5.国内公共図書館における情報提供サービスの増加と資料相互貸借の状況

5.国内公共図書館における情報提供サービスの増加と資料相互貸借の状況

 <統計調査>結果として得られた相互貸借冊数や『日本の図書館』等のデータを元に,国内公共図書館の情報提供サービスや相互貸借の状況を考察する。

 考察には,適宜,状況調査<アンケート>調査(以下「<アンケート>」という)の結果を利用する(集計結果の詳細は「11.資料」参照)。

5.1 情報提供サービスの有無と相互貸借(貸出)

 図表18は,<アンケート>結果よりOPAC(Online Public Access Catalogueの略)公開館数及びNDL総目へのデータ提供館数の累積変化を左軸に,『日本の図書館』より<アンケート>対象館種1館あたりの貸出冊数を集計し,その変化を右軸においたものである。

図表18「書誌データの公開状況と相互貸借貸出冊数の比較」


書誌データの公開状況と相互貸借貸出冊数の比較

 OPACの公開(2002年度以降は予定を含む)は徐々に増加し,2002年度以降はほぼ横ばい(59館)となる見込みとなった。NDL総目のデータ提供館数(2002年度以降は予定を含む)も徐々に増加し,2004年度には53館となる見込みである(実際は51館となった。)。<アンケート>対象館種1館あたりの相互貸借貸出冊数は1995年度以降,対前年度比で約10%程度の増加を示した。なお,1995年度から2002年度までの傾向を見る限りでは,OPACの公開とNDL総目を通じた書誌データの公開のどちらが相互貸借貸出の増加に影響を及ぼしたのか明確にならなかった。

 なお,2002年度末現在で都道府県立図書館が中心となって作成する県域総合目録は60%存在し(<アンケート>回答53館中32館),2003年度以降は11館が構築予定と回答した。また,市区町村立図書館間で構築されている広域総合目録ネットワークは29%存在する(<アンケート>回答51館中15館)。

5.2 図書館員による情報の利用手段

 <アンケート>では,OPAC,県域総合目録及び広域総合目録ネットワークの整備が進む中で,都道府県立図書館や政令指定都市立図書館において総合目録以外の県内他館の所蔵確認のための情報交換手段があるか回答を求めた。63%が「ある」と回答し(63館中40館回答),具体的には,電子掲示板(19館)やWANTED(「探しています」)リスト(15館)を挙げる館が多かった。

 また,市区町村立図書館が県内の他の市区町村立図書館の所蔵を確認する場合にどのような方法が一般的かという質問(複数回答可)には,県域の総合目録の利用(48館),個別のOPAC検索(49館),電話・FAXによる問合せ(41館),県立図書館に問合せ(30館)を回答する館が多く,全国規模のOPAC横断検索サイト(15館)や冊子目録の検索(4館)はわずかだった。

 なお,県域・地域の情報ネットワーク(データベース化された総合目録等)とNDL総目との関係のあり方について質問したところ,県域総合目録とNDL総目とを横断検索する仕組み(63館中10館回答)よりも,県域総合目録を調べた後NDL総目を調べられる仕組み(63館中50館回答)の方に強いニーズが認められた。

5.3 相互貸借資料の物流

 相互貸借統計でも明らかだったように,国内における相互貸借冊数は増加を続けている。OPAC,県域総合目録及びNDL総目も含めた蔵書検索ツールの数の増加や利用できるデータ量の増加によって,相互貸借冊数も影響を受けているように思われる。その一方で,利用者の要求に応えるためには,資料を実際に運ぶ必要がある。そうしたいわゆる物流に関する項目として,資料の配送手段や送料負担の状況についても<アンケート>において調査した。

5.3.1 相互貸借資料の配送・発送

5.3.1.1 都道府県内

 都道府県立図書館や政令指定都市立図書館中央館から県内の図書館への資料の配送手段(複数回答可)は,図書館が運行する協力車(43館),郵送(24館),宅配便(28館),その他(自治体が運行する連絡車4館,来館4館,など計11館)であった。

 資料の配送手段に「協力車」と回答のあった館(43館)に対して,県内の市区町村立図書館側から見た場合の協力車が来る頻度を質問した。回答は,週1回(11館),月1回(3館)その他(頻度,ルートによって異なる等,23館)であった。その他については,週2回(1館),月3回(1館),隔週(6館),月2回(3館),隔月(1館),年6回(1館)年3回(1館),臨時立ち寄り・不定期(各1館)など様々であった。

 協力車の運行範囲や市区町村立図書館間の相互貸借への使用状況は(都道府県立図書館への設問),運行範囲については,県域の全てではなく62%(回答数で2,270自治体中1,411自治体へ運行)の範囲をカバーし,市区町村立図書館間の相互貸借についても,81%(回答37館中30館)で協力車による配送支援が行われている。

 資料の配送手段に「郵送」と回答のあった館(23館)に対して,資料の発送頻度を質問した。回答は,随時(17館),日を決めて行う(4館),その他(2館)であった。「日を決めて行う」については,週3回〜週1回まで様々であった。またその他として緊急時に利用する館もあった。

