5.1 Googleの動向 ~Scholar、Book Searchを中心に~


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国立国会図書館関西館 事業部図書館協力課  村上 浩介(むらかみ こうすけ)

(1) はじめに

 2004年、優れた検索エンジンを擁してインターネットビジネスを主導してきたGoogleが、2つのサービスを発表し、米国の図書館界に大きな衝撃を与えた。学術文献専用の検索サービス“Google Scholar”と、図書館蔵書や出版社の販売書籍をデジタル化して提供する“Google Print”(後の“Google Book Search”)である。

 実のところ、これらのサービスは、Googleが新規に創出したものではない。学術文献の検索サービスとしては、EBSCOの“Academic Search Premier”やThomson Scientificの“Web of Science”など、すでに商用のものが存在しており、研究図書館を中心にサービスの重要な一翼を担っていた。また書籍のデジタル化についても、ボランティアベースで始まった書籍デジタル化プロジェクト“Project Gutenberg”、主に大規模な図書館による自館蔵書のデジタル化、出版社による電子ブック・電子ジャーナルの刊行など、数多くの先例がある。折しも前年の2003年には、世界最大のオンライン書店Amazon.comが、契約した出版社の書籍について、本文の全文検索・数ページの閲覧を可能とするサービス“Search Inside the Book”を開始し、注目を集めていたところであった(1)

 しかしながら、Googleのこの2つのサービスは、設立当初から提供されているウェブサイト検索サービスと同様、膨大なコンテンツを対象とし、しかも誰もが無料で簡単に利用できるという点で、それまでのものとは大きく異なっていた。またGoogleがすでに、多くのインターネット利用者にとって不可欠なツールとなっていたこともあり、従来図書館が果たしてきた役割が、Googleに取って代わられるのではないかという危機意識を、多くの図書館員に喚起したのである。

(2) 世界を席巻するGoogleのサービス

 1998年、友人から借りたガレージで創業したGoogleは、そのわずか2年後に世界最大の検索エンジンに成長する。先行するYahoo!などの検索サービスが、主に、独自の分類に基づいてウェブサイトを組織化し、ディレクトリ形式で提供するというものであったのに対し、Googleの検索サービスは、ウェブサイトを機械的に収集して本文を索引化し、単一の検索語入力ボックスに入力された語と適合したものを提供するというものである。Googleが収集したウェブサイトは、他のサイトからどのくらいリンクされているかという被リンク(back links)数など、多くの評価基準によって重み付け(ページ順位(pagerank)と呼ばれる)がなされており、入力された検索語との関連度(relevance)と合わせてランク付けされた形で、検索結果の一覧が表示される。一覧表示中の各レコードには、該当するウェブサイトへのリンク、コンテンツの一部分(スニペット(snippet) と呼ばれる)、機械的に収集した時点のコンテンツのコピー(キャッシュ(cache)と呼ばれる)へのリンクが付されている。このようなシステムが、多くの利用者にとってわかりやすく、便利で、迅速で、またある程度正確なものとして、広く受け入れられることとなったのである。

 もっとも、Googleはこの検索エンジンの成功に飽き足らなかった。ウェブサイトの検索に留まらず、新しいサービスを次々と展開する。2001年には商品カタログの検索サービス“Google Catalogs”、2002年にはニュース提供サービス“Google News”や商品検索サービス“Froogle”などを開始し、2003年には小包やフライト情報などを、ウェブサイトと同じ検索画面から検索できるようにした。そして2004年の“Local Search”(後の“Google Maps”)、2005年の“Google Earth”によって、遂に(物質としての)地球そのものを、衛星の視点から検索できるまでになった。2006年には、連邦政府の情報を検索できる“U.S. Goverment Search”、特許を検索できる“Google Patents”を提供したほか、米国国立公文書館・記録管理局(NARA)や航空宇宙局(NASA)といった連邦政府機関とパートナーシップを結び、それぞれが所蔵する第二次世界大戦の動画資料や、月・火星の資料をデジタル化して提供する計画を発表している。

 Googleはまた、自社の優秀なエンジニアによるこのような開発成果に加え、先行する企業を買収してGoogleブランドに吸収するM&A事業も展開しており、2001年には老舗のニュースグループ“Usenet”(後の“Google Groups”)、2002年にはブログサービス“Blogger”、2004年には画像管理・共有サービス“Picasa”や、“Google Maps”に大きく貢献することになるデジタル地図管理サービス企業を傘下に加えている。2006年に大手動画共有サービス“YouTube”を買収したニュースは、YouTubeの知名度もあいまって、一般の雑誌や新聞をも大いににぎわした。

