CA1550 - 経営戦略としての図書館ブランディング−英国図書館のリ・ブランディング事例から− / 南山宏之

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.283 2005.03.20

 

CA1550

 

経営戦略としての図書館ブランディング−英国図書館のリ・ブランディング事例から−

 

はじめに−ブランド/ブランディングとは何か?

 「ブランド(brand)」の語源は,「焼き印(burned)」である。放牧する牛を識別するために施された。その後,12世紀の中世ヨーロッパはギルドの時代,自社製品の品質を保証するために,陶器やウイスキーといった製品に自社の「焼き印」を押すようになった。強いブランドは,長期間にわたり熱狂的な支持者を生み出し高いロイヤリティを保持した。期待を超え続けるブランドには,強いアイデンティティが形成され,価格も自由に設定できるようになった。かくして,ブランドは,安定的な成長と高収益を生み出す無形の資産として位置づけられ,現代では企業の価値をはかる指標にすらなろうとしている。

 本稿では,2000年から始まった英国図書館(BL)のリ・ブランディング(ブランド再構築)のプロジェクトを紹介しながら,「図書館に何故,ブランディングが必要なのか?」「図書館のブランディングの固有性」について考察し,論述する。

 

1. プロジェクト・スタート−コア・プリンシプルの作興から

 プロジェクトは,「BL自らの存在意義」と「1つの図書館を創り出している価値とは何か?」を議論することから始まった。議論は図書館全体におよび,ワークショップ形式をとりながら,外部専門機関からのアドバイスのもと,横断的な意見交換がなされた。

 プロジェクトの推進者であるジル・フィニー(Jill Finney)戦略マーケティング・コミュニケーション局長は次のように述べている。
「ワークショップで初めに明確になったのは,各部門が自分の仕事を説明するミッション・ステートメントをもちながらも,それらは実にバラバラで整合性がないということだった。1つにまとめられたBLの目的(存在意義)を,関係者全員が理解・共感している状況を早くつくることが求められた。」

 1年をかけて合意を得ることができた新しいコア・プリンシプルは,次のとおりである。
 [BLのコア・プリンシプル]

  ●本質的な目的 :世界の知識への道(a gateway to the world's knowledge)を提供すること。
  ●ビジョン   :サービスが人々の生活を豊かにする。
  ●ミッション  :人々が生活を豊かにするために,知識をより活用することを支援する。
  ●組織の価値観 :図書館全体が「コア・プリンシプル」にプライドをもつこと。
 /それぞれの関係者(顧客,従業員,社会)にむけて最適な活動を行うこと。
 /図書館が前進するために技術革新を絶やさないこと。

 

 

2.表象開発−ブランド名称とデザイン開発導入

 プロジェクトでは,次のステップとして,ブランドを象徴するコア要素の開発導入に入った。コア要素は大きく二つに分けられる。

 第一には,言語的表象としての「図書館の名称」や「サービス名称」,「ブランド体系」である。BLは,「図書館」という既に既得価値がある名称をブランドに選択した。フィニーは,「図書館は,図書館自身を別の名称(ex.学習センターやアイデアストアなど)で呼び始めたとき,誤った方向に歩み始めた例がある。」と語っている。名称変更は,新しい名称とその内容を認知させるのに,多額の投資が必要であり,むしろ「これが新しい図書館」であると訴求するほうが有利であるとしている。

 第二のコア要素は,それらを視覚的に表象するシンボルロゴやカラーシステム,タイポグラフィ,デザインプリンシプルやレイアウトデザインのルールである。

 フィニーは,ワークショップで明確になった「1つにまとめられた図書館の目的を,関係者全員が理解・共感している状況をできるだけ早くつくる」という2つめの課題についてこう述べている。

 「従来の図書館コミュニケーションは,表現に一貫性がなく,受け手の立場ではデザインされていなかった。タイポグラフィも15世紀のものがそのまま使われていたり,イメージ(知覚品質)も良くなかった。デザインは,特にこれからの新しい顧客を魅了しつつ関係者に共感をもたらす必要がある。そのために,我々はデザインを基本から大胆に変更することを決めた。」