 資料の配送手段に「宅配便」と回答のあった館(28館)に対して,資料の発送頻度を質問した。回答は,随時(11館),日を決めて行う(17館),その他(1館)であった(複数回答館あり)。「日を決めて行う」については,火曜・水曜(計9館),木曜・金曜(計5館),月曜(1館)となった。土曜・日曜の発送はなかった。宅配業者と定期発送契約の有無について回答を求めたところ,有(15館),無(11館)であった。

5.3.1.2 都道府県外

 次に,県外の図書館に対する相互貸借資料の配送手段について質問した(複数回答可)。回答は,郵送(62館),宅配便(11館)であった。

 「郵送」と回答のあった館に対して発送頻度を質問した。回答は,随時(49館),日を決めて発送する(6館),その他(0館)であった。「日を決めて発送する」は週1回発送が大部分を占めた。

 「宅配便」と回答のあった館に対して発送頻度を質問した。回答は,随時(5館),日を決めて発送する(5館),その他(0館)であった。「日を決めて発送する」は週1回発送が大部分を占めた。宅配業者と定期発送契約の有無について回答を求めたところ,有(5館),無(5館)であった。なお,定期発送契約館と定期発送非契約館との間には,随時発送か日を決めて発送かという関係性は見られなかった。

5.3.1.3 配送手段についてのまとめ

 配送手段に関しては,都道府県内は協力車の利用が比較的多かったが,郵便や宅配便も良く利用されている。他県との相互貸借では郵便の利用が多かった。配送・発送頻度に関しては,協力車の場合,県域内の事情によってか頻度は様々であった。郵便や宅配便の場合,郵便では随時発送,宅配便では土曜・日曜を除く平日に日を決めて発送といった傾向が見受けられた。

5.3.2 相互貸借資料の送料負担

5.3.2.1 相互貸借(借受)

 他の図書館から資料を借り受ける場合の送料負担の状況について回答を求めたところ,県内の図書館から借りる場合は,協力車の利用により無料(35館),図書館で全額負担(15館),利用者が全額負担(4館),その他(15館)であった。その他は相互負担(7館)が最も多かった。

 他県(所属ブロック内)の図書館から借りる場合について,このうち,送料を全額借受館で負担する図書館から借りる場合は,図書館で全額負担(37館),利用者が全額負担(17館),利用者・図書館が片道分ずつ負担(4館),その他(3館)であった。送料を相互負担する図書館から借りる場合は,図書館で負担(44館),利用者が負担(17館),その他(0館)であった。

 他県(所属ブロック外)の図書館から借りる場合について,このうち,送料の全額を借受館で負担する図書館から借りる場合は,図書館で全額負担(38館),利用者に全額負担(19館),利用者・図書館が片道分ずつ負担(3館),その他(1館)であった。送料を相互に負担する図書館から借りる場合は,図書館で負担(39館),利用者に負担(21館),その他(1館)であった。

5.3.2.2 相互貸借(貸出)

 他の図書館へ資料を貸し出す場合の送料負担の状況について回答を求めたところ,県内の図書館へ貸し出す場合は(複数回答あり),協力車の利用により無料(29館),貸出館の全額負担(6館),相互負担(21館),借受館の全額負担(2館),その他(13館)であった。その他は配送予定日以外の発送や緊急時の対応に係る費用負担が挙がっていた。

 他県(所属ブロック内)の図書館へ貸し出す場合は,貸出館で全額負担(0館),相互負担(31館),借受館で全額負担(29館),その他(2館)であった(複数回答あり)。他県(所属ブロック外)の図書館へ貸し出す場合は,貸出館で全額負担(3館),相互負担(5館),借受館で全額負担(52館),その他(1館)であった。

 相互貸借にかかる送料負担の増減については,増加(43館),減少(2館),変化なし(11館),利用者負担のため図書館の負担はない(6館),不明(1館)であった。

5.3.2.3 相互貸借の送料負担についてのまとめ

 都道府県内の相互貸借(借受)の送料は,協力車の利用により無料または図書館で全額(または相互)負担する場合がほとんどであった。他県から借りる資料の送料は,多くの館では図書館が負担するが,一部の館では利用者が負担する。都道府県内の相互貸借(貸出)の送料は,協力車の利用により無料または図書館の相互負担が多い。他県への貸出資料の送料は,所属ブロック内であれば相互負担または借受館の全額負担が多く,所属ブロック外は大部分が借受館の全額負担であった。送料負担については多くの館で増加している。

5.3.3 資料利用ルールの有無(県内・地区・地区外)

5.3.3.1 「公共図書館間資料相互貸借指針」について

 国内の公共図書館間における相互貸借に関しては,全国公共図書館協議会が定めた「公共図書館間資料相互貸借指針」(平成11年6月23日施行)がある。その目的として,第一条は「この指針は,各公共図書館(以下「図書館」という。)が所蔵する図書館資料(以下「資料」という。)の相互貸借を円滑に行い,図書館奉仕の充実向上を図るために必要な事項を定めるものとする。」と書かれている。以下,指針適用図書館の資格(第二条),指針の適用(第三条),資料相互貸借の原則及び貸借資料の範囲(第四条),借入資料点数(第五条),資料の貸出期間(第六条),資料貸借の手続(第七条),資料の送付(第八条),経費の負担(第九条),資料の利用(第十条),借受館の責任(第十一条),協議機関(第十二条)が定められている。

