E624 – ワイリー社−ブラックウェル社の合併と学術図書館界の反応

カレントアウェアネス-E

No.103 2007.03.28

 

 E624

ワイリー社−ブラックウェル社の合併と学術図書館界の反応

 

 2006年11月17日,ワイリー(Wiley)社はブラックウェル(Blackwell)社の買収を発表した。

 ワイリー社は主にSTM(理学,工学,医学)分野や法律分野に関する学術雑誌を約500タイトル,ブラックウェル社は約750タイトル刊行しており,合併後はあわせて約1,250タイトルの学術雑誌を刊行することになる。これはエルゼビア(Elsevier)社の約2,200タイトル,シュプリンガー(Springer)社の約1,500タイトルに次ぐ地位を占めることになる。この数字は同時に,現在刊行されている査読付き学術雑誌のおよそ4分の1を,上位3社が刊行していることも意味する。

 このワイリー社とブラックウェル社の合併に対し,北米の図書館団体7団体(北米研究図書館協会,米国図書館協会,研究・大学図書館協会,米国法律図書館協会,医学図書館協会,SPARC,専門図書館協会)からなる情報アクセス連合(Information Access Alliance)は2006年11月29日に,合併に伴い学術出版市場の寡占が高まり学術雑誌の高騰傾向が強まるとして,調査を求める公開書簡を米国司法省反トラスト局へ提出した,と発表した。またヨーロッパの図書館団体5団体(英国研究図書館コンソーシアム,欧州図書館・情報・ドキュメンテーション協会連合,欧州研究図書館協会,英国図書館,大学図書館協会,SPARC Europe)も2007年1月19日に,欧州委員会競争総局(Competition DG)に調査を求める公開書簡を提出したことを発表した。

 両者の主張の骨子はほぼ共通している。すなわち,大規模出版社の買収や合併により,とりわけSTM分野における学術雑誌の寡占率が上昇し,学術雑誌の刊行に市場競争原理が働かなくなる。そのため学術雑誌の価格高騰や電子ジャーナルの一括購読契約(CA1586参照)・複数年契約・購読契約解除の禁止といった不公正な取引を引き起こしている。とりわけ価格高騰は購読タイトル数の減少をもたらし,研究者や研究機関の情報アクセス力を弱め,新たな知識の創造や技術革新に悪影響を及ぼす。以上の問題点を指摘した上で,大規模出版社の合併に際しては,学術出版市場における独占的地位とその及ぼす影響を調査する必要性があると指摘している。

 また北米研究図書館協会は今回の合併問題について,独自に解説文書“John Wiley and Son’s Acquisition of Blackwell Publishing”を公表している。ここでは反競争的活動と学術雑誌市場の寡占による結果が明確になれば,反トラスト法当局は市場と大規模学術出版社の動向により注意を払うようになると指摘している。そして一旦当局の審査と介入が開始されれば,学術雑誌刊行の寡占状態の解消や大規模出版社による不公正な取引の禁止といった利益を,顧客は享受すると指摘している。

 ワイリー社は2007年2月5日のプレスリリースで,ブラックウェル社の買収を完了したことを発表している。

Ref:
http://as.wiley.com/WileyCDA/Section/id-301452,newsId-2292.html
https://mx2.arl.org/Lists/SPARC-OAForum/Message/3561.html
http://informationaccess.org/wiley.blackwell.pdf
http://www.arl.org/bm~doc/issue_brief_wiley_blackwell.pdf
http://www.libraryjournal.com/article/CA6417305.html
CA1586