第2章 米国の一般的な図書館のすがた
1. 公共図書館
1.1 ヴァーモント州モンペリエのケロッグ・ハバード図書館
Grace Worcester Greene
Children’s Services Consultant, Vermont Department of Libraries
(ヴァーモント州図書館庁児童サービス・コンサルタント グレース・ウースター・グリーン)
図書館とコミュニティについて
ケロッグ・ハバード図書館はヴァーモント州の州都、モンペリエにある。ヴァーモント州は面積がアメリカで8番目に小さな州で、人口では49番目、2005年の国勢調査の推定では人口わずか623,050人の州である。さらにモンペリエはアメリカ最小の州都で、人口わずか8,000人である。モンペリエに加えて、当館は周囲の5つの町の図書館でもある。東モンペリエ、ベルリン、ウースター、カレイそしてミドルセックスである。これらの街をあわせての人口はおよそ17,700人である。この地域の住民に加え、モンペリエで働く州政府の公務員達も当館を利用し、また観光シーズンには(ヴァーモント州では3回のシーズンがあり、秋には紅葉、冬にはスキーその他ウインタースポーツ、そして夏には山と湖を楽しめる)、多くの人々が当館のコンピュータを利用して自分達のメールをチェックしている。
1895年に設立された当館は、ヴァーモント州産の御影石で出来た淡い色の美しい建物で、州都のメインストリートに面している。外見と同じく内装もエレガントで、優雅なロビー、凝った木工細工、そして広い閲覧室がある。1975年には裏手に増築され、最近では2001年に増築と改築が完了している。最近の増築の主要な要因は1992年の洪水で、近くのウィヌスキ川からの氷によりせきとめられたことで発生した洪水による被害であった。それまでは地下にあった子どもたちのための部屋はたいへんな被害を受け、多くの蔵書が失われた。
図1 ケロッグ・ハバード図書館外観
統計
当館は73,356点の資料を収蔵し、14,306人の登録利用者を有している。一日当たり平均4人の新しい利用者がある。2001年に増築して以来、一定して閲覧件数は増加している。〔2006年の〕最新の数字では、292,590件(一日平均1,015)である。これは2000年に比べると69%の増加で、2000年の数字は172,643件であった。最も大きな伸びを示したのはヤングアダルト向け資料で、2001年には814の貸し出し数であったのが、2006年の総数は15,995件となり、なんと1,965%の伸びを示している!
表1 その他2006年の統計
レファレンス質問 | 総数(件) | 37,805 |
一日平均(件) | 131 | |
インターネット利用 | 総数(件) | 38,974 |
一日平均(件) | 135 | |
図書館間相互貸借 | 借受(冊) | 1,196 |
貸出(冊) | 438 | |
子ども向けプログラム | プログラム数(回) | 310 |
参加人数(人) | 8,852 | |
成人向けプログラム | プログラム数(回) | 92 |
参加人数(人) | 3,442 |
スタッフ
当館は、小規模な地方の図書館としてはまれな管理方法をとっている。2人のディレクターがおり、直接Board of Trustees(評議会)に報告をし、同額の給与をもらっている。チームには図書館長のファリントン(Hilari Farrington)と事務局長のハーン(Martin Hahn)がおり、前者は蔵書とサービス、そして後者は財務を担当している。これは2005年にスタートした新体制である。それまでは図書館長が図書館運営の全てに責任を負っていた。しかしファリントン館長は資金調達にかかる時間があまりにも多くなり、伝統的な図書館サービスに費やせる時間が次第に短くなってきたことに気づいたのである。この2人の長に加え、当館には12人のスタッフと(うち5人だけがフルタイム)、6人のアシスタント(学生アシスタント)、そして96人のボランティアがいる。MLSの学位取得者はわずか2名で、図書館長とパートタイムの児童書の目録担当者である。
図2 ケロッグ・ハバード図書館スタッフ
予算と資金調達
他のほとんどの州と違い、ヴァーモントには州政府からの資金はない。そこで地方の図書館は各自治体の資金や民間からの寄付に頼らざるを得ない。当館ではその運営費の最も多くをヴァーモント州の公共図書館向けの、地元の慈善寄付金から得ている。
表2 ケロッグ・ハバード図書館の2007年予算(単位:ドル)
歳入 | |
---|---|
基本財産の投資配当 | 230,000 |
寄付金 | 147,000 |
モンペリエ市・町 | 318,000 |
助成金 | 60,000 |
その他歳入 | 82,000 |
歳入合計 | 837,000 |
支出 | |
