カレントアウェアネス-E
No.153 2009.07.08
E946
英国政府のデジタル化政策「デジタル・ブリテン」
2009年6月16日に,英国政府のデジタル化政策「デジタル・ブリテン」の最終報告書が公表された。同報告書は,デジタル化した国際経済社会において英国が最先端の地位を確保するための戦略的ビジョンとされ,文化・メディア・スポーツ省(DCMS)とビジネス・イノベーション・技能省(BIS)がとりまとめたものである。
こうした政策が求められる背景として,報告書では,長期的な経済競争力を得るにはデジタルコミュニケーション部門の振興が必要であることや,日常生活においても,オンライン世界に「参加している人が得をする」という状態から「参加しない人が損をする」という状態に移りつつあることを指摘し,参加への障害をなくすための課題として,国民のデジタルリテラシーの向上と,インターネット回線等のインフラ整備をあげている。
インフラ整備の目標として,まず,2012年までに全世帯に2Mbpsの回線を普及させることを掲げている。そして,次段階として,より高速の次世代ネットワークの整備を図るとしているが,民間の資金だけでは整備されない地域が発生するため,全国的な整備のための財源の一つとして,新たな基金を設立し,現在の固定回線の利用者に対して1か月当たり50ペンスの課金を行うことを提案している。
知的財産保護に関しては,違法なファイル共有への対応策として,適法で利用しやすいダウンロード制度を整備し,国民に制度を周知した上で,それでも違法行為を行う者に対して,情報通信庁(Ofcom)による対象者への通知や裁判所命令に基づく氏名公表等の処置を法制化することを提案している。また,いわゆる孤児著作物(orphan works)についても,政府が許可を与える形での利用の仕組みの設立を提案している。
その他,携帯電話網の周波数帯の見直し,2015年までのラジオのデジタル化,BBCやチャンネル4等の公共放送の内容の見直し,デジタル関連の研究・教育,テレビゲームの規制方法の見直し等についても言及されている。
最終報告書に対しては,英国図書館や情報システム合同委員会(JISC)からも反応が示されており,産業界のみならず,英国全体でのデジタル化政策の指針となるものと思われる。
Ref:
http://www.culture.gov.uk/what_we_do/broadcasting/6216.aspx
http://www.bl.uk/news/2009/pressrelease20090617.html
http://www.jisc.ac.uk/Home/news/stories/2009/06/digital.aspx