カレントアウェアネス-E
No.156 2009.08.19
E965
英国の公共図書館における日本のマンガ<文献紹介>
Imrie, Matthew. Turnig Japanese. Public Library Journal. 2009, 24(1), Spring, p.2-5.
http://www.cilip.org.uk/NR/rdonlyres/71FA5A39-DBBD-45C0-AE9C-B0E728558B2E/0/plj241imrie.pdf
日本の「マンガ」(manga)は今や日本が誇るべき文化の1つと見なされており,その多くが世界中で人気を博している。英国でもマンガは若者を中心に受け入れられているが,このほど,英国の図書館情報専門家協会(CILIP)が発行している雑誌“Public Library Journal”の最新号に,英国の公共図書館へのマンガの取り入れ方について紹介する記事“Turning Japanese”が掲載された。著者はロンドンにあるエドモントン・グリーン図書館で,ティーン向けのサービスを担当する司書として働いているイムリー(Matthew Imrie)氏である。記事は,蔵書構築時の注意点,ディスプレイの仕方,対象年齢による取扱い上の注意点,図書館でのマンガ関連イベントの開催,といったことを中心に取り上げ,実践的な提案を行っている。また,“Shonen”“Shojo”“Moe”など,マンガの用語を簡潔に説明した用語集も付いている。
まず蔵書構築時の注意点として,最初の段階ではアニメ化されるなどテレビで人気の作品から選書すること,図書館向けの書籍供給者だけでなく,マンガ専門店などにも当たり,広く情報収集すること,マンガファンと触れ合って,彼らから情報収集を行うこと,などを挙げている。こうして購入したマンガは,利用者にアピールするために表紙を向けてディスプレイするのがよいと著者は勧めているが,その際にマンガが「右から左へ読む」という日本流に基づいていることに注意し,裏表紙を向けないよう忠告している。
また,対象年齢によるマンガの取扱い上の注意点について述べている。過度に暴力的な,あるいは性的な内容のマンガに子ども達が触れないよう,出版社が自発的に付している年齢制限の情報やマンガの表紙などから判断して,適切な排架を行う必要性を指摘している。一方で著者は,ライブラリアンが個人的な好みから同性愛などを扱うマンガを排除することは検閲に当たる危険性があるという,自身の見解を明らかにしている。著者は,こういった性的なマンガが,自他のセクシャリティを理解するのに役立つこともあると考えている。
最後に,図書館でのマンガ関連イベントの開催について述べている。マンガに興味を持つ人たちの好奇心や創造力を高める場として,マンガについて議論し,マンガを共同制作する「マンガグループ」の活動を取り上げている。著者の勤務する図書館でもマンガグループが活動しているが,マンガを通じて参加者の興味は,茶道,着物,寿司など,日本や日本文化全体へと広がりを見せているという。マンガグループの他に著者は,アート大会,コスプレ大会,クイズ大会などのイベントの開催を推薦している。著者によると英国では,「マンガには文芸的価値はない」「図書館にマンガを置かなければ,より多くの若者が文芸書を読むようになる」という意見が,依然として見られるという。しかし著者は,マンガへのニーズの高さを受け入れ,若者が図書館に足を運ぶきっかけを作る必要性を訴えている。
この記事は,日本のマンガが海外でどのように受け入れられているのかという事例として,また日本国内の図書館におけるマンガの取扱いとの比較の面でも興味深い。
Ref:
http://www.enfield.gov.uk/directory_record/1730/manga_reading_group
http://www.leics.gov.uk/index/community/libraries/county_libraries/a_to_z_libraries/blaby_libraries/enderby_library/manga.htm
http://www.norfolk.gov.uk/consumption/idcplg?IdcService=SS_GET_PAGE&ssDocName=NCC007508&ssSourceNodeId=&ssTargetNodeId=256
http://www.thisislocallondon.co.uk/whereilive/northwest/enfield/4318199.Edmonton_people_transformed_into_comic_book_art/
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