給与と福利厚生費 | 574,445 |
暖房費及び水道光熱費 | 33,999 |
保険 | 14,831 |
修理・保守整備費 | 31,000 |
その他設備費 | 32,172 |
成人向け資料購入費および活動費 | 48,574 |
子ども向け資料購入費および活動費 | 21,396 |
総務管理運営費 | 42,775 |
ファンドレイジングの費用 | 24,110 |
技術・通信費 | 11,000 |
総支出 | 834,301 |
資金調達
事務局長の主な仕事は、資金調達(ファンドレイジング)である。当館では基本財産のために300万ドルの資金を調達するキャンペーンを開始した。2006年度末で、目標の3分の1程度を達成している。資金調達の方法には直接の訴え、特別なイベント、慈善くじ、本の販売、そして助成金申請などがある。
アドヴォカシーとPR
広報
当館は、プログラムやサービスについて人々に知らせるのに、複数の方法を用いている。ウェブサイトでは図書館についての基本情報と、これから行われるプログラムについてのニュースを提供している(http://www.kellogghubbard.lib.vt.us/)。
またコミュニティのブログである“Montpelier Matters”(http://montpelier-vt.blogsopot.com/)に記事を投稿したり、最近では当館のブログ(http://Kellogghubbard.blogspot.com)も立ち上げたりしている。
また少なくとも毎月1回、希望者全員に電子メールでニューズレターを配信している。また毎月、館内に成人向けと子ども向けの2種の印刷物のニューズレターを置いている。さらに年2回、図書館カードを作成している人たち全員にニューズレターを送っている。定期的に地元の新聞The Times Argusと無料のコミュニティ新聞The Worldにも寄稿している。月に2回、当館のプログラムディレクターが地元のラジオ局のレポーターと15分間の対談をし、予定されているプログラムや新着資料、スペシャルイベントなどについて話をする。事務局長の最も重要な仕事のひとつに、当館のサービス対象である6つの町との良好な関係を維持することがある。これらの町に当館の活動やニーズに関する情報を提供し、年度予算要求に対する心構えを迫るのである。
新しい利用者を惹きつける
当館は利用者の拡大に力をいれている。男性利用者を増やすために、車の修理、建築、家の修理、スポーツ、狩猟、釣り、ファンタジー、中小企業、その他伝統的に男性が興味を持つ分野の蔵書を改善してきた。またテープやCD形態の資料を大幅に増加させることで、新しい利用者を惹きつけてきた。
ここ数年の間に、多くの難民の家族がこの地域に移り住んでおり、当館では母語で書かれた図書を購入することで、よりスムーズに新しい生活に移行できるよう手助けしている。
最近ではヤングアダルト(12歳から18歳の若年層)にも手を伸ばそうと熱心に取り組んでいる。ティーンのための独立した場所を設け、この年齢層のために購入する図書数を大幅に増やした。これは非常にうまくいき、ここ5年間で、前述のように貸し出しが1,956%も増加することとなった。
アウトリーチ
州の図書館庁から得られる連邦政府の助成金を通じて、当館では、5つの周囲の町に奉仕する地元の学校組織と共同して、ブックモービルを購入することができた。このブックモービルは当館が奉仕する6つの町全てを巡回し、とくに自宅で子育てをしている人たちや、高齢者、低所得者といったこれまでとは異なる利用者にも当館を利用してもらおうとしていた。残念なことに、助成金が尽きてしまったため、今ではブックモービルを走らせることができなくなってしまった。しかしながら、ブックモービルのコーディネーターの給与として割り当てられていた資金を用い、最近、非常勤のアウトリーチ・コーディネーターを採用した。彼女は児童福祉施設や児童センターへ本を届けるように調整し、さらに地域内の他の機関や組織と協力してできる限り多くの人に本を届けられるようにしている。
協力
州
効率よく運営されている全ての組織と同様に、当館も孤立状態で仕事をすることはできないことを学習した。利用者に最良のサービスを提供し、資源を最大限に活用し、できるだけ多くの人に声を届けるために、できる限り多くの他機関や組織と協力しなければならないことを学んだ。州の図書館機関であるヴァーモント州図書館庁は当館と協力して夏の読書プログラムのための資料を提供したり、データベースへのアクセス、技術的支援、また目録作成のための支援や研修を提供している。ヴァーモント州人文科学委員会は文化振興プログラムに資金と助言を提供している。
地域