 この指針の内容についてはいくつか条文を引用しておきたい。指針の適用(第三条)では,「この指針は,地区(全公図規約別紙三「地区協議会都道府県協議会通則」第2条第2項に基づく別表の「地区協議会名」をいう。以下「地区」という。)を越える図書館間の相互貸借に適用する。また,貸出館及び借受館双方で合意に達した場合は,その合意の内容によることができる。」とし,地区を越えた相互貸借の指針としている。

 資料相互貸借の原則及び貸借資料の範囲(第四条)では,「この指針に基づく資料の相互貸借は,各適用館が平等互恵の精神に則り運営するものとする。」とされ,同条第2項は「この指針に基づく相互貸借資料の範囲は,他の適用館から借り受けをしようとする資料が,自館又は自館が属する都道府県内若しくは地区内の他の公共図書館において,原則として未所蔵の場合のみとする。」と定め,平等互恵の精神に則り運営すること,また都道府県内及び地区内における所蔵調査を行うよう定めている。

 経費の負担(第九条)では,「前条で定める資料の貸出し又は返却資料の送付に要する経費は,すべて借受館が負担するものとする。ただし,双方の図書館で合意に達した場合は,この限りでない。」とし,原則として借受館の全額負担とするが,そうでない場合も認める内容となっている。なお,「前条で定める資料」とは,送付する資料のことである。

 資料の利用(第十条)では,「貸出館は,あらかじめ貸出資料の利用に関する条件を附すことができる。その場合,借受館は,その条件に従い利用しなければならない。」とされ,同条第2項は「借受館は著作権法を遵守し,貸出しを受けた資料の複製をしてはならない。ただし,著作権法による保護がない資料で,かつ,貸出館の了承を得た場合には,この限りでない。」と定め,貸出館の利用条件を守ること及び借りた資料の複写を禁じている。

 協議機関(第十二条)では,「この指針に定めのない事項及び管理・運営上で疑義が生じたときは,理事会において,協議決定するものとする。」とし,状況の変化にも対応していくことを定めている。

5.3.3.2 地区内または都道府県内に適用される相互貸借規程等の整備状況

 以上のような全国的な相互貸借指針のほか,国内公共図書館においては,各地区内や都道府県内に適用される相互貸借関係の方針や手続きを定めた規程等がある。<アンケート>ではそれらの規程等について回答を求めた(都道府県立図書館のみ回答)。

 都道府県内の相互貸借に関する方針や手続きを定めた規程等の有無は,ある(46館),ない(6館)であった。所属ブロック内の相互貸借に関する方針や手続きを定めた規程等の有無は(都道府県立図書館のみ回答),ある(43館),ない(9館)であった。都道府県内の相互貸借規程等の整備はほぼ完了している。「ない」と回答した図書館は,ブロック別に,北日本(1館),東海北陸(1館),近畿(3館),中国(1館)であった。所属ブロック内における規程等の整備もほぼ完了しているが,近畿ブロックには規程等がない。

 所属ブロック外の図書館との相互貸借に関する「公共図書館間資料相互貸借指針」の適用状況は,適用している(54館),適用していない(8館)であった。「適用していない」図書館は,ブロック別に,北日本(1館),関東(1館)東海北陸(2館),近畿(4館)であった。県外貸出を行わない図書館以外は,独自の手続きまたは適宜の対応を行っている。

 貸出依頼の申込様式については,図書館独自の様式のみで受付(2館),図書館独自の様式は存在するがほかの様式でも受付(36館),図書館独自の様式はない(28館)という回答であった。申込様式は限定せず柔軟に対応している状況がうかがえる。様式としては,県内様式,地域ブロック様式,NDL総目様式などが利用されている。NDL総目様式については,データ提供館のうち39館(91%)がNDL総目からの資料貸出依頼を受付けている。

5.3.3.3 相互貸借制度の運用のために

 相互貸借制度の円滑な運用を目指して,研修会や連絡会議等の場で都道府県内の市区町村立図書館に相互貸借の規程等を説明する機会を設けているかを質問した。回答は,ある(46館),ない(5館)であった。説明の機会を設けていない場合でも,中央館による業務説明の実施,NDL総合目録ネットワーク研修会への参加,ワーキンググループの立ち上げ,図書館サービスに関わる講習会の中で触れるなど,相互貸借担当者に対しては何らかのかたちで情報を伝える機会が持たれている。説明内容は,主に相互貸借規程の内容や申込手続(20館),依頼先の順序(15館),相互貸借のマナー(9館)などである。相互貸借の状況や課題(3館)も説明されている。


書誌事項:国内公共図書館の相互貸借等に関する調査報告書―国立国会図書館総合目録ネットワーク参加館状況調査のまとめ―. デジタル環境下におけるILL,ドキュメント・デリバリーとその運用基盤. (図書館研究シリーズ No.38). 2005. 20-26.