1.2 アメリカの小さな図書館 -サン・プレイリー図書館 (Sun Prairie Public Library)-

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獨協大学 経済学部  井上 靖代(いのうえ やすよ)

所在地: 1350 Linnerud Dr., Sun Prairie, WI 53590
URL: http://www.sunprairiepubliclibrary.org

<プロフィール>

図書 92,271冊
逐次刊行物 947タイトル
オーディオ資料 6,073点
ビデオ資料 7,203点
そのほか(マンガ、ファイル資料など) 1,339点
雑誌 275タイトル

一般開放PC:

  36台(うち25台がインターネット接続)

データベース数:

  36
     (うち図書館地域システムが提供しているのは7、州が提供しているデータベースは28)

電子ブック:

  8,156 タイトル

年間増加冊数:

  図書8,768冊 逐次刊行物:278タイトル

貸出:

  子ども188,678点、成人254,505点

登録者数:

  住民15,410人(登録率64.2%) 非居住者987人

レファレンス受付数:

  36,088件

来館者数:

  248,513人

職員数:

  館長(Director)
  成人サービス担当(Adult Services)
  貸出サービス担当(Circulation Services)
  児童YAサービス担当(Youth Services)
  資料整理担当(Technical Services)
  :以上で7.5人
   (うちALA-MLS5.5人、ALA認定校以外の司書資格保持2.5人)
  そのほかの有給職員数:14.48人
  合計:21.98人(約22人)

図書館運営費用:

  収入:1,381,882ドル
   (うち自治体負担額995,863ドル(72.1%)、郡負担額291,646ドル(21.1%)、州負担額1,404ドル(0.1%)、連邦政府負担額1,500ドル(0.1%)、その他の収入91,469ドル(6.6%))

  支出:1,337,031ドル
   (うち人件費92,526ドル(51.8%)、職員福利費240,510ドル(18.0%)、資料費(※)159,916ドル(12.0%)、契約サービス費70,820ドル(5.3%)、その他運営費173,259ドル(%))
   (※資料費の内訳:印刷資料費:119,525ドル、電子情報資料費:2,500ドル、視聴覚資料費:36,892ドル、その他999ドル)

  住民人口ひとりあたりの税金負担額:57.06ドル
   (参考:http://dpi.state.wi.us/pld/xls/05publib.xls

図書館委員会(Library Board):

  現在9名

開館時間:

  月-木:午前9時-午後9時

  金-土:午前9時-午後5時

  日(冬季):午後1時-午後5時 (夏季):休館

  ※冬季:9月第1月曜日(Labor Day)から5月最終月曜日(Memorial Day)まで

  冬季の開館時間:週68時間、夏季の開館時間:週64時間、年間の開館時間:3,467時間

サービス対象:

 サン・プレイリー(San Prairie)(人口約2万4千人、面積11.5平方マイル(約18,507平方メートル)、平均収入51,345ドル)の町だけではなく、アダムズ(Adams)、デーン(Dane)、コロンビア(Columbia)、グリーン(Green)、ポーテージ(Portage)、ソーク(Sauk)、ウッド(Wood)各郡の居住者(7,700人が対象)は、“South Central Library System”のサービス対象エリアとして利用できる。バスなど公共交通機関がないので、利用者は自分の車で来館する。町の中心部から車で10分程度離れている。州都マジソンまで10マイル(約16キロメートル)の距離にある。

活動内容:

 2006年度計画(http://www.scls.lib.wi.us/sunprairie/PlanofService.pdf)によると、“Dane County Library Standards for public library material”に合う規模にすることを目標としている。これによると、8万冊の図書、3,000本のオーディオ資料、2,250本のビデオ、200タイトルの雑誌が求められている。選書はLinkcatにあげられている人気のある本は必ず購入するなど、具体的な方法を示して達成目標を計画に盛り込んでいる。そのほか、レファレンス質問の75~80%に回答できることを2006年度の到達目標に掲げている。図書館内に無線LANを敷設することも目標の一つである。

※“Dane County Library Standards for public library”とは、2002年にデーン郡などいくつかの郡で、郡としての規模でILLの相互扶助が一方的にならないように、各図書館で最低一定規模の資料を所蔵するように決めたものをさす。サン・プレイリーはデーン郡に属している。(参考:Wisconsin Public Library Legislation and Funding Task Force. Crossover Library Use. (Issue Paper # 10). 2002-08-15 updated, http://dpi.state.wi.us/pld/doc/issue10updated.doc

