E804 – 持続可能なオンライン学術資源プロジェクトとは<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.130 2008.06.25

 

 E804

持続可能なオンライン学術資源プロジェクトとは<文献紹介>

 

Guthrie, K. et al. Sustainability and Revenue Models for Online Academic Resources: An Ithaka Report. Ithaka, 2008, 66p. http://www.jisc.ac.uk/media/documents/themes/eresources/sca_ithaka_sustainability_report-final.pdf, (accessed 2008-06-20).

 本報告書は,非営利のオンライン学術資源(OAR)プロジェクトが持続可能なものとなるためのメカニズムを体系的に理解できるよう,英国情報システム合同委員会(JISC)が非営利法人Ithakaに委託した調査研究の成果である。Ithakaは,非営利プロジェクトの持続可能性に焦点を当てた関連文献の分析を行い,営利企業,特に新聞業界における同種の取り組みと比較するとともに,OARプロジェクト関係者へのインタビュー,さらにはIthaka自身の経験-JSTOR(CA1520参照), Portico(CA1597参照)など-を踏まえ,本報告書をまとめ上げた。これは,3段階のプロセスの第1段階と位置付けられており,次に行うべき作業に関する議論のためのコンテクスト構築を目的としている。

 第1章では,OARプロジェクトにおける持続可能性という課題を概括し,多くのOARプロジェクトの問題として,コンテンツをウェブ経由で入手可能にするための初期投資の費用獲得に注力しているのに対し,一般の営利ビジネスでは当たり前のように行われている,ユーザのニーズ,選好,振る舞いや競合他者の環境を理解するための金銭的/人的リソースへの投資が,あまりなされていないことを挙げている。多くのOARプロジェクトの場合,学術界に属する者がリーダーとなっているが,研究リーダーの主要な役割は研究助成金の獲得である,とされる従来の学術界の研究プロジェクトと同様の意識が,この背景にあるのではないかとIthakaは推測している。

 第2章では,OARプロジェクトのリーダーの意識改革が必要として,持続可能性を達成するための8つのアプローチ・視点を提起している。

  • ほとんどのOARプロジェクトでは,最初の助成者から継続的に支援を得られると想定すべきではない。
  • 持続可能性を達成するためのプランを考える際,システムの運用費用だけではなく,将来的な拡大を見越しコンテンツや技術への継続的な再投資にかかる費用をも考慮しなければならない。
  • OARプロジェクトの価値はユーザが受け取った便益によって定量化される。この価値が積み重なることで,何らかの形で金銭に還元できる支援を得られる可能性がある。
  • 持続可能性は常に「独立運営」を意味するわけではない。他とのパートナーシップ,協同,さらには合併,売却による持続もあり得る。
  • ウェブは高度に競争的な環境であり,戦略的な行動,市場開拓計画,戦略的パートナーシップの模索,競合者の理解,プロジェクト目標・目的の特定・測定などが求められる。
  • プロジェクトリーダーは急速に変化し続けている環境を踏まえ,ユーザと競争的な環境のニーズを見て,常にプロジェクトの方向性を確認し,必要な場合には環境に応じて変化する心積もりをしておかなければならない。
  • 持続可能性を追求する場合,プロジェクトリーダーは専任となり,プロジェクトについて,また助成者に対しあらゆる説明責任を負う存在とならなければならない。
  • 環境が常に変化することを鑑み,新しいことに挑戦し,そこから学習した教訓を踏まえてプランを修正していく循環プロセスが,長期的な成功には不可欠である。そのためには,小さなリスクを覚悟し,少々の失敗を受け入れる必要がある。

 そして第3章・第4章において,プロジェクトの価値をいかにして持続可能な支援に転換するかが考察されている。ここではOARプロジェクトの収益モデルとして,直接受益モデル(購読契約型/ペイ・パー・ユース型/著者支払い型),間接受益モデル(ホスト機関の支援/企業によるスポンサード/広告/フィランソロフィーによる助成/他のサービス等へのライセンシング)を挙げ,各々について概要,事例,どのようなプロジェクトに適しているか,利点,欠点/リスク,発生するコスト,主要な課題,今後研究が必要な領域を分析している。

 Ithakaは本報告書を初期調査の成果に過ぎないとし,JISC等の機関や読者に対し,分析・コメントなど積極的な関与・議論を求めている。実際,ロンドンおよびニューヨークで行われた報告会でも活発に議論が行われており,今後の動向が大いに注目される。

Ref:
http://sca.jiscinvolve.org/2008/04/10/scaithaka-workshop-sustainability-in-the-digital-age
http://sca.jiscinvolve.org/2008/06/03/scaithaka-sustainability-study-new-york-session-notes/
CA1520
CA1597