 このようなGoogleの躍進を支えているのは、多額の広告収入である。2000年に開始された、Googleの検索結果に連動して広告を表示するサービス“Google AdWords”は、瞬く間にGoogleを黒字に押し上げた。またGoogle以外のウェブサイトの一角に、当該ウェブサイトの内容に連動したGoogle AdWordsの広告を表示してもらい、その広告のクリック数に応じてウェブサイト管理者に対価を支払うサービス“Google AdSense”が2003年に開始されると、手軽に収入を得たいウェブサイト管理者がこぞってこれを導入し、Google AdWordsの価値は大きく高まった。

 さらに、Googleが利用者を引き付けた要因として、主要なサービスのAPI(Application Programming Interface)を無償公開していることも挙げられよう。このAPIを利用することで、Google以外のウェブサイトから、Googleのサービスの実行結果を利用できるようになる。これにより、技術力があれば誰でも、Googleを利用した新しいサービスを作れるようになった。またGoogleは、ウェブブラウザ上で稼働するメール、カレンダー、ワープロ、表計算、RSSリーダーといった個人向けソフトも提供しており、これらを自由に組み合わせて個人用の画面“Personalised Homepage”の機能を作ることもできる。

 Googleが提供している多くのサービスは「ベータ版」と銘打つ、実験段階のものである。サービスが開始され、十分に人口に膾炙し広く利用されているのに、ずっとベータ版のまま改良が続けられているのである。またベータ版のさらなる予備軍を提供する“Google Labs”という、実験の前の実験室まで公開されている。実験段階でありながら果敢に提供し、利用者の指摘・評価を反映しながら、より優れたものへと進化させている。このような姿勢も、利用者の好感と期待を集めている。

(3) Google Scholarの登場

2004年11月にGoogle Labsから巣立ったGoogle Scholarは、「学術文献を幅広く検索するための」ツールであり、「学術出版社、専門職協会、プレプリント・リポジトリ、大学等の学術機関が提供しているピア・レビュー誌の論文、学位論文、図書、要約、記事」を一度に横断的に検索できる、とされている(2)。ところが、何をもって「学術」と見なすのか、どの情報源からデータを入手しているのか、収録範囲はどの程度か、どのくらいの頻度で更新されるのか、といった情報はほとんど公開されなかった(2007年1月現在でも公開されていない)ことから、公開から程なくして、多くの図書館員や研究者がGoogle Scholarの検証を行い、その成果を公表している(3)

 ヤチヨ(Peter Jacso)によると、Google Scholarで検索できる文献は、IEEE、Wiley、シカゴ大学出版のような学術出版社・大学出版会や、学術出版社のデータをデジタル化・ホスティングしているHighWire PressやIngentaといった企業、米国物理学会や国立衛生研究所(NIH)などの学協会・政府機関、arXiv.orgやCiteBaseといったプレプリント・リプリントを収録しているリポジトリなどから収集したものである。ただし、大手出版社Elsevierのデータは提供されていない、学術文献ではないものがヒットする、商用データベースでヒットするのにGoogle Scholarではヒットしない学術文献がある、などの欠点が存在することも指摘されている(4)

 検索対象となっているのは、これらの文献のメタデータと、全文データから作成した索引である。ただし、この索引付けには、(一般のウェブサイトの検索でも同様であるが)ファイルサイズの制限があり、プライス(Gary Price)が調べた280ページのPDFファイルの例では、本文のおよそ半分までが索引付けされており、検索できたという(5)

 利用者は、これらのデータをウェブサイト同様の単一の検索語入力ボックスから、また著者・雑誌名・出版年・主題分野などを指定したりできる詳細検索画面から検索することができる。その検索結果は、ウェブサイトと同様に、メタデータとスニペットが一覧で表示され、メタデータのタイトル部分が、文献へのリンクとなっている。またGoogle Scholar独自のものとして、当該文献を引用している文献や関連する文献へのリンク、同じ検索語でウェブサイトを検索するためのリンクも表示されている。さらに、GoogleはOCLCの総合目録“WorldCat”のレコードも収集している(6)ため、図書資料でWorldCat中に所蔵がある場合は、WorldCatを通して所蔵館を検索するための“Library Search”というリンクが表示される。またこのほかにも、英国図書館(BL)のドキュメント・デリバリー・サービス“BL Direct”へのリンクが表示されるデータもある。ただし、検索結果のソート機能が不十分で、また出版年の信頼性には疑問があるという指摘もある(7)

