CA1809 – 動向レビュー:ホームレスを含むすべての人々の社会的包摂と公共図書館 / 松井祐次郎

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カレントアウェアネス
No.318 2013年12月20日

 

CA1809

動向レビュー

 

ホームレスを含むすべての人々の社会的包摂と公共図書館

 

調査及び立法考査局 国会分館:松井祐次郎(まついゆうじろう)

 

はじめに

 「公共図書館はホームレス(1)にどう対応すべきか。」これは古くから論じられているテーマである。清重知子は、米国の動向を踏まえ、公共図書館のホームレスに対する態度が二つの立場に分かれていることを指摘している(2)。一方はホームレスの図書館利用に消極的な立場(消極派)である。すなわち、ホームレスの体臭などが他の利用者の利用を妨げている点や、本来福祉事業が担うべきホームレスへの支援を福祉事業ではない図書館が行うことの矛盾を指摘し、不適切と判断したホームレスに対する退館強制を含む利用規制を強化する。他方の立場はホームレスの図書館利用に積極的な立場(積極派)である。すなわち、図書館が歴史的に担ってきた民主・自由社会の発展への貢献という使命の中にホームレスとの関わりを位置づけ、すべての人々の社会的包摂は図書館専門職の中核的価値に当たるとする立場である。ここでいう社会的包摂は、社会的排除に相対する概念である。社会的排除とは、低所得者やホームレス等が社会的に孤立し、疎外されている状態を社会の側が弱者を排除していると捉える概念である。これに対し、社会的包摂は、排除されている人々や排除の可能性がある人々を「社会につつみこむこと」を意味している(3)

 米国では積極派の具体的な取り組みもみられる。また、クロアチアのザグレブ市図書館はホームレスの積極的社会復帰支援を行っていることで知られる(E1322参照)。2012年8月には、国際図書館連盟(IFLA)の分科会が、「ホームレスと図書館」をテーマとするサテライトミーティングを開催し、この問題について議論している。

 対象をホームレスに限定しなければ、日本でも社会的包摂の取り組みはある。障害者の利用を支援するサービスもその一つである。また、2010年に有志の公共図書館が結成した「図書館海援隊」による貧困・困窮者支援等の取り組み(4)は、まさに積極的な社会的包摂の取り組みに当たる。

 本稿は、こうした国内外の動向と過去の議論を踏まえ、ホームレスを含むすべての人々の社会的包摂における公共図書館の役割について考えてみたい。

 

1. 過去の議論と動向1-1. クライマー事件

 ホームレスと公共図書館に関する日米における過去の議論については、「問題利用者」論の動向レビューで既に整理が行われている(CA1479参照)。そこでは米国における研究の蓄積に比して、日本における議論の少なさが指摘されている。

 ただし、この問題を議論する時に必ずと言っていいほど引き合いに出される米国の「クライマー事件」に関する論考については日本でも充実している (5)

 クライマー事件は、米国ニュージャージー州モリスタウン公立図書館とホームレスの利用者R.クライマーの間で争われた訴訟事件である。他の利用者を凝視するなどの迷惑行動や体臭により、クライマーに関して他の利用者からの苦情が集中したことを受け、1989年に図書館側は利用者行動規則を制定した。そして、この規則による規定を根拠に図書館はクライマーに複数回にわたって退館を命じた(6)

 1990年1月、クライマーは、ホームレスであるがために図書館から追い出されたとして、モリスタウン警察や図書館などを相手取り提訴した。同年5月のニューアーク連邦地裁の判決は、クライマーの主張を全面的に受け入れ、当該規則の該当条項は連邦憲法及び州憲法に反するとして、その効力を否定した(7)。同判決は、ホームレスに対する嫌悪感は一般の人たちが作り出したものに他ならず、ホームレスの図書館利用の権利を取り上げるのではなく、ホームレスの置かれた状況を解決しなければならないとの問題意識を明らかにしている(8)

