してほしいと要求した。これはADAが求めていることに当たるか。
 ADA第2部に関する施行規則によれば,RMないし朗読者は必要なときには提供されるべき補助具ないしサービスである。注意すべきはこれらはどちらかを用意しておけばよいというものでないことである。たとえばラテン語やアラビア語に使えるRMはない。この場合専門の朗読者が必要となる。図書館がRMや朗読者を提供することを免じられるのは,それが費用その他の面で過重な負担(undue burden)であることが証明された場合のみである。

 図書館はその主催するすべての行事に手話通訳を用意しなければならないのか。
 「専門の通訳」は提供すべき補助手段やサービスのリストに載っている。従って図書館のサービスエリアに手話を使う人がいて,行事に参加したいと望んでいれば通訳を提供すべきである。そのための費用が過重な負担であるとの決定が図書館長によってなされ,書類が提出された場合はこの限りではないが,たとえば「聴覚障害者サービスセンター」のような組織を利用すれば,それほどの費用は必要ない。

田中 邦夫(たなかくにお)

Ref: Gunde, Michael. Working with the Americans with Disabilities Act, 1〜3. Library Journal 116 (21) 99-100, 117 (1) 41-42, 117 (21) 90-91, 1991-1992
中野善達他編著 障害をもつアメリカ人に関する法律 湘南出版社 1991
田中邦夫「障害をもつアメリカ人に関する法律」施行後の反響と対応 レファレンス 44 (3) 88-95, 1994