カレントアウェアネス-E
No.116 2007.10.31
E709
ソーシャルネットワーキングと図書館の意識調査
OCLCは2007年10月,『ネットワーク化された世界における共有,プライバシーと信頼』と題するレポートを公開した。これは,2005年のレポート『図書館と情報資源についての認知度』(E422参照)および2006年の『大学生の図書館と情報資源についての認知度』の後の情報世界,とりわけ人々が作成したコンテンツを共有し,協同してコミュニティを築き上げていく「ソーシャルネットワーキング」の世界に対する人々の意識を調査し,図書館の果たすべき役割について考察したものである。
2006年12月〜2007年2月に行われたこの調査は,米・英・独・仏・カナダおよび日本に在住する14歳以上の人々に対するオンラインアンケートと,米国の各館種の図書館長に対するオンラインアンケート,先駆的な図書館サービスを展開している図書館司書など14名の情報サービス専門家に対するインタビュー,の3種類からなり,オンラインアンケートには各々6,163名(日本からは804名),382名が回答している。
この調査の主要な論点として,以下が挙げられる。
- 2005年の『図書館と情報資源についての認知度』の調査対象国である米・英・カナダの3か国について時系列で比較すると,検索エンジンの利用率は71%から91%に,ブログの利用率は16%から46%に増えている一方,図書館ウェブサイトの利用率は30%から20%に減少している。
- また日本の一般の人々の図書館ウェブサイト利用率は10%と,6か国中最少であった。
- SNSの利用率,動画共有サイト“YouTube”などのソーシャルメディアサイトの利用率はいずれも全体の28%であり,図書館ウェブサイトの利用率よりも高かった。SNSを利用する理由の第1位は「友達がやっているから」(66%)。
- 図書館ウェブサイトの利用,図書館資料の利用が「大変プライベートなものである」と回答した人はそれぞれ11%,9%であり,SNSの利用(15%),検索エンジンの利用(15%),オンライン書店の利用(12%)よりも少なかった。
- 米国の図書館長のSNS利用率は22%であり,SNSを利用する理由として「仕事で必要なので」を挙げた人が多かった。一方,米国の一般の人々の利用率は37%であり,「社会的つながり」のためにSNSを利用するとした人が多かった。
- 米国の図書館長の48%が「どんな本を読んだかは大変プライベートな事項」としたのに対し,同様に回答した米国の一般の人々は16%であったなど,図書館長の方が一般の人々よりも図書館や読書をプライベートなものと認識していることが明らかになった。
- 図書館長の14%,一般の人々の13%が,SNSを提供するのも図書館の役割である,と回答している。
- 情報サービス専門家へのインタビューからは,まだまだソーシャルネットワーキングには開拓の余地があり,図書館員は変化の速いこの世界についてもっと学び,働きかけていく必要がある,という見解が示された。
この調査からは,人々がウェブサイトを読む側から作る側になり,情報をより共有するようになってきている中,従来の図書館ウェブサイトの存在感は相対的に低下していることがうかがい知れる。図書館もいま流行のSNSを提供すべきである,と考える人はまだ多くなかったものの,図書館が立ち上げているブログが1万以上あり,SNSを提供し好評を博している図書館も存在するなど,すでにソーシャルネットワーキングの世界に足を踏み入れている図書館も出始めている。報告書は最後に,利用者と協同してコンテンツと,プライバシーに関する新しいルールを作っていく図書館ウェブサイトを構築すべきであると結論付けている。
Ref:
http://www.oclc.org/reports/sharing/
http://www.oclc.org/reports/2005perceptions.htm
http://www.oclc.org/reports/perceptionscollege.htm
CA1624
E422
E616