 なお、Google Scholarで検索できる文献のすべてが無料で全文を見られるようになっているわけではなく、商用データベースの抄録だけが表示される場合も多い。このような文献は、Google Scholarから遷移した先の商用サービスのページで、有料で全文が閲覧できる旨、案内されていることが多い。ただし、Google Scholarは2005年5月からOpenURLリンクリゾルバに対応しており(8)、これを適切に設定することで、検索結果に自機関の契約コンテンツの画面へのリンクを表示することができる。これにより、電子ジャーナルなど当該文献を購読契約し、OpenURLリンクリゾルバを採用している研究図書館では、Google Scholarから電子ジャーナルにシームレスに案内することができ、利用者も無料でコンテンツを見ることができるのである。

 GoogleはGoogle Scholarの詳細を明らかにせず、どのような文献が、どのくらいの頻度で収集されているかわからない。機能面でも不十分なところがある。またすべての文献を誰もが無料で見られるというわけではない。このような課題があることから、多くの評者からは、商用データベースにとって代わる存在ではないと見なされている。もっともそのインターフェースのわかりやすさは評価されており、OpenURLリンクリゾルバを通した既存のツールとの連携を試みている研究図書館もいくつかある。また研究図書館のサービスを利用できない利用者にとって、重要な学術情報検索ツールであることは間違いない。今後、Google Scholarがどのように改良されていくのか、注目される。

(4) Google Book Searchとその波紋

 Google Scholarに遅れること1か月、Googleは2004年12月、これまで進めてきた、主に出版社と協働しての書籍デジタル化プロジェクト“Google Print”を拡張して、ハーバード大学図書館、スタンフォード大学図書館、ミシガン大学図書館、オックスフォード大学図書館、ニューヨーク公共図書館の5館と、蔵書をデジタル化してGoogleから検索できるようにすることで合意したと発表した(9)。もっとも、オックスフォード大学側の担当者ミルン(Ronald Milne)によると、Googleは2002年ごろから図書館とのパートナーシップを検討していたようで、蔵書のデジタル化についての本格的な検討も、2003年中に始められている(10)

 このプロジェクトの成果として、図書館の蔵書データがGoogle Printで検索できるようになったのは、Google Printの試験公開(2005年5月)から半年後の2005年11月である(11)。そして同時期に、Google Printから“Google Book Search”へと名称が変更された(12)。また2006年8月には、パブリックドメインとなっている資料のダウンロードが可能になった旨が発表されている(13)。この間、Google Book Searchに参加する図書館は、“Google 5”と称される初期の5館から拡大の一途を遂げ、2007年2月5日に加わったプリンストン大学図書館までで、合計12館となっている(14)。この中には、英語圏以外の図書館として、スペインのカタロニア国立図書館、マドリード・コンプルテンセ大学図書館も含まれている。

 Google Book Searchは、出版社や著作権者の書籍をデジタル化する“Partner Program”と、図書館の蔵書をデジタル化して提供する“Library Project”の2つからなる。Partner Programは、出版社や著作権者との契約に基づくもので、書籍の情報をより多くの人の目に触れさせられる、有力なマーケティングツールとして宣伝されている。デジタル化の費用はGoogleが負担するとされており、出版社が希望する場合、検索結果に応じた広告を付与し、その収益の大半が出版社に提供される。提供された資料は、その全文が検索対象となるものの、利用者は本文の1ページと、その前後それぞれ2ページ、都合5ページ分だけを一度に見ることができる。また利用者はGoogleに登録する必要があり、その利用履歴はチェックされている。これにより、書籍の全ページを見ることはできない(1か月間に見られるのは、全体の20%以内)ようになっており、出版社の利益は保護されている。また権利許諾が取れていないページについては、見ることができないようになっている。

