1. 調査の概要 / 歳森 敦


 

1. 調査の概要

 

 本調査報告の課題は電子情報環境下における我が国の科学技術情報の資源配置の全体像を明らかにし,科学技術情報の収集整備において今後NDLが果たすべき役割及び関係機関との連携協力の方向性を展望することである。

 

 昨年度は,大学図書館と都道府県立図書館,専門情報機関に対する質問紙調査を実施し,機関ごとに印刷版雑誌の購読数,購読費用,電子ジャーナルの購読数,購読費用などを明らかにした。この調査からは,電子ジャーナルの導入が国立大学を中心として進んでいること,公私立大学や専門情報機関ではごく限られた組織だけで導入が進み,格差が拡大していることを示した。また,大学図書館における電子ジャーナル導入に大きな役割を果たしてきたいくつかの電子ジャーナルコンソーシアムの中核メンバーへのインタビュー調査を行い,電子ジャーナルコンソーシアムの意義,今後の動向,NDLとの連携の可能性などについて明らかにした。最後に,オープンアクセス型アーカイブを中心に,機関リポジトリやプレプリントサーバに代表される,学術情報流通の新しい動向に対して,各国国立図書館等がどのように取り組んでいるかの国際調査を実施して,NDLがオープンアクセス型アーカイブにどのように取り組むべきかを論じた。

 

 本年度の研究では,以上の結果を承けて,3つの課題を設定した。1つは学術雑誌の配置状況について,各機関間での重複まで加味して,日本全体で提供できている情報の質を明らかにするとともに,その中でのNDLの役割を量的に明らかにすること。第2に,NDLが所蔵する学術情報を利用する手段としての遠隔複写サービスに注目し,一般市民を含む幅広い利用者が,どのような情報探索を経てNDLの利用に至ったかを明らかにするとともに,利用者の類型化をはかること。第3に大学に属していない研究者層に着目し,それら研究者がどのような情報資源をどう利用しているかを明らかにし,その情報行動パターンの中でNDLが果たすべき役割を示唆すること,である。以上を総合して,諸外国の事例を参照しながら,NDLが将来の電子環境下で,どのような顧客層を対象に,どのようにドキュメント・デリバリー・サービスを展開していくべきかを最後に論じることとした。全体としては以下のように構成した。

 

 2章では昨年度に引き続き学術雑誌の全国的な配置状況について,大学図書館,国公私立の研究機関等における学術雑誌の所蔵に関する1980年以降の25年間の変化を調査して明らかにした結果を報告した。学術雑誌の購読中止が進んでいると言われる中で,日本全体の学術情報資源におけるNDLの位置づけを検討した。

 

 3章ではNDLの遠隔複写サービス利用者を対象に質問紙調査を行い,NDLの遠隔複写サービスを利用するに至るまでの情報探索の経路を明らかにした。また,遠隔複写サービスにおける,配送メディア,速度,費用の3点に関する利用者の選好意識を,選択型コンジョイント分析を用いて検証するとともに,選好意識の相違から回答者を複数の集団に分類して遠隔複写サービスの利用者層の同定を試みた。

 

 4章は関西館の所在地である学研都市において,大学に属さない主として理工生物系の研究者を対象に,学術情報の利用と生産にかかる情報行動を質問紙調査で明らかにした。また,彼らの日常的な学術情報の探索の中で,関西館がどのように認識され位置づけられているかを調べ,関西館が学研都市内の諸研究機関とどのような連携を目指すべきか,ひいては大学に属さず研究開発に従事する人々に対して,NDLがどのような役割を担うべきかを論じた。

 

 5章は2年間の研究の総括として,アメリカ,イギリス,ドイツにおける近年のドキュメント・デリバリーの動向を,文献調査を通じてレビューするとともに,2004年12月に関西館で開催された国際セミナー「デジタル時代のドキュメント・デリバリー・サービス:ビジョンと戦略」における上記3ヵ国の主要なサービス提供主体に関する講演と,セミナーに引き続いて行われた意見交換会における講演者の発言をもとに各国のドキュメント・デリバリー・サービスが目指す方向性についての3つのモデルを描き出した。これらのモデルと対比する形で,NDLが目指すべき日本型のドキュメント・デリバリー・サービスについて考察した。