 これに対し、図書館側が控訴した控訴審の1992年3月の判決は、当該規則各号は無効とは言えないとして、地裁判決を破棄し、差し戻した。結局、両者は和解し、クライマーは多額の和解金を手にしている(9)

 クライマー事件の2つの判決は、ホームレスに対する積極派と消極派の両方の立場にとって重要な論拠となっている。

 

1-2. 米国における議論と動向

 米国においては、ホームレスの公共図書館利用に対する消極派と積極派が存在する。2006年2月、テキサス州のダラス公共図書館が利用規則に「臭いを放つ利用者の入館を断ることができる」とする規定を盛り込み、実質的にホームレスへの差別ではないかとして人権擁護団体から非難を浴びた。このことに関して、米国図書館協会の当時の次期会長は、クライマー事件判決を引き合いに「基本的な衛生状態が保てず、スタッフや他の利用者に迷惑をかける人については、図書館は退去させることができる」という意見を述べた(E437参照)。

 その一方で、米国図書館協会は、1990年の「貧困者に対する図書館の指針」の採択や、1996年の「飢餓・ホームレス・貧困対策委員会」の設置などを通して、積極的な立場を表明し、貧困者の民主社会への完全参加の推進を図書館の目標として掲げている(10)。こうした方針に沿った実践も米国各地にみられる。古くはニューヨーク公共図書館の事例(CA659参照)もある。比較的最近では、サンフランシスコ市中央図書館が同市の厚生当局の協力を得て、精神科ソーシャルワーカーをフルタイム雇用した事例(E1016参照)がある。

 また、カリフォルニア州サンノゼ公共図書館でも、2009年に「図書館内ソーシャルワーカー」を立ち上げ、ホームレスだけでなく、支援を必要としている人々に福祉サービスを紹介している。コロンビア特別区公共図書館では、全米ホームレス連合(11)とともに、十代の図書館支援員にホームレスの生涯と日々の体験を記録してもらい、音声・映像作品として上映する取組みを行った。支援員の1人は「私は、ホームレスは彼らの問題で、彼らが悪いのだと思っていました。しかし、このプロジェクトに取り組み、いろいろ学んだら、実は、常に彼らが悪いというわけではないということが分かりました。」と述べている。その他、図書館によるホームレスに関する積極的な取り組みが多様に展開されている(12)

  

1-3. 国内における議論と動向

 日本国内のホームレスと公共図書館に関する論考が少ない(CA1479参照)と指摘される中で、西河内靖泰の論考(13)が注目される。

 西河内は、一般社会における「ホームレス問題」そのものを抜本的に解決しなければ、図書館における「ホームレス問題」は解決しないと結論付けている。つまり、図書館がホームレス問題への行政施策の不充分さの受け皿になってしまっているため、彼らが気兼ねなく居ることのできる福祉的施設が図書館とは別にあるべきで、そうした施設ができるよう責任ある行政セクションに働き掛けるべきとしている。そうして、図書館がホームレスを規制しなくても済むような状況を図書館の外に作っていくことが課題であるとしている。

 図書館外でのホームレスに対する取組みといえば、筆者は、英国の地方都市を訪れた時、ソーシャルワーカーと思われる人が、地下道で寝ていた人にすかさず声を掛け、事情を聴いている姿を目にしたことがある。英国では、ホームレスに対する政策の一環として、野宿者に対するアウトリーチ(支援者の側から対象者がいる場所に出掛け積極的に働き掛けること)が行われている(14)。日本でも一部では似た取組みはみられるが、全体としてなかなかそこまでには至っていない。そうした社会政策の未熟さも手伝って、国内の公共図書館の傾向として、ホームレスの包摂に積極的に取り組むところまでには至っていないのではないだろうか。

 国内の公共図書館のホームレスに関する取組みとして話題になったこととして、女性専用席がある。東京都の複数の公立図書館で女性専用席が設置されたのであるが設置理由にホームレス対策を挙げる図書館も多い(15)。ホームレスには男性が多い(16)が故に、男性のホームレスが入れないスペースを作って分離しているのである。