 これに対し、Library Projectは、出版社や著作権者との契約に基づかないで、図書館の蔵書をデジタル化するものである。提供される蔵書は、図書館側で指定することができ、たとえばミシガン大学図書館は全蔵書780万冊を、オックスフォード大学図書館はパブリックドメインとなっている蔵書100~150万冊を対象としている。またミルンによると、オックスフォード大学の場合、デジタル化は現地で行われており、図書館員が保存状態を見てスキャニングに適さないと判断した資料のみ、対象外となるのだという(15)。デジタル化の費用はPartner Program同様、Googleが負担することになっており、デジタル化されたデータはGoogleと図書館のそれぞれが保有することになる。利用者は全文を検索でき、パブリックドメインとなっている資料はその全体を、著作権保護期間内の資料はヒットした検索語の周囲のスニペット(活字によって異なるがおよそ4~5行分)3つ分だけを見ることができる。もっとも、中には本文がまったく見られないものもある。上述のとおり、パブリックドメインとなっている資料は、PDF形式のデータをダウンロードすることができる。

 検索画面は単一のものであり、Partner Program、Library Projectのいずれから提供されたデータであるかは、検索結果に現れる個々のタイトルを表示しないとわからない。通常の検索画面は、ウェブサイト同様の単一の検索語入力方式を採用しており、全書籍を検索対象とするか、全文が見られるパブリックドメインとなっている資料だけを対象とするか選ぶことができる。また詳細検索画面では、OCLC が提供しているWorldCatの目録データだけを対象とした検索も選ぶことができるようになっている。タイトル、著者、出版社、出版年、ISBNなどを指定しての検索も可能である。

 検索結果の一覧表示画面では、表紙のサムネイル画像、メタデータ、本文の閲覧可否(Partner Programの場合は“Limited Preview”、Library Projectの場合は“Full View”、“Snipett View”、“No Preview Available”のいずれか)、書籍の詳細情報へのリンク、目次画面へのリンクが表示され、メタデータのタイトル部分が、書籍のデジタルデータへのリンクとなっている。

 Partner Programで提供された書籍、Library Projectで提供された書籍のうちパブリックドメインとなっているものについては、書籍のデジタルデータとして、検索語にヒットしたページ、表紙のサムネイル画像、書誌情報の要約、書誌情報の詳細情報へのリンク、目次、当該書籍を販売しているオンライン書店(Amazon.comなど)へのリンク、WorldCatの目録情報へのリンク(“Find this book in a library”)、書籍内を検索できる検索語入力ボックスが表示される。Partner Programの場合はさらに、検索語に関連した広告と出版社の情報が、パブリックドメインとなっている書籍の場合は「ダウンロード」のボタンが表示されている。ともにデジタルデータでは、ページの拡大・縮小や全画面表示を行うことができ、ページ送りやスクロールで前後を見ることができる。また書籍の詳細情報の表示画面には、表紙のサムネイル画像、書誌情報、デジタルデータへのリンク、当該書籍のキーワード、書店・WorldCatへのリンク、サンプルページへのリンク、関連する書籍へのリンク、当該書籍の中で言及されている場所を示したGoogle Mapsの画面(これは存在しない場合もある)、検索語入力ボックスが表示されている。Partner Programの場合はさらに検索語に関連した広告が、パブリックドメインとなっている書籍の場合は「ダウンロード」のボタン、元の書籍の所蔵館とデジタル化した日付、異版の情報などが表示されている。

 Library Projectで提供されたデータのうち、著作権保護期間内であるためスニペットで表示されるものにおいては、デジタルデータ表示画面と書籍の詳細情報表示画面は同一であり、スニペット画像のほか、表紙のサムネイル画像、書誌情報、元の書籍の所蔵館とデジタル化した日付、目次、当該書籍のキーワード、書店・WorldCatへのリンク、書籍内検索、関連する書籍へのリンク、Google Mapsの画面が表示される。本文がまったく見られないものも、スニペット画像を除き、これとほぼ同様の情報が表示される。

 もっともこのLibrary Projectに対しては、多くの出版社や著作権者団体から、異議が申し立てられている。GoogleはLibrary Projectの対象資料のうち、出版社や著作権者から申請があったものについてはデジタル化しないという、いわゆる“Opt-Out”方式を採用して権利者の保護を図っているが、権利者側は許諾を得てからデジタル化を行う“Opt-In”方式を採用すべきであり、Googleのやり方は著作権侵害であるとして訴訟を起こしたのである。これに対し、GoogleやGoogle 5のミシガン大学図書館は、著作権法の例外として認められているフェアユースに当たると主張し、真っ向から対立している。この問題については、米国議会図書館(LC)の議会調査局(CRS)がレポートを出している(16)ほか、数多くの論者が検討している。紙幅の都合上、本稿ではこの議論は割愛するが、これらを仔細にレビューしたバクシク(Corinna Baksik)(17)、プロスキン(Emily Proskine)(18)はともに、裁判所の判断がどのようなものとなるか、まだ明らかではないとしつつも、Googleに有利とする結論を出している。

