CA1054 – 学部学生用図書館のガイドライン / 中川真紀

カレントアウェアネス
No.198 1996.02.20


CA1054

学部学生用図書館のガイドライン

学部学生用図書館は,大規模大学において総合図書館とは別に独立して設置される,学部学生のための図書館のことである。今世紀中頃,米国の大学図書館では,大学のマスプロ化に伴って大量に入学してくる学生への対応が問題になっていた。同時に大学院レベルの教育も拡大されたために,研究書が増加して学部学生用の図書を探しにくくし,さらに目録などの検索手段も複雑高度になったことで,図書館をうまく使いこなせない学部学生が大量に出現することとなった。そのため,学部学生へのサービスと教員・院生へのサービスを分離して,学部学生のために基本図書を揃え,学習を援助するとともに,研究図書館への適切な橋渡しとなるようなサービスを提供する図書館を設置することが提唱され,1949年にハーバード大学に最初の学部学生用図書館であるラモント図書館が誕生した。その後,他の大規模大学でも,それぞれの大学の特徴を重視した学部学生用図書館が作られるようになっていった。

1960年代初めには米国,カナダ合わせて10館ほどであった学部学生用図書館は,1965年には20館,1970年には46館にまで増えた。しかし,その後,財政の緊縮に伴う大学経営の合理化や,大学教育の変化などに伴って,館数は一転して減少に向かう。1972年には49館あったのが,1977年には37館にまで減少した。存続している館も,環境の変化に応じて自らの役割を見直し,組織改革と技術革新の導入により,より効果的なサービスの提供をめざすところが多い。

米国大学研究図書館協会(ACRL)の学部学生用図書館ディスカッショングループ(UGL)は,関係者のフォーラムとして,このような学部学生用図書館の活動の見直しにおいて大きな役割を果たしてきた。

1979年にUGLは役割声明(mission statement)を発表した。これには学部学生用図書館の目的と意義を明確にし,求められるニーズを反映するサービス哲学を育てようとする狙いがあった。また各館が自館の役割声明と比較することで,学部学生用図書館の活性化へと結びつけようとする意図もあった。役割声明では,図書館の利用方法を教えることが学部学生用図書館の基本サービスだとして,レファレンスサービス,オリエンテーション,文献利用指導などの教育プログラムの重要性が述べられた。1987年には改訂が行われ,資源(資料,サービス,職員)への公平なアクセスの保障が追加された。

こうした役割声明をベースとして,UGLは1995年に役割を遂行する際の指針となるガイドライン(草案)を発表した。ガイドラインは,次の6項目から構成されている。

利用環境 学部学生は,研究図書館を利用するための調査技術を習得する必要がある。図書館は,学生が質問しやすいユーザフレンドリな環境を用意し,また,カリキュラムのなかで図書館の利用指導を行うよう教員に働きかけることが求められる。

コミュニケーション レファレンスサービスや図書館の利用指導を行うなかで,図書館員は学生との効果的なコミュニケーションを心がける必要がある。

プログラム 学部学生が必要とする情報を明らかにし,各種の教育プログラムを実施して,必要な情報を効果的に入手できるよう情報リテラシーの技術を身につけさせる。また,レファレンスサービスでは,質問に答えるだけでなく,データベースの紹介や検索方法の指導といった,広く情報源へアクセスするためのサービスにも重点をおくべきである。

資源 効果的な学習環境のための快適なスペースの確保とともに,授業で使われる資料は予約や複本購入を行って確保し,また幅広い主題範囲の一次資料と,スタンダードで基本的な二次資料を集める必要がある。

評価 サービス,コレクションとアクセス,環境,予算の4つの点から学部学生用図書館の評価ポイントを質問文の形で具体的に多数挙げている。(例えば,サービスの項目では,“利用者調査や統計の収集は効果的に行われ,活用されているか?”とか,“新入生の数に対するサービススタッフの人数の割合はどれくらいで,それは適正であるか?”など)学部学生の要求にこたえ得るものであるかどうかといった基礎的な評価の他に,カリキュラムの援助や新技術の導入への柔軟な対応なども,評価ポイントに挙げられている。

活動の見直し 学内の他の組織から日常的に受ける評価と,定期的に実施する公式評価の2つの評価から,活動の見直しを行うべきである。継続的な見直しによって,学部学生用図書館の資源(財源)と任務のバランスを保つことができる。

役割声明ではレファレンスサービス,文献利用指導,オリエンテーションといったプログラムの重要性が述べられていたが,ガイドラインでもそうしたプログラムを通して学部学生に図書館の使い方,情報リテラシーの技術を身につけさせることが強調されている。

わが国でも各大学図書館で自己点検,自己評価が報告されているが,その拠り所となる役割声明やガイドラインはない。明らかにされた現状や課題への対応を考える際には,この種の道標が必要となるのではないだろうか。もちろん評価が繰り返されるたびに,それに合わせて道標も見直しが必要となるであろう。

東京工業大学附属図書館:中川 真紀(なかがわまき)

Ref: Person, R.C. A New Path: Undergraduate Libraries at the United States and Canadian Universities, 1949-1987. Greenwood, 1988
The mission of an undergraduate library (model statement). C & RL News 40 (6) 317-319, 1979
The mission of a university undergraduate library: model statement. C & RL News 48 (9) 542-544, 1987
Guidelines for university undergraduate libraries: a draft. C & RL News 56 (5) 338-341, 1995
Engle, M.O. Forty-five years after Lamont. Libr Trends 44 (2) 368-386, 1995