CA1001 – 米国議会図書館の電子図書館プロジェクト / 千代正明

カレントアウェアネス
No.189 1995.05.20


CA1001

米国議会図書館の電子図書館プロジェクト

米国議会図書館(LC)は1994年10月13日「国立電子図書館(National Digital Library:NDL)」構想を発表した。偶然とはいえ,国立国会図書館の英語の省略名もNDL(National Diet Library)である。

その内容は,価値の高いコレクションを電子的な形態で所蔵している全米の主要な研究図書館と連携し,西暦2000年(その年にLCは創立200年を迎える)までに500万件の資料をデジタル化し,いつでもどこからでも利用できる巨大なヴァーチャル・ライブラリー=「電子図書館」を実現しようというものである。

LCはこれまでにも,5年前に始めたアメリカン・メモリープロジェクト(CA851参照)において,所蔵する膨大なコレクションの中から,写真・音盤・手稿本等21万点を電子化し,試験的に全米の42の学校や図書館へ提供してきた。これに加えて,1994年7月から2,600万件の書誌データベース,議会や著作権情報,そしてアメリカン・メモリーから選択したものなど広範囲な情報をインターネット上で利用可能にしてきた。更に1995年1月からは,法案の全文や審議の予定など最新の議会情報を盛り込んだ新しいサービス「トーマス」の提供も開始した。

NDLプロジェクトにかかる費用総額は不明であるが,資料1ページの電子化に2〜6ドルかかるというから,今後の新しい技術開発によって費用の減少が見込めるとしても,相当の資金が必要となる。LC内に新たに設けられた「電子図書館見学者センター」の開所式において国立電子図書館構想の発表がなされたが,その席でビリントンLC館長に民間3団体からの寄付金1,300万ドルが手渡された。

パッカード財団とメトロメディアのクルーグ会長から贈られた1,000万ドルは,LC所蔵の歴史的資料の電子化費用として,またケロッグ財団から3年分割で提供される300万ドルは,電子化された図書館資料を初等教育分野で利用するための研究資金となる。このほか,本プロジェクトの財源を確保するため,LC自身の予算(資料の組織化・目録作成に使用)に加えて,出版社等の外部機関との提携などが考えられている。

このプロジェクトでは,特に参加する図書館間の協力が重要となる。電子化資料を重複して作成しないようにすること,互いの技術を相互利用すること,著作権問題を解決すること等のために,参加館の協力が必要不可欠だからである。また図書館の規模に応じた役割分担が求められており,大規模の研究図書館では,所蔵する貴重なコレクションを電子化しアクセスを可能とすること,また地域の図書館には,すべてのアメリカ人に情報スーパーハイウエイ及び国立電子図書館にアクセスする機会を提供し,持てるものと持たざるものとの不平等さを生じさせない役割が期待されている。

以上見てきたように,NDLプロジェクトは,単なる図書館情報の利用という枠を越えて,情報スーパーハイウエイ構想の実現を加速する役割を担っている。またデジタル情報の大量蓄積は,来たるべき本格的なマルチメディア時代に強固な情報基盤となるであろう。

いずれにしろ,このプロジェクトに対し,議会・図書館・学校・研究者からどのような反応や要求が寄せられるか今後の展開を考える上で大変興味深いことである。加えて,複雑な著作権問題の解決もプロジェクトの成否に大きな影響を及ぼしかねない重要な課題となっている。

千代正明(ちよまさあき)

Ref: Strategic Directions Toward a Digital Library……A Working Paper Developed by the Digital Library Coordinating Committee for the Librarian of Congress (Draft) 1994. 9. 13, 16p
Digital age: LC receives $13million to put collections on-line. LC Inf Bull 53 (20) 407-416, 1994
The gains and pains of 1994. LC Inf Bull 54 (1) 4-12, 1995
Congress on the Internet. LC Inf Bull 54 (2) 27-32, 1995