米国の図書館における音声アシスタント技術の採用とプライバシーに対する懸念(文献紹介)

2021年1月5日付で、米国図書館協会(ALA)の部会“Core: Leadership, Infrastructure, Futures”が刊行する“Information Technology and Libraries”(ITAL)誌の第39巻第4号に、米・アラバマ大学の2人の著者による共著論文“Alexa, Are You Listening?: An Exploration of Smart Voice Assistant Use and Privacy in Libraries”が掲載されています。

同論文は“Alexa”をはじめとしたAmazon社やGoogle社等が開発・提供する音声アシスタント技術について、図書館のサービス・イベント・貸出等における活用状況や、こうした技術に対する図書館員の懸念を調査・報告するものです。著者らは2019年秋に、米国内の公共図書館・大学図書館等にオンライン上で質問紙調査を実施し、86館から得られた回答に基づいて、主に次のようなことを報告しています。

・音声アシスタント技術を採用済であるという回答はまだ少なく、図書館においては普及の初期段階にあると言える
・多数の回答館において、音声アシスタント技術の採用に伴う利用者データの保護に対する不安が確認される

著者らは調査で得られた回答等を踏まえて、図書館で音声アシスタント技術が普及するには、貸出等の図書館現場で必要な実務手順の整備、ALAがベンダー向けに作成した「図書館利用者のプライバシー保護に関するガイドライン」や「EU一般データ保護原則(GDPR)」などの外部企業との連携時に有用なガイドラインの参照、デジタルリテラシーに関する理解を深めるための図書館員向けの教育などが求められることを指摘しています。

Sweeney, Miriam E.; Davis, Emma. Alexa, Are You Listening?: An Exploration of Smart Voice Assistant Use and Privacy in Libraries. Information Technology and Libraries. 2020, 39(4).
https://doi.org/10.6017/ital.v39i4.12363

参考:
北米の都市図書館協議会(ULC)、人工知能(AI)の潜在的リスク回避や公益のための同技術の最大化に対して公共図書館が寄与するための議論を行なうイニシアチブの開始を発表
Posted 2019年1月21日
https://current.ndl.go.jp/node/37414

日本図書館協会(JLA)図書館の自由委員会、「デジタルネットワーク環境における図書館利用のプライバシー保護ガイドライン」を公表
Posted 2019年6月17日
https://current.ndl.go.jp/node/38369

米・マサチューセッツ工科大学(MIT)図書館、利用者データのプライバシーの取り扱いに関する新方針を発表
Posted 2020年12月7日
https://current.ndl.go.jp/node/42702

E2053 – EU一般データ保護規則(GDPR)と図書館への影響
カレントアウェアネス-E No.353 2018.08.30
https://current.ndl.go.jp/e2053

E2303 – 図書館構築システム上の利用者データへのリスク評価ガイド
カレントアウェアネス-E No.398 2020.09.17
https://current.ndl.go.jp/e2303

CA1987 – 協学を支援するための新たな学習ハブとしての大学図書館の実現に向けた九州大学の取り組み / 内山英昭
カレントアウェアネス No.346 2020年12月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1987