 Google Book Searchの意義を論じた論考の中で、ラッキー(Robert Lackie)はGoogle Book Searchの最大の成果を、大規模な蔵書デジタル化(mass digitization)が可能であることを知らしめたことであるとし、図書館は「パンドラの箱を開けつつある」とする(19)。Google 5の各館が提供する蔵書のデジタル化だけでも、10年以上の期間と膨大な金額がかかると目されている。しかし、このプロジェクトによって、前例のない大規模なデジタル図書館が構築されることは間違いなく、図書館の存在意義も含めた広範な議論が展開されている(20)

(5) おわりに

 本稿ではGoogleの発展の経緯を踏まえつつ、図書館に大きな影響を与えたGoogleの2つのプロジェクト、Google ScholarとGoogle Book Searchについて紹介してきた。これらのプロジェクトを契機に、2005年には図書館とGoogleに関する初の本格的な論集“Libraries and Google”が刊行される(Internet Reference Services Quarterly誌の第10巻第3/4号が図書として同時刊行されたもの)など、米国ではGoogleと図書館の関わりについての多くの論考が世に出た。中には、Googleに対する嫌悪感・恐怖感をあらわにするものもあるが、Googleをツールとして利用し、Googleと図書館サービスとを相互補完的に考えていく戦略を提唱する図書館員が多いように思われる。

 またGoogle側も、これを意識してか、米国図書館協会(ALA)の大会に参加したり、ALAの禁書週間などとタイアップしたり、図書館員向けにブログやニューズレターで情報を提供するサービス“Google Librarian Central”などを展開したりしている(21)。また2005年11月には、LCとパートナーシップを結び、“World Digital Library”構想に300万ドルの資金提供を行うことも発表されている(22)

 なお、本稿で取り上げたGoogleのプロジェクトに追随する形で、競合する企業も類似のプロジェクトを展開している。本来はこれらのプロジェクトについても論じるのがフェアであるが、本稿ではこれらの比較研究を行っている日本語文献を紹介するに留めることとする。

 Google Scholarの対抗馬としては、Microsoftの“Windows Live Academic Search”や、 Elsevierの“Scirus”が挙げられる。これらについては、ヤチヨ(23)や片岡真(24)が比較を行っている。

 またGoogle Book Searchの対抗馬としては、Microsoftの“Windows Live Search Books”や、Yahoo!やInternet Archiveなどによる連合体Open Contents Allianceのプロジェクト、例えばInternet Archiveの“Text Archive”などが挙げられる。さらには欧州連合(EU)による欧州デジタル図書館計画も、Googleへの対抗を意識している。これらについては、鈴木尊紘による比較がある(25)。また、上述のAmazonの“Search Inside the Book”の展開も注目されるところである。複数のプロジェクトに参加している図書館もあり、図書館側の戦略も見逃せない。

 これらのプロジェクトは拡大を続けており、不定期にコンテンツが追加されている。またその機能はいずれも改良が続けられている。デジタル時代の図書館サービスを提供する図書館員は、継続的にこれらの情報を確認し、その動向から目を離さないようにすると同時に、絶えず検証を続け、図書館サービスとしてどのように利用できるか、また利用者にどのような案内を行うべきか、考えていかなければならないだろう。



(1) “Amazon.com社,書籍の本文検索サービスを開始”. カレントアウェアネス-E. 2003, (26), E146. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=152>, (参照 2007-02-12).

(2) About Google Scholar”. Google Scholar BETA. http://scholar.google.com/intl/en/scholar/about.html>, (accessed 2007-02-12).

(3) これらの検証結果については、ラッキー(Robert Lackie)やカリコット(Burton Callicott)らが簡潔なレビューを行っている。Robert Lackie. “Google’s Print and Scholar Initiatives: The Value of and Impact on Libraries and Information Services”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p.57-70.; Burton Callicott. “Google Scholar vs. Library Scholar: Testing the Performance of Schoogle”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p. 71-88.

(4) Peter Jacso. “ Google Scholar: the pros and the cons”. Online Information Review. 2005, 29(2), p.208-214. http://www.emeraldinsight.com/Insight/ViewContentServlet?Filename=Published/EmeraldFullTextArticle/Pdf/2640290206.pdf, (accessed 2007-02-12).

