E1665 – 第4回LRGフォーラム「貧困と図書館」<報告> 

カレントアウェアネス-E

No.279 2015.04.09

 

 E1665

第4回LRGフォーラム「貧困と図書館」<報告> 

 

 2015年3月8日,第4回LRGフォーラム「貧困と図書館-困った時に頼れる図書館へ」が開催された。フリーランス・ライターのみわよしこ氏の「貧困ジャーナリズム大賞2014」受賞スピーチと,みわ氏と神代浩氏の2名を講師に迎えたトークセッションの2部構成で行われた。ここでは特にトークセッションについて報告する。

 フォーラムのタイトルに掲げられた「貧困」とは,図書館を利用する人たちが知に飢えている「知的貧困」という意味ではなく,生活するための糧が足りないという意味での「貧困」である。みわ氏は,自身が生活保護を必要とする状況に陥りそうになった経験から,生活保護にまつわる現実を『ダイヤモンド・オンライン』で「生活保護のリアル」と題して連載してきた。この取り組みが今回の受賞となり,そのお祝いの席としても企画されたのがこのフォーラムである。

 「貧困」に対してどうすればよいか,直接的な答えを誰もが持っているわけではない。しかし,「困ったときに頼れる図書館」とは,どのようなものか,どうあるべきかを全国の図書館員の有志たちと探り,取り組みをすすめているのが,図書館海援隊隊長の神代浩氏である。トークセッションは,司会のアカデミック・リソース・ガイド株式会社の岡本真による「図書館に求められている役割とは?」という問いから始まった。

 まず,神代氏は,生活保護受給者と図書館やその他の娯楽の間には深い溝があり,誰にでも保障されているはずの「文化的な最低限度の生活」が,十分に保障されているとはいえず,現状の生活保護制度は行き届いていない部分があると指摘した。

 これを受けてみわ氏から示された視点は以下の3つである。

1.生活保護受給者と図書館の関係
 神代氏が思う以上に深い溝があり,生活保護を受けざるを得ない状況の人たちの中で図書館に行く習慣を持つ人はごくわずか,10%もいないのではないかというのが実感である。生活に困窮するあまり,学ぶ時間すら惜しんで働く必要に迫られ,図書館へ行くどころか義務教育を受けることすらままならない家庭環境が原因で,後から学びの大切さに気づき,勉強したい,図書館へ行きたいとは思っても,自身の置かれている環境や,生活保護受給者というレッテルや劣等感に邪魔されてしまう。

2.生活保護制度を利用する意味と国民の無関心 
 「文化的な最低限度の生活」のための生活保護制度のはずなのに,それを利用することを「恥ずかしい」と思ってしまっては,意味が無い。例えば,生活保護費用の削減があっても,誰も指摘しない。これは,貧困に対する無関心はもとより,政府が発表している物事についての基礎教養が皆無に近い国民が多いからではないか。

3.図書館はなにができるのか 
 ここ10年位の間に,図書館の中では「不潔な方,臭う方お断り」という張り紙を見かけなくなってきた。また,そのような人も減ってきた。各種の支援活動が功を奏しているとは感じるが,海外の図書館のように(CA1809参照),ホームレスの皆さんもぜひ図書館へ,と両手を挙げていえる状態には至っていない。

  これらを受けて,図書館に行きたくても行けない,という人をどうやって図書館へ連れて行くか,を個人でもできるレベルから考えてみてはどうか,との司会からの問いかけに,神代氏は,単純に一緒に行くだけでいいのだ,とはっとしたという。

 みわ氏によると「生活保護を受けることが恥ずかしい」というすり込みが影響し,生活保護を受けることで引きこもり,悪循環に陥りがちだという。生活保護受給者にとっての「引きこもり」は,単純に外出が減ることではなく,それまでのありとあらゆる繋がりを断ち,生活保護費だけが社会との繋がりになることを意味するという。

 また,昔はあった社会のセーフティーネットが今は崩壊したことが大きいのではないかと神代氏は指摘する。みわ氏自身の体験にも通じるところだが,地域の人の声掛け,ささいなことでも見落とさずに対応するしくみが失われているのではないか。この点について,会場の全員がその重要性を再確認したところでトークセッションは幕を閉じた。

 以上のように貧困に直面する人々の現状に思いを馳せながら,最後にフロアを含めた議論となった。実際に生活保護を受けていたという男性から,「図書館に行くことは贅沢なのか?」との声があがり,これに対しては,一同「図書館に行くのは当然の権利」との答えであった。特にみわ氏は,現状の制度は,お金はもらえるが,代わりに生活保護受給者自身が判断する権利や自由を奪うしくみになっており,自身を高めていく方向に支援する制度になっていないと気付いた,と答えた。また,高校教員の方からも,学校図書館の役割について質問があがり,生活保護受給者よりも目立たない,家庭に問題を抱えている学生についても言及された。

 本稿では書ききれなかった部分も多いが,参加者が持ち帰ったものは大きいはずである。

アカデミック・リソース・ガイド株式会社・ふじたまさえ

Ref:
http://www.arg.ne.jp/node/7779
http://magazine-k.jp/2015/04/02/poverty-and-library/
http://diamond.jp/category/s-seikatsuhogo
http://antipoverty-network.org/archives/2292
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288450.htm
http://youkoodoo.co.jp/item/困ったときには図書館へ~図書館海援隊の挑戦~/
http://www.nippyo.co.jp/book/6246.html
CA1809