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日本における電子書籍流通はどのようになされているのか。実態に即した把握を試みてみたい。その実情をどうとらえるかにあたり、いくつかの前提を設けておくことにする。一般的に電子書籍のカバーする範囲・境界は茫洋としており極めて近い将来の対応なども含めるとますます広い範囲を想定せざるを得なくなる。従って、本調査においては第1章において触れられている定義を前提に、
- 1)現在の市場において、有償で流通するもの
- 2)現在の市場において、無償で流通するもの一般
- 3)無償で流通するもののうち、今回調査対象となった代表的な事例
以上の3項目を中心に言及するものである。
1)の「有償で流通するもの」とは、原則として対価を設定し販売に供しているもののことをいう。対価とは対象となる作品に対して個別に設定・請求されるものだけではなく、包括的に一定の期間内、あるいは数量的な一定作品数に対する料金設定なども含まれる。会員料金などを設定し、会員登録によって対象読者を特定し、作品個別の料金設定をすることなく、読者に対して包括的な対価を徴収するやり方である。
2)の「無償で流通するもの」とは、基本的にコンテンツを利用する読者から対価をとらず、読者がコンテンツを無償で利用できるもののことをいう。サイト運営者はアクセスする「集客」を前提に広告効果を期待するクライアントにサイト内の領域を販売するものと原則理解していい。たとえば、民間放送のテレビの仕組みでは視聴者から放送料金を徴収しておらず、代わりにテレビ局は番組にあるいは番組と番組の間に広告領域を設け、広汎な番組視聴者を対象とした広告宣伝を機能させている。これと同じと言っていいだろう。
3)の無償で流通するもののうち、「今回調査対象となった代表的な事例」とは、主に「魔法のiらんど」(株式会社魔法のiらんど)と「モバゲーTOWN」(株式会社ディー・エヌ・エー)が行っている投稿参加型の無償コンテンツの配信についてである。2)との違いはコンテンツの提供過程が参加者に対してオープンになっており、誰もが無償のコンテンツ提供者になることを前提としている点である。いわゆる「書込み」型の投稿サイトと言っていいだろう。コミュニティーまたはSNS(Social Network System)と呼ばれているものとも極めて近い構造と考えられる。