 

2. 積極派の取組事例

 IFLAの“特別なニーズのある人々に対する図書館サービス分科会”は、2012年8月10日にエストニアのタリン中央図書館において、「ホームレスと図書館―すべての人のための情報と知識の権利」をテーマとするサテライトミーティングを開催した。その発表資料はIFLAのウェブサイトに掲載(17)されており、また、Library Review誌の2013春号が各報告のリサーチペーパーを掲載(18)している。ここでは、それらの資料の中から、クロアチアの事例を紹介する。同事例の概要は既に紹介されている(E1322参照)が、ホームレスに対する積極派の具体的な取組事例として、さらに掘り下げて紹介することで、この問題に対する公共図書館のあり方への示唆を得たい。

 クロアチアのザグレブ市図書館(Zagreb City Library: ZCL)のサンヤ・ブニックは、ZCLの2年間のホームレス支援の取組みについて報告をしている(19)。それによると、クロアチアのホームレスはごく最近顕在化した存在であるという。法的にその存在が認知されたのは、2011年の社会福祉法が最初であり、それ以前は「存在しない社会カテゴリー」であった。首都ザグレブはクロアチアの中でもホームレスの多い地域で、400人がホームレスとして登録されているが、実際にはその10倍、約4,000人が存在すると推測されている。

 ただし、ホームレスのうちZCL利用者の割合は低いと推測されている。ザグレブのホームレスの大多数は、住民登録をしていないため、図書館利用に必要な本人確認書類を得ることができず、図書館資料を利用することができない(20)。ところが、住民登録の条件として本人確認書類が必要であるという矛盾が存在する。

 また、ザグレブには3か所のホームレスシェルターがあり、都市周辺部の2か所は、24時間開放されているため、ホームレスの大部分はこれらを利用し、図書館を利用しない。ZCLには42か所の分館と72か所の移動図書館の拠点があるが、これらを利用するホームレスも少数である。一方、不快な体臭を放つような衛生問題を抱えたホームレスはごく少数であり、奇妙な行動をみせるホームレスは皆無である。ZCLにとって、ホームレスは迷惑な利用者ではない。

 こうした状況の中、ZCLはホームレスの潜在的ニーズを掘り起こし、そのニーズに合ったサービスを提供しようと試み、2010年からホームレスの社会的排除の解決に資するためのサービスを開始し、2年間にわたり実践した。これを通して、ホームレス向け図書館サービスの3つのモデルが浮かび上がった。以下にその3つのモデルの概要を紹介する。

 

【モデル1】図書館内で提供される、ホームレスおよびその付添人のためのサービス(明確に体系化されていない単発プログラム)

 ZCLのホームレス支援プログラムは、2010年4月23日の世界図書・著作権の日に開始された。ザグレブボランティアセンター(Zagreb Volunteer Centre: ZVC)の提案による、ホームレスが作成したしおり(bookmark)と「ストリートランプス」誌(ホームレス自身が記事を書いて売る雑誌)の図書館内での販売から始まった。その後、ZCLとZVCが協力して次の7つのプログラムを展開した。

(1)ホームレスのための情報リテラシーワークショップ
(2)ホームレスによる図書館ボランティア
(3)ホームレスのための創作ワークショップ
(4)ホームレスによって製作された商品や「ストリートランプス」誌の販売
(5)「ストリートランプス」誌の記事を書く手助け
(6)ホームレスの包摂を目的とするプログラムのプロモーション
(7)「友達を連れて来よう(Bring Along a Friend)」と題されたボランティア、図書館員、図書館利用者およびホームレスから成る集会の開催

 これらのプログラムはそれぞれ単発で提供されており、明確に体系化されているわけではない。このうちいくつかは既に終了しているが、その経験から得られた知見は、モデル2のプロジェクトの開発に寄与した。

 