地域のレベルとしては、当館は様々な形で学校と協力している。例えば協力的プログラム、すなわち、学級単位による当館の訪問、当館での子ども達の作品展などである。モンペリエには年に何度かの大きな祝賀行事があり、当館はその全てに参加している。大晦日には市がパフォーマンスや工作、そしてパレードなど、家族向けの祝賀行事を開催する。当館は少なくともパフォーマンスが行われる会場の1つとなり、また作家を呼んで行うプログラムを1つは行う。独立記念日(7月4日)には、市は大きなパーティを行うが、当館は音楽や工作を行う野外パーティを行うことでこれに貢献している。さらにモンペリエ高齢者センターと協力してそのメンバーに本に関するディスカッションをしてもらったり、地元の音楽学校と協力して学生のコンサートを当館で開催したり、地元の作家や芸術家と協力して当館でのプログラムを作ったり、モンペリエに拠点を置くニューイングランド料理学校と協力して子どものための料理教室を開催したりしている。
プログラムの策定
プログラムの策定は当館の強みである。子ども向けには毎週3回の未就学児のためのお話し会があり、平均で(親子合わせて)60人が参加している。就学児向けのアートと工作のプログラム、祝日のお祝い、(パペット、マジック、ストーリーテリングなどの)パフォーマンスなどが少なくとも毎月1回はある。春には、サービス対象地域にある幼稚園の全てのクラスが当館を見学し、図書館カードを作成する。学校が休みの期間(ヴァーモント州では12月、2月、4月に週単位の休みがある)には、当館は子どもが参加する何かしらのプログラムを企画し、子どもが図書館に来るように促している。夏には、州の図書館庁から提供されたテーマと資料を活用し、夏の読書プログラムを行っている。また、子どもの作品を展示し、保護者や家族のためのオープニング・アート・レセプションを開催する。ヤングアダルトのための定期的なプログラムはなく、ヤングアダルト専任の司書もいないが、子ども向けサービス担当のスタッフが時折、Teen Read Week(アメリカ図書館協会が企画しているプログラム)の行事などのプログラムを行っている。
図3 工作プログラムに参加する子どもたち
成人向けには、本に関するディスカッションプログラム、作家・イラストレーターの講演、情報満載のプレゼンテーション、学術的な講義、ヨガのクラスや映画鑑賞会がある。プログラムディレクターは、常に新しいアイデアを受け入れており、またコミュニティの中で手を貸してくれる人たちを探し出すのに長けており、毎月いくつもの優れたプログラムをアレンジしている。
図4 図書館の利用者
図5 本のキャラクター「大きな赤い犬のクリフォード」といっしょに本を読んでいる子ども
図書館が直面する課題
資金とスタッフ
最大の課題は何か、とアメリカの公共図書館に問えば、そのほとんどが資金とスタッフと答えるであろう。当館は自らの成功の犠牲者となっている。6年前に増築して以来、貸し出しは74%も増加したにもかかわらず、スタッフは最小限の増加に留まっている。町は現在、これまで以上に資金を提供しているが、当館の蔵書とサービスへの要求に応えるのに十分とは言えない。こうした大きな財政上の課題があるために、1年半前に当館では事務局長を採用することにしたのである。
困った利用者たち
また当館を含む多くのアメリカの公共図書館が直面しているもう1つの現在進行中の問題は、思春期の子どもたち(11歳から14歳)が図書館を放課後の待ち合わせ場所、そして迎えの車を待つ場所として利用することである。この特定の子どもたちは図書館の資料を利用する気が全くなく、ただ友達とおしゃべりし、エネルギーを発散する場所が欲しいだけである。放課後のプログラムやクラブ活動用の部屋には全く興味がなく、ただおしゃべりをして騒ぎたいだけなのである。乱暴で汚い言葉を使う子どもたちもいて問題を引き起こしている。バックパックや身体で出入り口や階段をふさいだりすることもある。これはただ単に安全上の問題だけではなく、他の利用者が不愉快に感じたり、怖いと感じたりするという問題でもある。当館では全ての人にとってよい解決策を作るため、モンペリエ警察と協力している。結果として、当館は行動規範の違反者には寛容ではなくなり、実際にトラブルメーカーとなる人たちには立ち入り禁止を言い渡すことになった。
変わる資料形態
全国の司書と同様に、当館のスタッフもまた、変わりつつある資料形態についていこうと懸命である。購入するものをテープからCDへ、ビデオからDVDへと変えてきた。今ではダウンロード可能な図書や映画を視野に入れ、できれば需要よりも一歩先んじていたいと考えている。
公共図書館の運営は常に課題を抱えている。しかし、当館はアメリカの図書館にとって良いことのすべてを体現している。よく訓練され、情報に通じたスタッフ、よい蔵書、責任ある経営管理、優れたプログラム、そして図書館を愛してくれる利用者である。モンペリエと周辺の町の市民は、町の中心に宝石のようなこの図書館があって本当に幸運である。
図6 夜のケロッグ・ハバード図書館