E1388 – 変化の時代における大学図書館管理職の役割とは

カレントアウェアネス-E

No.230 2013.01.24

 

 E1388

変化の時代における大学図書館管理職の役割とは

 

 高等教育を巡る状況が変化する中,大学図書館にも変革が求められている。米国では館長の職責が大局的かつ対外的なものとなり,従来館長が担っていた図書館の実質的な運営は管理職がチームとして行うようになってきている。そこにおいて,大学図書館管理職に必要とされる役割は何だろうか。またどのような能力や特質が求められているのだろうか。

 こうした問題意識を背景に,上級管理職に焦点を当てたレポート“Changing Role of Senior Administrators”が,北米研究図書館協会(ARL)による報告書シリーズ“SPEC Kit”の331号(2012年10月付け)として刊行された。レポートは,2012年3~4月にARL加盟126館に対して行われた調査に応じた46館からの回答を基にしたものである。報告書は,冒頭の要旨に続き,質問・回答の一覧や,回答館の組織図及び管理職の職位記述書(職責や必要な能力等を示す文書)等で構成されている。以下で,レポートの要旨部分を紹介する。

 まず,副館長,部門長,分館長等の館長に直属する管理職ポストの職名や職責について過去5年間の変更点等をまとめている。回答館の95%は過去5年間に既存の管理職ポストを変更したり,ポストを新設したりしている。その際,職名は従来の「パブリック・サービス」,「テクニカル・サービス」といった包括的なものから,「デジタルコンテンツ」,「利用者教育」等の職責を明示するものに変更される傾向がある。そして,新たな職名からは,「学術コミュニケーション」や「出版」等が管理職の担当業務として増加していることが窺える。さらに,およそ半数の回答館がポストの変更や新設を今後3年以内に予定しており,その職責としては,戦略計画等を挙げる館が多い。こうした傾向から,レポートは,近年大学図書館が各自の戦略に基づいて,管理職ポストの再検討を盛んに行っていることを指摘する。

 ついでレポートは,こうした状況の中で管理職に必要とされている能力を,機会を捉え,協働を通して組織戦略を実現するための対人スキルであると分析している。必要なスキルを尋ねる質問への回答から,特にリーダーシップ能力,またコミュニケーション能力や適応力が重視されていることが分かる。さらに,組織内外との協働やアントレプレナーシップ等も求められており,加えて,最新の技術動向や学術コミュニケーション等の理解も期待されている。そして,図書館運営全体を見渡しながら,チームとして課題に当たる必要性が強調されている。なお,管理職が必要なスキルを身につけた手段としては,ほぼすべての回答館が“Research Library Leadership Fellows Program”等,外部団体が実施するいくつかの図書館員対象のリーダー養成研修を挙げている。次に,専門書,研究集会や人脈も重要とされており,これに,仕事上での経験やアドバイスを与えてくれる人物が続く。

 また,調査では,シモンズ・カレッジのHernon教授らの作成した,館長に期待される特質リストの要素のうちから,管理職に求められる特質を尋ねている。回答からは,困難な決定を行うことや部下とよくコミュニケーションを図ること等,館長と管理職ともに重視される要素がある一方で,組織文化を変革することなど,特に管理職に対して求められる要素もあることが分かる。レポートは,こうした差異を図書館の運営や改革の役割を管理職が担っていることに拠ると見ながら,リーダーシップに関わる能力を始め,管理職には館長と同様の特質が求められていることに注目している。

 さて,“SPEC Kit”で管理職を取り上げるのは1984年以来であるという。当時のレポートでは,業務の複雑化に伴う管理職ポストの変化の傾向とともに,リーダーシップやチームワークが求められつつあることが指摘されている。以来30年を経た現在,今回のレポートが結論づけるように,これからの大学図書館にとって,戦略を持って変化に対応していく優れた管理職集団とそのリーダーシップは,一層重要となっている。

(京都大学附属図書館・赤澤久弥)

Ref:
http://www.arl.org/news/pr/spec331-13nov12.shtml
http://crl.acrl.org/content/63/1/73.abstract
http://hdl.handle.net/2027/mdp.39015036872086