【モデル2】ホームレスシェルター内で図書館によって提供される、ホームレスが組織的、定期的参加することが期待される、きっちりと体系化されたプログラムによるサービス

 2011年11月、ZCLはモデル1の経験を基に、「屋根としての本―ホームレスの自立を促進する(21)図書館ネットワーク」(A Book for a Roof: The Network of Libraries to Empower the Homeless)というプロジェクトを開始した。このプロジェクトは、国際NPOである図書館電子情報財団(Electronic Information for Libraries: EIFL)の公共図書館イノベーションプログラム(EIFL-PLIP)に採択され(CA1800参照)、15,000米ドルの資金提供を獲得している。

 プロジェクトの目標は、ホームレスが労働市場に参加し、図書館のホームレスに対する偏見および先入観を克服するために、ホームレスを支援することである。前述のとおりザグレブのホームレスは図書館の利用が少ない上、多くが身を寄せるシェルターにはIT設備がないため、インターネットにアクセスすることができず、仕事を得るための教育訓練や就職の情報を得ることが困難である。そこで、プロジェクトでは、ザグレブで最大のホームレスシェルターに4台のPCと1台のプリンタを寄付した。そして、シェルター内で、情報リテラシーワークショップとともに、ホームレスが職業と職業技能を獲得するための支援を行うワークショップを定期的に開催した。

 業務経験が図書館内に限られた図書館員にとって、24時間営業のシェルターという馴染みのない環境で、従来の経験から得たことを、従来と異なる状況および目標に合わせて調整せねばならず、これは大きな冒険であり、挑戦であった。プロジェクトの目標を達成するためには、ホームレスにワークショップへ定期的に出席してもらうことが必要であり、そのためにはホームレスとの関係づくりが求められた。それを理解したプロジェクト・マネージャーは、当初の計画よりも多くの時間を割いたが、相互の信頼関係を構築するのに数か月かかった。

 また、プロジェクトチームは、ホームレスの状況と就職を妨げる要因や障壁を理解する深い洞察力やそれを解決に導くための法学的知識だけではなく、社会福祉や精神医学の分野のさらなる教育を必要とした。しかし、ホームレスとの関係づくりにマニュアルがあるわけではなく、その予測できない行動に対しては、直観的な手法や粘り強さ、理解が必要となる。

 ホームレスは心理学の専門家による支援に抵抗を示したり、組織立った支援には敵意さえ示すことがあり、このモデルの実行には困難が伴う。財政的にも大きな投資が必要であるし、図書館員は、ホームレスである利用者の真のニーズと特性に適合するサービスを提供するため、シェルター内の状況を見極めなければならず、多くの時間を割くことになる。図書館員の燃え尽き症候群を防ぐため、心理学の専門家やソーシャルワーカーとの協力が必要である。

 

【モデル3】図書館内で提供される、ホームレスが組織的、定期的に参加することが期待される、きっちりと体系化されたプログラムによるサービス

 3番目のモデルは、ZCLの中央館内で組織されたITリテラシーや求職支援のワークショップである。また、ザグレブ大学法学部のリーガル・クリニックと協力し、ホームレスに対する無料法律相談サービスを開始した。

 ホームレスシェルターにおけるモデル2の経験は、図書館内でのサービスの改善に役立てられた。ワークショップは、若いボランティアとの1対1のアプローチによって、また、図書館の施設内の居心地の良い雰囲気によって、すぐに、ホームレスに人気となった。ホームレスとの軽食や会話は、ホームレスが他のホームレスの人々に図書館の利用を勧めるという結果に結びついた。

 モデル3の経験によって明らかになったのは、ホームレスは、きっちりと体系化されたプログラムを嫌う傾向があるので、ホームレスのニーズに合わせて途中でも柔軟に変更する必要があるということである。図書館が主催するプログラムの参加者の多くは、高度に動機付けられたホームレスであり、定期的に出席する。その動機付けには、ボランティアとの親密な信頼関係があり、また、ホームレス自身がボランティアとして活動することによって生じる責任感が寄与する。図書館でのボランティア活動は、ホームレスに社会的ネットワークを拡大する機会を与える。

