E2924 – 国際学術会議Digital Humanities 2026<報告>

カレントアウェアネス-E

No.533 2026.10.29

 

 E2924

国際学術会議Digital Humanities 2026<報告>

国立国会図書館電子情報部システム基盤課・村田祐菜(むらたゆうな)
国立国会図書館電子情報部電子情報企画課・赤穗知郁(あこうちか)

 

  デジタル人文学(DH)分野で最大規模の国際学術会議「Digital Humanities Conference 2026」(以下「DH2026」;E2826ほか参照)が、2026年7月27日から31日まで韓国・大田にてハイブリッド形式で開催された。日本の研究機関・研究者からも多数の参加があり、国立国会図書館(NDL)からは現地、オンライン各1名が参加した。

  2022年の東京に次いでアジアで2度目の開催となった今大会では、「エンゲージメント/関わり」をテーマに掲げ、5日間にわたってプレカンファレンスイベント及び研究発表(口頭及びポスター)が行われた。発表総数は約500件にのぼり、リアルタイム人工知能(AI)翻訳が導入され、英語以外の言語での発表や質疑応答も見られた。本稿では、基調講演と筆者が参加したセッションの一部について報告する。

●基調講演

  開会式の基調講演では、韓国デジタル人文学協議会の初代会長を務めたキム(Kim Hyeon)氏(韓国学中央研究院名誉教授)が登壇した。AIのテキスト読解能力が高い水準に達し、古典の知識や解釈に携わってきた人文学の意義や知的探求心を脅かしかねないとの懸念もある中で、AI時代の古典人文学のあり方が示された。氏は「学而時習之、不亦説(悦)乎?」(『論語』学而篇)を引き、人文学の本質は「学」(知識の獲得)、「習」(知識の実践)、「悦」(実践から生じる充足感)が循環するプロセスにあり、特に人間固有の体験である「習」と「悦」を回復すること、すなわち知識中心から実践に基づく学問へと転換していく必要があると述べた。また、伝統的な古典解釈をAIが理解可能な構造化データへと再構築するデジタル人文学の活動は、AIを教育するプロセスであると同時に、AIの解釈を検証する過程で研究者自身も思考を深めるプロセスでもあると述べ、このようなAIと人間の相互教育は「教学相長」(『礼記』学記篇)の実践であると述べた。

  アントニオ・ザンポッリ(Antonio Zampolli)賞受賞者による基調講演も行われた。同賞は大会を主催する国際デジタル・ヒューマニティーズ学会連合(Alliance of Digital Humanities Organizations:ADHO)が3年に一度、デジタル人文学分野の優れた成果を顕彰する賞で、2026年は計量文体分析ツール“stylo”とその開発グループ“Computational Stylistics Group”が受賞した。グループを代表してエデル(Maciej Eder)氏(ポーランド科学アカデミー)が講演を行い、計量文体論に関する研究成果や、GUIを備えプログラミングの知識なしに扱えるデータ解析プログラミング言語Rのパッケージstyloについて紹介した。同グループが正式な組織構造を持たず、国や機関を越えて連携する緩やかな草の根のコミュニティとして発展してきたことにも言及し、研究者同士が自然に集まるネットワークを育むことの重要性を強調した。また、コーパス、標準、ツール、教育の場、資金制度などを「デジタル人文学の文法」と呼び、そのような共通基盤が研究を支えていると指摘した。

●図書館とデジタル人文学

  ADHOの専門部会“Libraries and Digital Humanities”のセッションでは、イリノイ大学図書館司書であるハン(Myung-Ja K. Han)氏から、AI時代の知識組織化について報告があった。報告された図書館業務における生成AIの活用に関する諸事例の中でも、商用大規模言語モデル(LLM)による目録作成の実験では、情報源の抽出や特定のメタデータ形式に沿った記述といったタスクで高いパフォーマンスを発揮した一方、統制語彙の付与には課題があり、米国議会図書館(LC)件名標目表(LCSH)の正答率は18~35%程度にとどまったとのことであった。また、目録作成におけるAIの導入が進む中(E2663、E2724参照)で、図書館員の役割は自動化されたメタデータ作成フローの最終的な承認者ではなく、プロンプト設計やモデルへの理解を通じてAIに働きかける監督者であるべきというハン氏の主張は、キム氏の基調講演と通ずるように思われた。

