E2866 – European Diamond Capacity Hubの始動から1年を迎えて

カレントアウェアネス-E

No.518 2026.02.12

 

 E2866

European Diamond Capacity Hubの始動から1年を迎えて

京都大学東南アジア地域研究研究所・設樂成実(したらなるみ)

 

  2025年1月にEuropean Diamond Capacity Hub(EDCH)が正式に始動した。EDCHは、欧州におけるダイヤモンドオープンアクセス出版を担うコミュニティの発展に向けたイニシアチブであり、同地域における人文・社会科学分野のオープンな学術コミュニケーション発展のための研究基盤であるOPERASが財政的なホストを務めている。始動から1年余りが経過する中、提供されるサービスは着実に増えており、プログラムの進展が窺える。本稿では、EDCHの発足の経緯と取組について概観する。

●発足の経緯

  ダイヤモンドオープンアクセスとは、読者にも著者にも料金を課すことのないオープンアクセス(OA)出版を指す。学術コミュニティによって所有・管理されることが、その定義に含まれるケースも増えてきている。ジャーナル出版の商業化による問題が顕在化する中、ダイヤモンドOAは公平な出版モデルとして近年関心を集めている。しかし、OA Diamond Journals Study(2021)が報告するように、その多くは、資金や人的リソースといった問題を抱え、持続可能性が危ぶまれてもいる。そこで欧州では、Horizon Europeによる資金提供のもとダイヤモンドOAの出版体制の強化に向けたプロジェクトとしてDIAMAS(2022-25年)とCRAFT-OA(2023-25年)が実施された。両者は密接に連携したプロジェクトであり、DIAMASが出版状況の調査や品質の向上に向けたガイドラインの策定などに取り組んだのに対し、CRAFT-OAでは出版に係るプラットフォーム、ソフトウェア、インフラといった技術基盤の整備が行われた。両者の成果を土台にEDCHは始動した。

  EDCHは、OA出版のためのリソースのポータルサイトを運営することをミッションの一つに掲げるが、そのリソースにはDIAMASとCRAFT-OAにより開発された成果が含まれる。EDCHは、そのほか欧州におけるダイヤモンドOAのための財政・サービス資源の集約と再分配、同地域の電子出版の専門家の交流促進などもミッションとして掲げている。

●サービス

  以下、EDCHより提供されるサービスを紹介する。

  • Diamond Open Access Standard(DOAS)と自己評価ツール

      DOASは、DIAMASにより開発されたダイヤモンドOA出版の品質や透明性を担保するためのツールである。「資金」「法的所有権・ガバナンス」「オープンサイエンス」「編集管理・品質・研究公正」「技術的効率」「可視性・インパクト」「EDIB(公平性・多様性・包摂性・帰属意識)・多言語主義・ジェンダー平等」について、ダイヤモンドOA出版に期待される事項を必須レベル、推奨レベルに分け解説している。EDCHでは、出版者やサービスプロバイダーがDOASの準拠状況や持続可能性を自己評価するためのツールも併せて提供している。

  • Diamond Discovery Hub(DDH)

      DDHは、CRAFT-OAにより開発された欧州のダイヤモンドOAジャーナルのレジストリである。2026年1月現在、2,981誌が収録されている。DIAMASとCRAFT-OAではダイヤモンドOAの基準として6つの要件(1永続的な識別子を持つこと、2学術誌であること、3オープンライセンスが付与されたOAであること、4無料であること、5投稿にいかなる資格も求めないこと、6コミュニティにより所有されていること)を定めているが、DDHの収録に当たっては、1~4は必須、5と6については少なくともいずれか一つを満たす必要がある。ジャーナルは収録を通し、可視性、発見可能性、認知度を高めることができる。また、DDHは、研究者が投稿先を探したり、図書館員がコレクションの収集や整理を行ったりする際にも活用されると期待されている。

  • Training Platform

      Training Platformとして、ダイヤモンドOAの出版者や技術担当者に向けた研修モジュールが提供されている。「資金・持続可能性・ガバナンス」「編集管理」「法的・倫理的課題」「技術」「宣伝・普及・索引登録」「全般」の項目に分け、用語解説、内容解説、テスト等が用意されており、受講者は自身の関心に沿って学習を進めることができる。例えば、「資金」では、Voluntary Author Contributions(VAC)について、論文掲載料(APC)とは異なり著者がOA出版のために自発的に支払う料金であり、ダイヤモンドOAの資金の一つであると解説されている。こうした日本ではまだなじみの薄い概念や動向についても知識を深めることができる。

  その他、ダイヤモンドOA出版に携わる出版者やサービスプロバイダー等のレジストリ、関係者が意見や情報を共有できるオンラインプラットフォーム、業務の効率化に役立つソフトウェアやアドオンなども提供されている。

  EDCHの始動に合わせ、欧州、アフリカ、ラテンアメリカのダイヤモンドOA出版の連携を図るプロジェクトALMASIが開始されるなど、世界ではダイヤモンドOAの推進に向けた動きが活発である。2025年10月に開催されたCRAFT-OA Conferenceでは、村西明日香氏(名古屋大学附属図書館)・菊谷智史氏(大阪大学附属図書館)より紀要をダイヤモンドOAの一つとして位置づける発表が行われたが、ダイヤモンドOAを巡る世界の議論や動きに日本の学術出版をどう接続していくか、今後の動向が注目される。なお、Training Platformでは、大学図書館が実践可能な取組として、ダイヤモンドOAジャーナルの出版費用やインフラ支援のために資金配分することや、信頼できる情報源や投稿先として研究者や学生にダイヤモンドOAジャーナルを推奨することが挙げられており、日本の図書館員にとっても参考になると思われる。ただ、日本の研究者の間でのダイヤモンドOAという概念の認知度は、まだまだ低い印象を受ける。まずは、その認知度を高めることが必要なのかもしれない。

Ref:
European Diamond Capacity Hub.
https://diamas.org/
Bosman, Jeroen et al. The OA Diamond Journals Study. Part 1: Findings. Zenodo, 2021, 128p.
https://doi.org/10.5281/zenodo.4558704
DIAMAS.
https://diamasproject.eu/
CRAFT-OA.
https://www.craft-oa.eu/
“Services”. EDCH.
https://diamas.org/services
Consortium of the DIAMAS project. DOAS: The Diamond OA Standard. Zenodo, 2025, 36p.
https://doi.org/10.5281/zenodo.15227981
“Self-assessment tool for Diamond OA”. DIAMAS.
https://diamas.fecyt.es/
Diamond Discovery Hub (DDH).
https://ddh.diamas.org/en
“Diamond criteria”. DDH.
https://ddh.diamas.org/docs/diamond-journals/
EDCH Training Platform.
https://training.diamas.org/
ALMASI.
https://almasiproject.org/
坂本拓. ダイヤモンドオープンアクセスに関する世界の潮流. 2025, 8p.
https://toshokanshuppan.cseas.kyoto-u.ac.jp/wp-content/uploads/2025/08/20250722_presentation_sakamoto.pdf
“What’s new in the European Diamond Capacity Hub”. EIFL. 2025-06-06.
https://www.eifl.net/news/whats-new-european-diamond-capacity-hub
OPERAS Research Infrastructure. “Day 2, Pauliner Church: CRAFT-OA Conference – Crafting the Future of Diamond Open Access”. YouTube. 2025-10-30.
https://www.youtube.com/watch?v=Lhn4C0zjuoY
“One Year On: Reflections and Milestones from the European Diamond Capacity Hub”. EDCH. 2026-01-16.
https://diamas.org/one-year-reflections-and-milestones-european-diamond-capacity-hub