 ホームレスが集まって活動する快適な図書館環境は、コーヒーを飲みながらの懇談が可能なリラックスした雰囲気を提供し、図書館全体を、ホームレスが受容され、人間として扱われる場所にする。そのような安全で居心地のいい雰囲気は、ホームレスだけではなく、ボランティアや協力組織にとっても、目的とする様々な活動を遥かに容易にする。

 

まとめ

 路上にいるホームレスが図書館の中に入ってくるということは、路上という社会の外から図書館という社会の中にホームレスが自ら足を踏み入れるということであると考えられる(22)。路上生活に対する慣れや社会に対する諦めあるいは嫌悪感さえ抱くこともあるホームレスが自ら図書館の中に足を踏み入れるということは、社会的包摂の絶好の機会である。うまく社会的ネットワークにつなげば包摂が可能だが、また路上に追い出せば、社会的排除になってしまう。

 そこで、ホームレスに対象を限定した図書館サービスを構想する場合、ホームレスをどう定義し、どのようなサービスを提供するかが問題となる。ところが、ホームレスを定義付け、特別な扱いをすることによって、ホームレスに対する偏見がより強まるという問題も報告されている(23)

 ホームレスに限らず、すべての人々を包摂する社会をめざす必要がある。ホームレスに限定しなければ、日本の公共図書館においても社会的包摂の取組みはみられる。2008年秋のリーマンショック並びに同年末および翌年始に掛けての年越し派遣村、2009年末の公設派遣村の設置など日本においても貧困・困窮者が増加し、顕在化した状況のもと、2010年1月、公共図書館の有志が図書館にできることに取り組もうと「図書館海援隊」を結成し、関係部局と連携した貧困・困窮者支援をはじめ具体的な地域の課題解決に資する取組みをより本格的に開始した(24)

 たとえば、北海道立図書館は「ビジネスコーナー」の一角に「図書館海援隊」 コーナーを設置し、関係部局による生活支援や就業・起業支援のパンフレットを設置している。また、民間教育機関から、資格取得や就職関連の図書の寄贈を受け、同コーナーに排架している。同館の通常の資料選定基準では受け入れないことになっている「試験問題集、学習参考書、各種教材」もすべて受け入れ、利用に供している(25)

 また、福岡県の小郡市立図書館では、市役所商工企業立地課や小郡地域職業相談室などの協力による求職・労働問題などに関する情報(主にチラシ)の提供、新聞折込に入っている求人広告の提供、求人フリーペーパー5誌の設置および職に関する書籍の充実といった取組みが行われている(26)

 ところで、本稿で紹介したZCLの実践の鍵は、ホームレスにとって居心地のいい環境づくりであった。それは結果として、ホームレスだけではなく、スタッフも含めた誰にとっても快適で受け容れられやすい雰囲気を作りあげることになる。図書館海援隊の取り組みも、困った時に誰にとっても手が届く場所に、必要な資料を配置するなど、誰もが享受しやすいサービスを提供している。これら本稿で紹介した内外の積極的な事例から学べることは、誰でも困ることはある、困ったときにいつでも気軽に頼れる場が必要である、そして、誰でも気軽に訪れることができる図書館は、その場になり得るということである。

 ZCLのサンヤ・ブニックはこう述べている。「私たちは、自然災害、戦争および金融危機が完全に予測不能で、グローバルな規模である時代に暮らしている。私たちはみんな潜在的にホームレスである。ゆえに、専門的および一般的レベルでのこの問題への注意喚起は、よりよい将来の保証になる。」(27)

 

(1) 日本では、2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(平成14年法律第105号)がホームレスを「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の 場所とし、日常生活を営んでいる者」と定義している。同法成立以前からの行政用語でもある「路上生活者」と同義に捉えられる場合があるが、海外では、「路上生活者から不安定な居住状態にある者まで」を広くホームレスと捉える国が多い。法律上の定義とは別に、広義には、いわゆる「ネットカフェ難民」など一時的な宿泊施設に宿泊し、定まった住居を持たない者もホームレスに含まれると考えることができる。
柳沢房子. ホームレス支援政策をめぐって―各国の動向. レファレンス. 2006, 56(2), p. 56-73.