 ウェブサイトから図書館のサイン計画,備品から利用案内にいたるまで,あらゆる顧客接点において,新しい図書館のコア・プリンシプルを表象する新しいデザインシステムが,徹底的に導入された。

 デザインシステムを一つの目的に沿って作り上げることにより,顧客や従業員を含む関係者全てに新しいメッセージとイメージが配達され,それが結果として新しい顧客層を開拓するのである。

 

3. 大規模なインナーコミュニケーション

 新しいシンボルロゴの導入にともない,大規模な組織内への浸透計画が始まった。

 全ての部門責任者に,「コア・プリンシプル」と「新デザインシステム」の意味が伝えられ,新しいブランドの本質を,どのように日常のサービスに反映し,利用者に明快に伝えていくか,一つひとつの業務項目のチェックが求められた。

 いままでの現場での議論は,「どのようにサービスするか?」が中心であったが,それ以降は「我々のサービスは,どのような結果や期待が獲得できるか?」に変わっていった。ブランドの価値を顧客に伝えるのは,一人ひとりの従業員であり,それを継続的に促進し,マネジメントする組織体系が構築されたのである。

 

4. 経営変革とブランディング

 2000年より始まったBLの経営変革(CA138214171424参照)は,いままでの伝統と歴史を打ち破り,「図書館のリ・ブランディング」を軸足にすえて断行された。『第31回年次報告書 2003-2004』のタイトルには,興味深い次のような言葉が添えられている。

 「Making the measurable difference はかること(客体化)ができる差異(BL固有の価値)をつくる。」

 この言葉には,未来の図書館に求められる次の3つの意味が込められていると考えられる。

 1つめは,BLは利益を生み出すプロフィットセンターとして自立する,ということである。図書館の活動が英国経済にどのような価値を生み出しているかを,定量的に説明することによって,自らの存在意義を関係者に訴え,経営計画のよりどころにしようとしているのである。

 2つめは,BLとしての固有の価値を生み出すことに集中しようとしていること。ブランドの価値の源泉は,そのユニークネスにある。BLならではのユニークネスと,他機関との「差異」をいかにつくるかに戦略をシフトすることによって,ブランドの価値は高まるのである。

 3つめは,魅力的でわかりやすい伝達方法をとること。図書館の活動とその哲学を明快なメッセージに置き換え,関係者に積極的に伝え,理解,共感を得ようという努力がなされていることである。

 

おわりに

 そこに図書館がある限り,ブランドは既に存在している。問題は,そのブランドにどのような生命を吹き込み,マネジメントできるかである。もし,図書館が強いブランドを持つことができるなら,顧客(利用者)や社会,出資者から期待と共感を獲得し,強い心理的な絆を形成することができるだろう。それを生み出す組織は活力にあふれ,そこで働く人々は,仕事に誇りと自信を見出すことができるだろう。

 わが国の図書館も,戦略としての「図書館のブランディング」に着手する時期が訪れようとしている。

AXHUM Consulting:南山 宏之(みなみやま ひろゆき)

 

Ref.

Finney, Jill. Brand values at the BL. update. 2(2), 2003, 54-55.

南山宏之. “戦略的ブランンド経営−ポストCIの地平を求めて”. 21世紀CI展望:企業価値とアイデンティティ. 東京, 自分流文庫, 2000, 237-249.

南山宏之. “新しいブランディングの地平へ”. ブランディング・デザイン. 東京, グラフィック社, 2004, 2-3.

British Library. “Thirty-First Annual Report and Accounts 2003-2004”. (online), available from < http://www.bl.uk/about/annual/latest.html >, (accessed 2005-02-15).

アクサムコンサルティング. (オンライン), 入手先< http://www.axhum.co.jp >, (参照2005-02-15).

 


南山宏之. 経営戦略としての図書館ブランディング−英国図書館のリ・ブランディング事例から−. カレントアウェアネス. 2005, (283), p.7-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1550