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電子書籍の個人利用の悉皆的なデータはない。インプレスR&Dによる『電子書籍ビジネス調査報告書2008』(1)では、「ケータイを用いてインターネットを行っている11歳以上の個人」を対象に2008年6月13日~7月2日の約2週間の調査を行っている(サンプル数11,632)。対象は「ケータイ電子書籍」であるので利用のデバイスは携帯電話に限定されており、PC利用や専用デバイス利用は対象外である。
同調査の概要は次の通りである。
ケータイ電子書籍の認知度は91.9%であり、高い認知状況である。ケータイ電子書籍の利用率では、29.6%(21.7%:2007年同調査、以下同様)であり、また有料コンテンツ購入については7.9%(3.9%)と前年比倍増の延べであると共に、大きな潜在成長市場が期待される。利用率では、特に女性の10代で約50%、20代で約40%強と利用率が特出しており、また有料コンテンツでは30代女性を中心に高い。
ケータイ電子書籍の分野は、マンガ系が75.8%と突出しており、ついでテキスト系統読み物(小説、ライトノベル、ノンフィクションなど)が41.0%と続く。評価の高いコンテンツとして多くの支持を集めたのは、『恋空』を始めとして、『DeepLove』、『赤い糸』などの話題を呼んだケータイ小説が上位にある。
利用者属性では、有料コンテンツ利用者は無料コンテンツのみの利用者よりも紙媒体の書籍の利用も高いことがうかがえる。
電子書籍の満足度では、「どちらともいえない」が57.0%と高く、ついで「大変満足」2.9%、「満足」28.2%を併せて満足層は31.1%と約1/3である。逆に、「大いに不満」2.4%、「不満」9.5%を併せると11.9%である。ビジネス属性別では、有料利用者の47.9%が満足層であり、無料コンテンツのみの利用者層の24.9%の満足層と差異が見られる。
電子書籍に対する不便な点では、「眼の疲れ」、「画面が小さい」、「電源容量」などのハードウェア環境関係が約35%前後の選択あり、また「ダウンロード時間が遅い」約40%などの通信環境への不満も多い。ただし、これらは情報通信端末の技術革新と次世代ネットワーク環境の整備の中で解消されていく問題と考えられる。また、コンテンツ面に対する不満としては「タイトル数が少ない」が21.0%あるが、過去のVTR普及の立ち上がり時期と同様な現象と考えられる。
2007年度あたりから一種の社会現象として取り上げられてきたケータイ小説では、全体の利用率は10.2%と1/10程度であるが、利用中心層では、女性10代38.7%、女性20代19.8%が突出している。
またケータイ小説の単行本購入者は19.9%であり、電子書籍全体での単行本購入者の約10%と比較して2倍程度と高い。
以上、インプレスR&Dの調査に基づき携帯電子書籍の個人利用をまとめてみた。主なコンテンツ分野は趣味・娯楽分野であり、ここから電子書籍市場の全体像を結論付けることはできない。本報告書の冒頭でも触れていたように辞書・辞典類などは、初期のCD-ROM媒体時代(例えば、平凡社『世界大百科事典CD-ROM版』)、CD-ROM媒体+追加コンテンツのインターネット提供(例えば、マイクロソフト『エンカルタ』)などの過渡期を経て、国内では電子辞書提供2社(カシオ計算機・シャープ)による寡占化と、インターネット上の検索エンジンの内部辞書に概ね収束している(2)。また、インターネット上のCGM(Consumer Generated Media)として著名な“Wikipdelia”プロジェクトなどの存在も見逃せない(3)。
また過去には二次情報データベース提供サービスとして独立したビジネスモデルであった情報検索データベースが一次コンテンツそのものを取り扱うようになり、電子書籍市場との境目は溶解しつつある。この意味では、1990年代以降の情報提供環境、ビジネスモデルの急激な変容の中において、「新しい技術、サービスは過去の似姿で登場する」ことを経験しているとも言えよう。それは初期の活版印刷本が写本の似姿で登場したのとも符合しよう。
こうした意味で本調査が対象としている電子書籍を始め、電子雑誌(電子ジャーナル)、電子新聞等々のラベルも過去の似姿からの名称とも言えよう。
(1) 電子書籍ビジネス調査報告書2008:市場規模・最新市場動向・ユーザー調査掲載. インプレスR&D, 2008, p.192-193, (インプレスR&D インターネット総合研究所 調査報告シリーズ).
(2) 旧モデルを引き継ぐ、現在のネット上での個人向け各種デジタルコンテンツ検索サービスの代表的なものに、日立システムアンドサービスの「ネットで百科forブロードバンド」などがある。
日立システムアンドサービス. “ネットで百科 for ブロードバンド”.
http://www.kn-concierge.com/netencybb/, (参照 2009-01-15).
「知のコンシェルジェ」を標榜し、コンテンツ間のクロスレファレンスと索引を有する威容的なシステムではあるが、ビジネスモデルとしてはどうであろうか。なおシステムの全体特徴など、詳細は次を参照されたい。
三分一信之, 藤井泰文.“知のコンシェルジェ:百科知識によるコンテンツ検索”. 知のデジタル・シフト:誰が知を支配するのか?. 石田英敬編. 弘文堂, 2006.
(3) Wikipediaプロジェクトはラリー・サンガー、ジミー・ウェールズが2001年1月に提唱した。名称は、オープンソースソフトウェア“Wiki”とエンサイクロレディアの後半“Pedia”の合成語で、直訳すれば「Wikiによる学び」の意味である。日本語版は、下記のとおり。
“メインページ”. フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』.
http://ja.wikipedia.org, (参照 2009-01-15).
また姉妹プロジェクトに辞書プロジェクト「Wiktionary」、電子図書類の有機的構築プロジェクト「Wikibooks」、テキスト文献のアーカイブ「Wikisource」、画像、音声、動画などの集積「Wikimedia Commons」などがある。