カレントアウェアネス-E
No.118 2007.11.28
E722
発展途上国の人々に無料で教材を−Global Text Project
高等教育は貧困から抜け出す手がかりとして重要なものであるが,特に発展途上国の人々は高価な教材を購入することができないために,高等教育を受ける機会を逃してしまうことがある。こうした現状を打開する一つのやり方として,発展途上国の人々がウェブサイトを通じて無料で利用できるオープンコンテンツの電子教材を作成し,公開しようというプロジェクト“Global Text Project(GTP)”が進行している。
これは米国のジョージア大学テリー・ビジネス・カレッジとデンバー大学ダニエル・ビジネス・カレッジの共同プロジェクトで,両大学からそれぞれワトソン(Richard Watson)氏とマッカバリー(Don McCubbrey)氏が共同プロジェクトリーダーとして参加している。英語から他言語への翻訳を視野に入れているため,彼らのほかプロジェクトの管理チームには,中国系,アラビア系,スペイン系の人々が含まれており,また国際諮問委員会として,アフリカや南米,アジアなど全14か国の代表者が関わるなど,事務局は国際色豊かなものとなっている。これはプロジェクトが“global”な展開を目指していることを明確に示しているといえるだろう。
GTPは2007年にスイスのJacobs財団から立上げ資金の援助を受けて開始した。今後の運営資金には大企業からの援助を想定しており,Business Week誌が毎年選ぶ世界の大企業1,000社(Global 1000)へスポンサーの依頼をする予定で,1社につき1冊の本のスポンサーになってもらい,最終的に1,000冊の教材を提供する電子図書館を作ることを計画しているという。なお,1冊の教材を作るために必要な資金は5万ドル(約550万円)で,その後の維持費用として毎年2万5千ドル(約275万円)が必要となるという。
GTPでは,大学の学部課程1,2年目レベルの内容の教材を順次作成する予定で,現在は「情報システム(Information Systems)」,「ビジネスの基礎(Business Fundamentals)」の2冊がそれぞれ公開中・作業中である。教材の執筆には,コンテンツマネジメントシステム(CMS;CA1584参照)が使用されており,担当編集者や品質保証委員会,学生といった関係者が内容の修正や変更,アドバイスをウェブ上で行えるようになっている。GTPではこのように,集合知を教材の質を担保する仕組みとして利用している。また,教材はクリエイティブコモンズのライセンスに基づき,頒布・複製・内容の変更が自由に行える。GTPでは,教材の利用者たちが自分たちの国の事例を教材に付け加え,内容を豊かにしていくことを期待している。
GTPが提示する教材の新しいモデルは,スタートしたばかりである。今後は関係者が期待するように,多くの企業がスポンサーとして参加し,さらには国連など国際的な機関との連携にまで発展していくのか,その動向が注目される。
Ref:
http://www.globaltext.org/
http://creativecommons.org/licenses/by/3.0/
CA1510
CA1584