『図書館研究シリーズ』第39号の刊行にあたって

『図書館研究シリーズ』第39号の刊行にあたって

 本シリーズは、昭和35年に第1号が刊行されていますが、資料保存関連の記事は昭和59年3月刊行の第24号における「紙の劣化と図書館資料の保存」=シンポジウムの記録=が初めてです。以下、時系列に沿って辿っていきますと、「<調査報告>書籍用紙の酸性度と劣化」(第26号、昭和61年)、「IFLAと資料保存」(第27号、昭和62年)、「米国議会図書館における大量脱酸処理法の開発」(第28号、平成元年)、「内外の保存図書館の動向とわが国における論調―文献紹介―」(第32号、平成7年)、「図書館における防災計画―資料救助を視野に入れて―」(第35号、平成10年)と続いています。

 昭和35年から昭和59年まで、資料保存関係の記事は全く取り扱われていなかったのに、昭和59年以降たびたび取り扱われるようになったのは、酸性紙による資料の劣化問題に端を発して、資料保存に関する問題意識が急速な高まりを示したことの反映と言えます。

 ただし、昭和56年刊行の第22号「特集 国立国会図書館における利用の現状と問題点(その1)」における「図書館『破壊』学入門」において、複写による資料の破損と資料の保存の問題が取り扱われており、資料保存に関する問題意識の萌芽を看取することができます。

 当館の組織・機構の変遷を見ても、資料保存課が誕生したのは昭和61年の新館完成を契機とした機構改革の際です。それまでは関係する課としては製本課があるだけでした。

 そうした館内外での資料保存への意識の高まりを背景にして、平成元年には、当館はIFLA/PACのアジア地域センターとしての活動を開始しております。

 現在、資料保存という概念の対象領域は相当に広くなっています。当初は劣化・悪化した資料への対症療法が中心でしたが、今では予防的な措置までを含めた資料保存について調査研究が進んでいます。

 今回、平成17年12月に開催された公開セミナー「スマトラ沖地震・津波による文書遺産の被災と復興支援」の記録集を第39号として刊行することとしました。

 世界特にアジア地域において、津波・台風等の未曾有の大惨事により、図書館資料を含む文書遺産は破滅の危機に瀕しているわけですが、被災した資料への対処、防災計画等必要な知識・情報について充分な共有化が図られているとはいえない事態です。

 今回の記録集は、被災者からの報告、実際の修復活動、IFLA/PACの活動とプログラムが柱となっていますが、この記録集の刊行がそうした知識・情報の共有化の一助となれば幸いです。

平成18年9月

関西館事業部長

岡村 光章