(2) 清重知子. “ホームレスにとっての公共図書館の役割”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 316-317, (図書館研究シリーズ, 40).
http://current.ndl.go.jp/node/14415, (参照 2013-10-29).

(3) 本稿で用いる「社会的包摂」あるいは「社会的排除」という用語が意味するところについて、詳しくは、
阿部彩. 弱者の居場所がない社会: 貧困・格差と社会的包摂. 講談社, 2011, 216p.

(4) 生涯学習政策局社会教育課. “「図書館海援隊」プロジェクトについて(図書館による貧困・困窮者支援)”. 文部科学省. 2010-01-05.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288360.htm, (参照 2013-10-29).

(5) 例えば、
川崎良孝. “ホームレスの図書館利用をめぐって: モリスタウン公立図書館事件(1992年)”. 図書館裁判を考える: アメリカ公立図書館の基本的性格. 京都大学図書館情報学研究会, 2002, p. 67-93.
山本順一. “公共図書館の利用をめぐって: クライマー事件を素材として”. 転換期における図書館の課題と歴史: 石井敦先生古稀記念論集. 石井敦先生古稀記念論集刊行会編. 緑陰書房, 1995, p. 99-111.

(6) 川崎. 前掲. p. 73-76.
山本. 前掲. p. 99-103.

(7) 川崎. 前掲. p. 76-81.
山本. 前掲. p. 103-106.

(8) 山本. 前掲. p. 104.

(9) 川崎. 前掲. p. 81-84.
山本. 前掲. p. 106-109.

(10) 清重. 前掲.
井上靖代. “ALA(アメリカ図書館協会)の動向”. 米国の図書館事情2007 : 2006年度国立国会図書館調査研究報告書. 国立国会図書館関西館図書館協力課編. 日本図書館協会, 2008, p. 207-211, (図書館研究シリーズ, 40).

(11) 全米ホームレス連合(The National Coalition for the Homeless)は、現役ホームレス、元ホームレス、支援活動家および支援団体から構成される全米規模のホームレス支援ネットワークである。
The National Coalition for the Homeless. 2013-11-18.
http://nationalhomeless.org/, (accessed 2013-12-3).

(12) Lilienthal, Stephen M. “The Problem Is Not the Homeless: People living with substandard housing are in need of innovative library service”. Library Journal. 2011-06-14.
http://lj.libraryjournal.com/2011/06/managing-libraries/the-problem-is-not-the-homeless/, (accessed 2013-10-29)
なお、日本障害者リハビリテーション協会が運営する情報サイトに、この論文の抄訳が掲載されている。
リリエンタール, スティーヴン.M. “問題はホームレスではない: 標準以下の住宅で暮らす人々には革新的な図書館サービスが必要(抄訳)”. 障害保健福祉研究情報システム(DINF). 2011-06-15.
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/library/homeless_110615.html, (参照 2013-10-29).

(13) 西河内靖泰“カウンターからみた「図書館とホームレス」問題”. 知をひらく: 「図書館の自由」を求めて. 青灯社, 2011, p. 254-269.

(14) 岡本祥浩. 海外事情: イギリスのホームレス政策の変遷. 社会福祉研究. 2011, (110), p. 156-161.

(15) 居場所求め公園で消臭. 朝日新聞. 2010-01-05. 朝刊. p. 34.
図書館にも女性専用席ホームレス対策…「不公平」の声も. 産経新聞. 2008-08-30. 朝刊, 首都面.

