E979 – ジャンヌネー氏講演「インターネットと文化:チャンスか危機か」

カレントアウェアネス-E

No.159 2009.10.14

 

 E979

ジャンヌネー氏講演「インターネットと文化:チャンスか危機か」

 

 国立国会図書館では,2009年9月15日と17日に,前フランス国立図書館長ジャン-ノエル・ジャンヌネー(Jean-Noël Jeanneney)氏を招き,講演会を開催した。東京本館で行われた15日の講演会では,長尾真国立国会図書館長との対談も行われた。17日の講演会は,同館関西館を会場として開催された。

 ジャンヌネー氏はフランスの歴史家であり,パリ政治学院教授を務め,ラジオフランス会長,2度の閣外相等要職を歴任し,政治史・メディア史等の分野での著作が多数ある。2002年から2007年までのフランス国立図書館長在任中に,現在Europeana(CA1632, E862参照)として実現している欧州デジタル図書館の創設に尽力し,2005年にはQuand Google défie l’Europe : plaidoyer pour un sursaut(邦訳『Googleとの闘い:文化の多様性を守るために』)を著している。

 講演では,人類の知的遺産普及という観点から新技術の発展を称賛しながらも,文化に影響をもたらすインターネットの二面性を考慮すべきであることがまず述べられた。印刷術の発明が,文化を普及させた一方でマイナーなものが取り残されるという不均衡を生んだことへの類似性にも言及された。文化的多様性,真実性,多数の人がアクセスできることの3点を保証するというインターネットのツールとしての目的を確認したのち,その危険性として,利潤追求の優先,真実でない情報の流通,体系化されない大量の情報の氾濫という3点があげられた。そして,営利企業による独占を許し市場の力のみに任せた場合,情報の順位付けや選択に利潤動機が働き,文化的・言語的多様性が損なわれる危険性があると指摘した。ジャンヌネー氏は,公共と民間の競合によって文化は豊かになるとの考えを示し,2005年のGoogleのプロジェクト発表後に立ち上げられたEuropeanaは,この考えが具現化されたものであるとした。また,情報は重要性の観点抜きに並列的に扱われるべきではなく,ツリーの形で提供するなどの分類・体系化が必要であることが強調された。

 対談は,長尾館長の進行により,会場から寄せられた質問票の内容を交えながら行われた。ジャンヌネー氏はGoogleのデジタル化プロジェクトへの対応について,欧州全体を一つの地域圏としてとらえ,その中での文化的多様性を考慮しながら共通のプロジェクトを進めるべきであると述べた。そして,国の関与を不要とする「見えざる手」の理論と,知には体系化が必要であることへの無理解とが,2つの敵であるとした。その他,Google検索の問題点,デジタル化についての出版社等の懸念とビジネス・モデル,インターネット情報の収集,新聞のデジタル化,デジタルデバイド,他国文化理解の必要性等について意見交換が行われた。

(総務部支部図書館・協力課)

Ref:
Jeanneney, Jean Noel. Googleとの闘い. 佐々木勉訳. 岩波書店, 2007, 166p.
CA1632
E862