 Linkcatとは、このSouth Central Library System内での総合目録を指し、ここでおすすめの人気ある本が提示されている。システム内で希望(日本でいうところのリクエスト予約)が25冊以上になる人気のある本を、少なくとも1冊は購入しておかないとILLで不公平になる。これはウィスコンシン州の法として、システム内の図書館の50%で、人気のある(リクエストされる)図書を80%は所蔵しておくことを定めるものである。


 つぎに写真を見ながら、この図書館を紹介する。

 「大草原の小さな家」の舞台となったウィスコンシン州にある図書館は冬は厳しく、雪が多い。また、秋から冬にかけてトルネード(竜巻嵐)が頻繁にやってくるので、町のシェルター(避難所)としても建てられている。石造りのしっかりした建物である。内部はゆったりとして家具を多く配置し、長時間居心地よく滞在できるようにしてある。図書館友の会の部屋は、入り口すぐ右手にある。図書館グッズの販売などもおこなう。最近は多くの公共図書館にみられるが、ここの図書館も友の会が図書館財団となって、資金援助や資料援助をおこなっている。

<乳幼児サービス>

 1~2か月から年齢ごとの子育てに役立つ情報の案内と、乳児向け絵本や教育おもちゃなどのおすすめリストが用意されている。すぐ隣には子どもの発達をうながす目的で作られたおもちゃがおいてある。また、絵本だけではなく網状のナップサックのなかにはおもちゃや人形、そのキャラクターがでてくる絵本、関連する絵本や子育てのためのマニュアルなどがセットになって排架してある。ナップサックごと借りる。ベンダーが作成しているセットである。写真は「スノーマン」。

 サインや図書館家具などがわかりやすく、雰囲気をつくりあげる効果のあるものが多いのがアメリカの図書館の特徴である。ベンダーの開発する商品が多いこともさることながら、ベンダー自体が現場の図書館員との交流が多く、ニーズをよくつかんで商品開発を進めている。図書館友の会が資金をだして材料費を賄い、ボランティアが製作した児童司書室は幼児エリアやおはなし室と本の排架エリアを区切っている衝立の役割をはたしている。水槽もボランティアの発想で作られた。魚の世話は友の会やボランティアが当番でおこなっている。床においた幼児用絵本架は背の低い子どもでも表紙をみて選べるように工夫してある。

<コンピュータ利用サービス>

 個人や家庭でPCをもっていない利用者のためのワークステーション。別にPC教室が設置され、週に1回以上PCの使い方教室やインターネットやデータベース(EBSCOとProQuest)の検索教室が開催される。コンピュータ・ラボはインターネットに接続された端末を10台設置。クラスがないときは一般に公開されている。プリントアウトは有料。

<ビジネス支援サービス>

 小さな町の図書館でもビジネス情報サービスはおこなっている。全米組織の友の会が製作・販売している企業のデータベース(Reference USA Business DB)をここの図書館友の会が購入して寄付している。図書館利用証のカード番号と登録する際にもらえるPIN番号を入力するとこのビジネスデータベースが利用できる。検索方法については月1回講習が開催される。また毎週1回、株の投資やビジネス立ち上げ(起業)などビジネスに関する講座が開催される。データベースと印刷媒体両方のビジネス資料の揃っているビジネス・センターは図書館内の別室(ガラス壁で仕切られている)に設けられている。質問はレファレンス・ライブラリアンが受け付ける。

<地域資料サービス>

 地元の新聞を過去のものすべて保存している以外に、市議会や委員会の様子を録画したものを閲覧提供している。そのほか家系を調べる有料データベース(HeritageQuest & AncestryLibrary)を購入して利用に供している。さらに、図書館内にはテレビスタジオがあり、地元ローカルTV局の製作・放映拠点となっている。そのほか子どもたちに体験学習として、演じさせたりカメラで実際に録画させ放映したりと、TV局のすべての仕事をやらせている。一般市民も利用できる。ここの職員は図書館員ではなく、ローカルTV局の職員である。

<バックヤード>

 日本の図書館とあまり大きな違いはない。分類目録などはLC-MARCを活用するので、排架する際にベンダーが販売しているラベル(ここではYA)などをつけるといった工夫が現場の図書館員の判断に委ねられる。休憩室には「図書館マラソン」の道具が置いてある。「図書館マラソン」はファンド・レイジングの一つで、図書館友の会などボランティアが運営し、参加者が支払う参加費をファンドとして図書館運営資金に計上するものである。