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3.1.5.1 コンテンツの取り込み・OCR処理
基本工程の前処理、OCR処理は、下記の工程で処理される。
前処理 ⇒ スキャン ⇒ ノイズ除去・傾き補正(スキュー)等の後処理
⇒ OCR処理 ⇒(テキスト・パターン辞書作成を同時並行) ⇒ 校正
本来であればカラーデータをOCR処理するのがあるべき姿だが、基本的にモノクロ2値画像がOCR処理の対象となっている。カラーデータではデータ量が大きすぎるため、処理に時間を要しコストが合わないのが実情である。
ノイズ除去・スキュー補正等の画像処理のツールは複数あり、この処理によりOCR精度は大きく左右される。ただし日本語OCR(この場合活字)は数社しか開発をしていないため、OCRエンジンは自ずと限られてくる。重要なのはドキュメント毎の辞書作成であり、辞書の精度により認識率は大きく左右される。
スキャナの種類はOCR処理をしたい書籍・雑誌等の対象物によって、フェイスアップスキャナ、フラットベッドスキャナ、オートドキュメントフィーダ等、変えるのが現実的であると考えられている。
消化量であるが、OCR処理そのものはバッチ処理のため、大量処理を行っても問題はない(もちろん、モノクロ2値画像であることが前提である)。ただし校正処理は人間がしなければならないため、最近は中国等に処理ラインを設け、労働集約型処理のコスト低減が図られている。アマゾンやグーグルは、フィリピンやインド等で処理をしていると言われているが、処理言語は英語であり日本語ではない。日本語処理は漢字文化圏で行うのが現実的だというのが一般的な認識である。なお料金などの詳細は更なる調査を必要とする。
近年、書籍や雑誌の電子化の文脈から「スキャニング・ロボット」が話題にされている。アマゾンの「Search inside this book」(日本では「なか見!検索」)の電子データ化で利用されていると言われている。「スキャニング・ロボット」には、Kirtasのシステムがある。
Kirtasのスキャニング・ロボットは、撮像(現バージョンはキャノン製一眼レフデジタルカメラ)方式で解像度が低く、英語など形が単純な文字にはそれなりの画像が作成できるが、日本語(画数が多い、ルビがある等々)に対しては、対象物にもよるがあまり良好な結果はでていない。また、自動ページ送り機能についても、壊れてもよい本には使用できるが、貴重書などに対しては、覚悟が必要となる。
3.1.5.2 カラーリング
今までの傾向としてカラーリング(着色)作業は、印刷会社を中心に行われてきた。ただし、印刷会社の厳密な品質、労働集約体質から価格はかなりのものにのぼっていた。この価格を維持して量産化が可能なほど、電子書籍市場はまだ成長していない。また、印刷会社のこうした品質管理からくる権利主張が災いして、ある出版社は全工程を印刷会社に任せることを停止し、中間データでの納品に切替えた。そしてそこから最終段階までを、自社配下のプロダクションへ流し、著作権上の権利確保を図った。
また、ソフトウェアでのカラーリングは進化しており、ツールにはカラーリング機能を実装する傾向がうまれてきた。セルシスの開発した「Ready Paint」は、その先鞭をつけた。
問題は出来上がりの品質をどう評価するかであるが、市場での評価(売上)と専門的な評価(作家・編集者)との間に整然とした一貫性があるとは思えない。作家・編集者が思うほどに市場の判断は厳密ではないかもしれないし、あるいは相当に厳しいものかもしれない。この判断は現状では明確に下されているわけではない。
ただし事実として、カラーリングソフトの出現で作業単価は飛躍的に下落している。今後はこうしたソフトウェアを駆使した量産化による単価競争が激化するであろう。中国、ベトナムなどの労賃を利用した単価の大幅な低廉さをアピールする、新興諸国の営業攻勢もある。
価格、納期、品質、著作権管理(不正コピー防止)などを網羅して、実態詳細を調査するには、なお相当の時間を要する。
そもそもモノクロで描かれた漫画を後から着色してカラー化させる行為は、一度終了した創造行為の時間を巻き戻すことと同じである。そのことに掛ける時間、エネルギーが作家本人にある場合は、コストの問題だけかもしれないが、作家以外の人がこれを担うとしたら、結果が承認されるまでの道のりは単純ではなく、多くの労力や時間が費やされざるを得ない。
カラーリングソフトは、そもそもデジタルで描き起こす漫画やアニメのツールに付属するものとして設計され、いかに合理的に効率を重視するかに力点をおいて開発されたソフトウェアである。当然にも携帯用コンテンツの制作ツールとは連動しており、カラー化された電子書籍コンテンツを低価格でつくりあげる方法だといっていい。但し、上記したようにカラー化の品質は創造行為の一環であり、このツールでつくられたカラー化の品質がどのレベルであるかは、あくまでも品質をチェックする作家、編集の判断による。
