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図書館組織の変化とリーダーシップ

リーダーシップのあり方が組織のあり方と密接に結びついていることは，いわば自明であろう。組織のトップから部課長，係長と続く管理者の重層的な構造は，ピラミッド状の指揮系統を通して職務管理を行い，組織内の分業体制を支える「官僚制」に即したリーダーシップの一形態である。図書館も特に大規模なものの場合，企業や行政機構と同様に，この官僚制に従って組織を形成し，ヒエラルキー型のリーダーシップに基づいた運営を行っている例が多い。

現代はその組織のあり方が，根本的に変化しつつある時代であると言われる。官僚制的な組織を持つ企業が，個々の業務の現場の多様化・複雑化する情報（場面情報）を十分に活用できず，また変化する外部環境に対応できずに硬直化していくケースは決して少なくない。これに代わって，水平的なコミュニケーションによって場面情報を連結・吸収し，変化する状況に動的に対応していく「ネットワーク組織」が，将来の社会経済を担う組織形態としてクローズアップされてきている。実際にピラミッド状の組織体制を放棄する企業，組織の一部にネットワーク的な要素を取り入れる企業も次第に増えてきているのである。

図書館においてこの「ネットワーク組織」の考え方を導入することは妥当だろうか。資料収集・受入，目録作成，資料提供，レファレンスといった部署に画然と分けられ，各部署を統括する核心情報を上層管理職者が独占しているような官僚制的組織の図書館では，情報環境の変化，利用者からの多様な要望といった場面情報に対応することが難しくなっているというような状況が，企業の例と同様に少なからず生じているのではないか。そうであるとすれば，各部署を横断するプロジェクト・チームを編成し，チームの活動を業務の中核に位置づける，といった形でのネットワーク型組織の可能性を，図書館において検討することも必要となってくる。

ここで述べているプロジェクト・チームは，討議のみを役割とする審議会的なものではなく，チームとして意思決定する権限と独自の予算を持ち，ある範囲の業務に直接携わることになる。わかりやすい例として，CD-ROMの大規模なコレクションを構築する場合を挙げてみよう。CD-ROMは収集についても利用者への提供についても，従来の図書資料と同一水準では扱えない点が多い。どのようなCD-ROMを収集するのか，物品管理面でどのような配慮が必要なのか，プリントアウトやデータコピーをどこまで許容できるか，インストラクターを配置するのかなど多くの課題があり，利用者の立場からそれらの課題に応えていくことが求められる。この場合，各部署が関連する領域について個別にCD-ROM向けの対応を考えるといったやり方では，発想が図書資料の延長線上にとどまり，しかも各領域で対応に齟齬をきたす可能性が高い。むしろ，CD-ROMの収集・提供を任務とするチームを編成し，関連する諸業務を一括して担当させることが，業務を円滑かつ整合的に実施する一つの方法となりうる。

図書館組織の未来像として，このような部署横断的なチームがあらゆる業務について存在するような状況を考えるならば，リーダーシップ像としては，これまでの官僚制的管理職者に代わり，個々のチームを統率するチームリーダーが想定されることになろう。トップダウン型の命令・情報伝達を中心とする管理スタイルではなく，チームとしての目標を明示し，構成員の自発性に訴えつつ，それぞれの個性・専門性に応じた能力を十分に発揮させる役割（エンパワーメント・リーダーシップ）が第一に求められる。

もっとも，ヒエラルキー型組織が一挙に部署横断的チームの複合体に変わるといった全面的な変革が，図書館で直ちに起こるとは考えにくい。従来型組織には役割と権限が厳密に規定されていることのメリットもあり，当面は現在ある部署と新設されるチームが混在する組織形態が想定される。そうなると，チームリーダーと従来型の管理職者の権限体系の整理，さらに相互の十分な意思疎通が大きな課題になってくる。複雑化した組織を全体として統括する図書館長の役割も，より重要なものとなろう。

また，図書館をめぐる環境が急激に変化する時代には，図書館に期待される任務は何か，個々の任務をどのように遂行するかをめぐるビションが，これまで以上に重要になる。21世紀の図書館におけるリーダーには，チームリーダーにせよ館長にせよ，単なる管理者的な役割を超え，明快なビジョンに基づいて職員を指揮していく決意と熱意が求められるだろう。

奥山裕之（おくやまひろゆき）

Ref: Sweeney, R.T. Leadership in the post-hierarchical library. Libr Trends 43 (1) 62-94, 1994
Bechtel, J.M. Leadership lessons learned from managing and being managed. J Acad Librariansh 18 (6) 352-357, 1993
今井賢一・金子郁容　ネットワーク組織論　岩波書店　1988．272p