  オーストリア国立図書館からは、所蔵するデジタル画像にAIでメタデータを付与し検索性を高めるプロジェクト“Reading Images, Writing Metadata”が報告された。コレクションに含まれる写真や図版といった多様な画像や利用者の検索ニーズをふまえて、三つの画像処理モデルを組み合わせており、画像中のオブジェクト検出には異なるデータセットで訓練した二つのYOLO11モデル(Ultralytics社)を、画像のアノテーションにはCLIPモデル(OpenAI社)を用いたとのことである。プロジェクトでは、オープンなモデルの採用とデータ生成過程の透明性に重点を置いていることも強調された。

●デジタルアーカイブとデジタル人文学

  デジタルアーカイブとの関わりにおいては、文化資源をより発見・利用しやすいデジタルデータとして整備するための技術に関し、実験的な内容を含め幅広い発表が見られた。例えば、小川潤氏(東京大学)からは、文化遺産の3Dモデルについて、オブジェクト表面の特定領域を単位としてIIIFに準拠した(一部独自拡張を含む)アノテーションを付与し、リンクトデータとして構造化する試みが紹介された。

  一方で、こうした技術や基盤の整備をそれ自体で完結させるのではなく、整備された文化資源の実際の活用に繋げようとする動きも印象的であった。リッジ(Mia Ridge)氏(英国図書館)は、英国の美術館・博物館等の収蔵品データを集約するプロジェクト“Museum Data Service”に関する発表の中で、デジタルアーカイブを持続可能なものとするために、データを様々な場面で実際に利用し、利用したことをデータ提供機関に報告して、機能改善や新たな協働に繋げる循環が重要であると述べた。データは公開されて終わりではなく、利用を通じて価値が高まり続けるという考え方である。

  開催国の韓国からは、コロナ禍後に来館者が急増した国立中央博物館を事例に、会話可能な展示案内ロボットやExtended Reality(XR)を活用した没入型展示などのデジタル技術と、来館者の認知・社会的な文化体験との関係を考察する発表などがあった。

  今大会の抄録集は研究成果共有のためのリポジトリ“Zenodo”で公開されている。次回は「創造性」をテーマに、2027年6~7月にアイルランド・ゴールウェイで開催予定である。

Ref:
DH2026.
https://dh2026.adho.org/
Digital Humanities 2026: Book of Abstracts. Jung, Song-yi; Kim, Gayeon et al. Daejeon, 2026-07-27/31, Korean Association for Digital Humanities. ADHO Digital Humanities Conference 2026 (DH2026), Daejeon Convention Center.
https://doi.org/10.5281/zenodo.21495908
DH2026 Opening Keynote.
https://kstoryhub.visualasia.com/classics/wiki/index.php?title=DH2026_Opening_Keynote
Eder, Maciej. “Computational Stylistics in Action: From Research Infrastructures to DIY Tools”. Computational Stylistics Group.
https://computationalstylistics.github.io/presentations/zampolli/
Eder, Machej; Rybicki, Jan; Kestemont, Mike. “Stylometry with R: A Package for Computational Text Analysis”. The R Journal. 2016, 8(1), p. 107-121.
https://doi.org/10.32614/RJ-2016-007
Libraries and Digital Humanities Special Interest Group.
https://adholibdh.github.io/
Museum Data Service.
https://museumdata.uk/
DH2027.
https://dh2027.adho.org/
村田祐菜. 国際学術会議Digital Humanities 2025<報告>. カレントアウェアネス-E. 2025, (509), E2826.
https://current.ndl.go.jp/e2826
山口美季. 第88回IFLA年次大会目録分科会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (472), E2663.
https://current.ndl.go.jp/e2663
安藤一博. 2024年IIPC総会・ウェブアーカイビング会議<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (485), E2724.
https://current.ndl.go.jp/e2724