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3.1.4.1 資金回収モデル
回収モデルの大枠は有償課金モデルと無償広告モデルに大別される。
この2つは入口こそ違うが、到達点は一致している。前者は有償課金に広告モデルをいかにとり込んでいくか、後者は広告モデルの成功から、いかにコンテンツの有償課金化を導入していくか、という構図である。
既に述べた通り、ネットを介した電子書籍はその実体性が希薄で、「モノ」としての価値を認識しづらいという側面を長く引きずってきた。これは新しい商品の持つ宿命と言ってもよいもので、人が日常生活で身につけてきた「常識」からくる距離感というものであろう。だからこそ、実体のないものから対価を求める有償課金モデルの定着には、相当の時間を要した。有償モデルの成功は、携帯電話の通信料と一緒にコンテンツ料金を徴収する課金モデルだったことは明らかであり、そのプロセスの中で個別対価よりもむしろ、一定期間内(1か月など)の定額料金を前払いする、集合課金方式の定着によって成り立ってきた。
無償広告モデルは、民間テレビ放送が導入された時と同じように、コンテンツを無償で提供し、それを見るために画面の前に集まる人々への広告効果を期待するビジネスモデルだといえる。コンテンツの享受者からではなく宣伝広告のスポンサーから売上を見込むものである。コンテンツが無償であることから、集客は得やすく、集客できれば広告料も増大するという好循環を期待する図式である。無償広告モデルでの電子書籍の配信・流通は、いち早く成功例をつくり出した。モバゲーTOWNや魔法のiらんどがこれにあたる。モバゲーTOWNの会員数約1,100万人、1日のページビュー(PV)平均約150万という数字は、一般的な広告掲載収入から始まり、アクセス頻度に準じた成果報酬型広告収入の道を生み出し、「アバター」と呼ばれるネット内にのみ存在する自分の分身キャラクターなどを販売するビジネスをつくりあげた。
生み出された人気コンテンツは当然にも他媒体への展開というビジネスの波に乗り、2007年の「ケータイ小説」ブームにつながったことは記憶に新しい。一度成功が生まれると、集客を前提とした広告宣伝をはじめとする多種多様なビジネスの可能性が広がってゆく。
もっともそのすべてを、一貫して担う1人のプレーヤーということよりも、複数のプレーヤーが連携し、それぞれの強味を導きだしているのが現実といえよう。
3.1.4.2 新人作家の掘り起こしのビジネスモデル化
ケータイ小説の成功(2007年)は、典型的な新人作家の発掘として特筆すべき例であろう。その意味では魔法のiらんど、モバゲーTOWNの投稿サイトでの事例が最適となる。
ネットから出現した普通の若者の小説が、ネット上で反響を呼び、共感や励ましのメッセージにつながり、それを読んだ作者が連載に反映するという相乗効果を生んだ。読者の圧倒的な支持を獲得したという実績を背景に、紙の本となり100万部を越えるベストセラーに躍り出る例が、2007年の出版業界では顕著に現れた。ケータイ小説の勢いがどこまで続いていくのかは不透明である。このブームは2008年売れ行きベストテンには反映されていない。流行(はや)り廃(すた)り「徒花」と化すことも十分考えられる。その点で過剰な期待は危険だともいわれる。
しかし、出版社が従来の新人発掘の方法とは路線を変更して、ネット上に新たな登竜門を、新人に対して提示する例は少なくない。
出版社系では、講談社「MiChao!」が特筆に値する。MiChao!は出版社が試みた「デジタル発(Born Digital)」の成功例として注目されている。出版社の編集部が介在し、新人、ベテランを戦略的に編成して市場への訴求を企図し、一定期間PCでの無償提供、携帯・PCでの有償販売、ゲーム機、iPhoneを含むモバイル情報端末での有償販売、そして最後に紙の本とする、出版社としては新しい挑戦をおこなっている。詳細は3.1.5.3「各社の取り組み」で触れる。
3.1.4.3 キャリアによる課金モデル
携帯電話キャリアによる課金モデルは、キャリアを頂点に垂直統合化されるビジネスモデルから、通信基盤をさまざまなプレーヤーが利用発展させていく、オープン化の流れにある。いわば従来からのキャリアによる課金モデルは大きな変化の時期に差し掛かっている。これはすべて端末と一体化した通信ネットワークが市場を先導してきた時代から、プラットフォームのオープン化へのシフトを意味している。その先駆けとしてiPhone3Gなどの例も現れてきている。
今後、携帯課金の方法も多様化していく様相が見られ、キャリアだけが専用として行ってきた課金方式に準じるスマートな方法の出現も考えられている。そしてまたiPhoneをはじめとした新しいタイプのモバイル情報端末の普及が次世代高速通信として注目を受けるWiMAXや3.9G、またLTE(Long Term Evolution)というコンセプトに総称される新技術の導入と相まって、電子書籍コンテンツの流通を飛躍的に拡大させていくであろうことが推測される。
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