(5) Gary Price. “Google Scholar Documentation and Large PDF Files”. SearchEngineWatch. 2004-12-01. http://blog.searchenginewatch.com/blog/041201-105511, (accessed 2007-02-12).

(6) “OCLC,WorldCatレコードをGoogleに提供”. カレントアウェアネス-E. 2003, (27), E149. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=155, (参照 2007-02-12).

(7) Robert Lackie. “Google’s Print and Scholar Initiatives: The Value of and Impact on Libraries and Information Services”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p. 67.

(8) “Google Scholar Institutional Access” Google Press Center. 2005-5-10. http://www.google.com/press/pressreleases05.html, (accessed 2007-02-12).

(9) “Google Checks Out Library Books”. Google Press Center. 2004-12-14. http://www.google.com/press/pressrel/print_library.html, (accessed 2007-02-12).

(10) Ronald Milne. “The Google Library Project at Oxford”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p.23-28.

(11) “Google Makes Public Domain Books Accessible To The World”. Google Press Center. 2005-11-3. http://www.google.com/press/pressrel/print_publicdomain.html, (accessed 2007-02-12).

(12) Jen Grant. “Judging Book Search by its cover”. Official Google Blog. 2005-11-17. http://googleblog.blogspot.com/2005/11/judging-book-search-by-its-cover.html, (accessed 2007-02-12).

(13) “Google Book Search Offers Free Downloads of Public Domain Books”. Google Press Center. 2006-8-30. http://www.google.com/intl/en/press/annc/booksearch_download.html>, (accessed 2007-02-12).

(14) “Google Book Search Library Partners”. Google Book Search. http://books.google.com/googlebooks/partners.html, (accessed 2007-02-12).

(15) Ronald Milne. “The Google Library Project at Oxford”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p.27.

(16) Robin Jeweler. “The Google Book Search Project: Is Online Indexing a Fair Use Under Copyright Law?”. CRS Report for Congress. RS22356. 2005. http://opencrs.com/rpts/RS22356_20051228.pdf, (accessed 2007-02-12).

(17) Corinna Baksik. Fair Use or Exploitation? The Google Book Search Controversy. Portal: Libraries & the Academy. 2006, 6(4), p.399-415.

(18) Emily Proskine. Google’s Techinicolor Dreamcoat: A Copyright Analysis of the Google Book Search Library Project. Berkeley Technology Law Journal. Annual Review 2006. 2006, 21(1), p.213-239.

(19) Robert Lackie. “Google’s Print and Scholar Initiatives: The Value of and Impact on Libraries and Information Services”. William Miller et al. ed. Libraries and Google. 2005, p.63-65.

(20) 米国図書館情報学国家委員会(NCLIS)も、2006年3月にミシガン大学で行われた大規模蔵書デジタルプロジェクトに関するシンポジウムの報告書を刊行している。この事実から、国家レベルで注目されているトピックであると言うことができよう。

“Mass Digitization: Implications for Information Policy”. Ann Arbor, MI., 2006-03-10/11, U.S. National Commision on Libraries and Information Sciences. 2006. 24p. http://www.nclis.gov/digitization/MassDigitizationSymposium-Report.pdf, (accessed 2007-02-12).

(21) “GoogleがALA年次大会に参加”. カレントアウェアネス-E. 2006, (88), E521. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=528, (accessed 2007-02-12).

(22) “LCのWorld Digital Library構想にGoogleが協力”. カレントアウェアネス-E. 2005, (72), E416. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/cae/item.php?itemid=422, (参照 2007-02-12).

(23) Jacso, Peter. 引用データによって強化された学術情報データベースをいかに評価するか. 高木和子ほか訳. 情報管理. 2005, 48(12), p.763-774. http://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/48/12/763/_pdf/-char/ja/, (参照 2007-02-12).

(24) 片岡真. “Google Scholar,Windows Live Academic Searchと図書館の役割”. カレントアウェアネス. 2006, (289), p.19-22. http://www.dap.ndl.go.jp/ca/modules/ca/item.php?itemid=1040, (参照 2007-02-12).

(25) 鈴木尊紘. マスデジタイゼーションプロジェクトと図書館: Google, OCA, MSN, EUデジタル図書館. 現代の図書館. 2006. 44(2), p.82-92.



 

Ref:

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