(16) 厚生労働省の調査で確認されたホームレス(都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者)は8,265人(男性7,761人、女性254人、不明340人)であった。
“ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果について”.厚生労働省. 2013-04-26.
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000030rlj.html, (参照 2013-11-15).

(17) “The Homeless and the Libraries: The Right to Information and Knowledge For All: Satellite Program Presentations”. IFLA. 2012-10-19.
http://www.ifla.org/node/6939, (accessed 2013-11-18).

(18) Library Review. “Table of contents: Volume 62 issue 1/2 Published: 2013”. Emerald.
http://www.emeraldinsight.com/journals.htm?issn=0024-2535&volume=62&issue=1%2F2&WT.mc_id=journaltocalerts, (accessed 2013-11-18).

(19) リサーチペーパーは
Bunić, Sanja, Libraries and the homeless: Experiences, challenges and opportunities: socio-economic background of homelessness in Croatia. Library Review. 2013, 62(1-2), p. 34-42.
プレゼンテーション資料は
Bunić, Sanja. “Libraries and the homeless: experiences, challenges and opportunities”.
https://liberty.wpunj.edu/library/IFLA/pdf/bunic_homeless_ final.pdf, (accessed 2013-10-29).
なお、日本障害者リハビリテーション協会が運営する情報サイトに、このプレゼンテーション資料の日本語訳が掲載されている。
ブニック, サンヤ. “図書館とホームレス:経験談、課題と好機”. 障害保健福祉研究情報システム(DINF).
http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/access/ifla/bunic/bunic.html, (参照 2013-10-29).

(20) ちなみに、2006年に日本国内で公共図書館の本を盗んで逮捕されたホームレス男性が「自分は住所がなく(図書利用カードが作れないため)本が借りられないので盗んだ」と供述している。同図書館の不明本のうち三割はこっそり返却されており、一部は図書利用カードを作れない人が読書用に持ち出しているものとみられている。
住所なしカード作れず…図書館の本盗んだホームレス男逮捕: 高知署. 高知新聞. 2006-07-27.

(21) 「自立を促進する」の原語はempowerであるが、この語が意味する自立は他者に依存せず、自分の力で生活する、あるいは社会に適応するということだけを指すのではなく、積極的に他者や社会に働きかけ、自らの生きやすい社会に変革していく力をも指している。そのような力をつけさせることをempowerment(empowerの名詞形)という。
池田和恵ほか. 「エンパワーメント」概念の活用状況:文献検討を通して. 静岡県立大学短期大学部研究紀要. 2010, (24), p. 1-2.

(22) ここでは分かりやすく説明するため、路上=社会の外、図書館=社会の中と、あえて単純な図式化を行っているが、路上=社会の外とは必ずしも言えない。
阿部. 前掲. p. 92-121. 参照。

(23) Muggleton, Thomas H. Public libraries and difficulties with targeting the homeless, Library Review, 2013, 62(1-2), p. 7-18.

(24) “「図書館・公民館海援隊」プロジェクト”. 文部科学省.
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/kaientai/1288450.htm, (参照 2013-10-29).

(25) “図書館海援隊プロジェクトほっかいどう”. 北海道立図書館.
http://www.library.pref.hokkaido.jp/web/reference/qulnh00000000zdr.html, (参照 2013-10-29).

(26) “「お仕事チャレンジ&サポート 情報コーナー」の紹介”. 小郡市立図書館.
http://www.library-ogori.jp/librarian.html#kaien, (参照 2013-10-29).

(27) Bunić, Sanja, Libraries and the homeless: Experiences, challenges and opportunities: socio-economic background of homelessness in Croatia. Library Review. 2013, 62(1-2), p. 41.

 

[受理:2013-11-20]

 


松井祐次郎. ホームレスを含むすべての人々の社会的包摂と公共図書館. カレントアウェアネス. 2013, (318), CA1809, p. 15-20.
http://current.ndl.go.jp/ca1809

Matsui Yujiro.
Public Libraries and Social Inclusion of All People including the Homeless.