3.1.5.3 各社の取り組み
ここでは日本の最大手の出版社であり、特に漫画において突出した集英社、講談社の例を今回調査のインタビューに基づき例示する。両社の電子書籍に対するそれぞれの考えを見ることによって、電子書籍に取組む姿勢を立体的に認識できるだろうという意図によってである。
a)集英社
出版社のなかで人気の高い漫画作品を保持することから、電子化コンテンツに対しての徹底したコスト投入を行っている。具体例としては、他社よりも一層高解像度のデータの取り込み、カラーリング、そしてそれぞれの媒体・ハードウェア・デバイスごとに最適化された表示品質、見栄え、動き、効果などを付加している。とにかく制作コストを十分に投入し、絶対的に優位な作品パワーをあらゆる面で突きつける考えといっていいだろう。
また集英社は電子書籍の販売を、自社が運営する「マンガカプセル」で展開してきた。最近になって取次を経由して販売が始まった。
b)講談社
講談社は集英社と比べて電子書籍コンテンツの制作、品質については、特別な原則を設けることはなく、柔軟な態度で臨んでいる。重視していることは現状あるいは近未来における自社コンテンツのマスター管理であり、このマスターさえ十分に吟味されたものであればいかなる電子媒体への展開にも対応可能だとする認識である。その意味では、現状の技術的基準をあまり肥大化して受取っておらず、極端な品質至上主義には陥っていない。むしろリーズナブルなコストに重点を置く。
電子媒体で販売する作品をすべてカラー化して電子配信するようなことは考えていない。むしろデジタル発の新作をカラーで企画し、ヒットを目論む。これを実践しているのが前出のMichao!である。作品内容の品質とカラーが一致していることを重要視しており、カラーであるからいい作品、あるいは売れる作品という判断基準は持っていない。実際、Michao!ではカラー作品もモノクロ作品も混在して制作、販売されている。
販売は取次を経由した書店展開を当初から行ってきており、自社で運営する講談社コミックプラスでの直販をはじめたのは最近のことである。
3.1.5.4 既存作家の進出
出版産業の長期低落、特に雑誌メディアの売り上げ急落や、雑誌そのものの休刊という、従来の出版の「生産システム」に変動が生じている。これによって既存作家の活躍の場は、徐々にデジタルへシフトしてきた。出版社と作家の蜜月時代はすでに終わっており、一部の作家を除いては作家の出版社への依存度は低いものになっている。現在ではこうした傾向とデジタルがいかに出会い、調和したビジネスを形成していくのかの過渡期にあるといえる。
ただしこのことは言葉通りにはいかない。デジタル化をもって事業を推進しようというベンチャーにとって、事業モデルとして既存作家の取込みと、コンテンツの新媒体での展開は大いにあったとしても、これを幾多の失敗を乗り越えて推進していくだけの事業基盤を確保できているかは疑問である。「一発屋」として当て込んだ対応であれば、失敗は即撤退へと通じている。その場合、作家そしてコンテンツは利用される立場でしかなく、運良く再生産の仕組みを形成できる確立は極めて低いと考えなければならない。この関係に作家が離反していくことは大いに考えられることである。その点、既存出版社にはいくつかの蓄積と経験が残されており、同じレベルでの対応が新興勢力にとっては対抗できない事実も明らかであろう。
おそらく、既成、新人を問わず、新しい作家の進出には、短期的な成功と数多の失敗を繰り返す「場」の創造が必須であり、そこでの再トライ、再生産の試行錯誤がついて回る。そのためには、低リスクでの挑戦の仕組みをいかに提供していくかに掛かっているのではないだろうか。まさに漫画が出現してきた歴史と同じ道のりをたどることではないのだろうか。漫画は歴史的に紙芝居、貸本という流通と深く関わってきたのであり、また一方で映画という当時として「花形産業」へのクリエイターたちの憧れも影響して成長してきたと言われる。底の厚い創造基盤を幸運にも打ち立てた日本の漫画は、ある意味で新しいコンテンツ創造がどのように生まれていくのかを象徴的に示唆していると思う。
電子媒体の浸透はチャレンジという意味で極めて大きな可能性を提示している。この仕組みを強化し新しいものとして生み出していく「場」の創造とは、既存メディアだとか新興メディアだとか関係なく一様に与えられている課題であろう。(萩野正昭)
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