カレントアウェアネス-E
No.156 2009.08.19
E964
デジタル資源提供機関の運営を持続させるために必要なこととは
2009年7月に,非営利組織Ithakaによる報告書「デジタル資源を持続させること(Sustaining Digital Resources)」が公表された。これは,英国情報システム合同委員会(JISC)等の資金援助により,デジタル資源を提供している機関の運営の持続可能性について調査・分析を行ったもので,2008年の報告書「オンライン学術資源の持続可能性と収益モデル」に続くものである。
今回の報告書はケーススタディを基にしており,その対象として,オックスフォード大学ボドリアン図書館,ヴィクトリア&アルバート博物館,英国国立公文書館,フランス国立視聴覚研究所,コーネル大学鳥類学研究所,スタンフォード大学等,5か国12機関でのプロジェクトが取り上げられている。
報告書では,持続可能性を「コンテンツやサービスの価値を守り,高めるために,財源やその他の活動資源を獲得するための能力」と定義している。ケーススタディで明らかになった,成功している機関の特徴として,次の5点をあげている。
- (1)熱心で起業家的なリーダーシップ
必要な能力を備えた適切なリーダーと中心的スタッフを選び,組織のミッションと目的を明確に周知する。新しいアイデアを試すような起業家精神を奨励する雰囲気を醸成する。 - (2)明確な価値の提示
他にはない価値を持つデジタル資源を作成し,利用者のニーズにあわせて新たな価値を継続して追加する。 - (3)コストの最小化
親組織から建物やサーバ等の現物支援を受ける,ベンダーや外部機関との協力で仕事を外部委託する,ボランティアを活用する等により,運営コストを下げる。 - (4)収入源の多様化
様々な収入モデルを試して,そのプロジェクトにあったものを見つける。リスク分散の観点から,多様な収入源を確保することが重要である。収入源となりうる人・組織等に対して,保有するデジタル資源の価値をアピールすることが必要となる。 - (5)明確な説明可能性
デジタル資源の質と収入モデルについて,その成功度を計測し説明できるようにする。
このうち,収入源の多様化については,その手法として,購読モデルの採用,コンテンツのライセンス利用,利用ごとの課金,カスタムメイドしたサービスの提供,企業によるスポンサー,広告,寄付,等が紹介されているが,新たな手間が発生する点や,サービス等への要求水準が高まるというデメリットもあるとしている。また,親組織からの支援を受けている機関であっても,それを当然と思ってはならず,親組織のミッションにどのように貢献しているのか等を常に意識しなければならないとしている。
世界的に経済状況が低迷するなかで,ケーススタディを基にしたこの報告書の考察は,同種の機関にとって参考となるものと思われる。
Ref:
http://www.ithaka.org/ithaka-s-r/strategy/ithaka-case-studies-in-sustainability
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2009/07/ithaca.aspx
http://sca.jiscinvolve.org/files/2008/06/sca_ithaka_sustainability_report-final.pdf