E2858 – 第21回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2025)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.516 2026.01.15

 

 E2858

第21回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2025)<報告>

国立国会図書館電子情報部電子情報企画課・田中耀子(たなかようこ)
国立国会図書館関西館電子図書館課・松田恵里(まつだえり)

 

  第21回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2025;E2752ほか参照)が、2025年11月3日から7日の5日間にわたり、ニュージーランドのウェリントンで開催された。前回に引き続きオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式で開催され、国立国会図書館(NDL)からは、オンサイト、オンラインそれぞれ一人ずつ参加した。

  初日は主にワークショップやチュートリアルが行われた。2日目から4日目は、基調講演、論文発表、パネルディスカッション、ポスター発表、ライトニングトーク等が開催された。5日目にはオンサイト参加者のみ、ウェリントン市内の機関を見学する機会が設けられた。

  セッションの内容は多岐にわたり、参加者も、学生から国立アーカイブズのアーキビスト、自治体の図書館司書に至るまで千差万別であった。いくつかのセッションがオンライン参加者に同時配信された。以下、筆者らが参加したセッションから特に興味深かったものを紹介する。

  今回はオセアニアが抱える課題に焦点を当てた取組の発表が目立った。特に参加者の関心を集めたのは、気候変動で国土水没の危機に瀕するツバルが進める「Digital Nation」(デジタル国家)構想についてのサイモン・コフェ(Simon Kofe)運輸・エネルギー・通信・イノベーション大臣による基調講演であった。たとえ領土が失われても、電子政府を運営し、バーチャル上にツバルを維持しようとする前例のない試みであり、文化や歴史を未来につなぐデジタルアーカイブ構築の必要性が強調された。

  また、オセアニアの消滅危機言語や文化表現を記録・保存するデジタルアーカイブ「PARADISEC」(Pacific and Regional Archive for Digital Sources in Endangered Cultures)のポッドキャストシリーズ「Toksave: Culture Talks」がポスター発表で紹介された。PARADISECと文化的につながりのある人々へのインタビューを通じて、コミュニティが自分たちに関係する資料を積極的に知ることができるようにしてゆこうとする姿勢が印象的であった。

  ニュージーランドの視聴覚アーカイブズ「Ngā Taonga Sound & Vision」は、LTO(Linear Tape-Open)のマイグレーションのためのコレクション優先順位付けモデル「Hakune」について発表した。「Hakune」(マオリ語で「伝達可能な」、「順序だった」等の意)は、多くの組織がデジタル資料のマイグレーションの優先順位付けの基準とする、ファイルの重要性(Significance)と消失の恐れ(Risk)に、アクセスの可能性(Access)も基準に加えたより包括的なモデルであるといえる。加えて、マオリの文化・知識が順序付けの重要な基準とされていることも興味深い。

  技術面においてはAI活用の事例が例年に比べ顕著に多かった。例えば、米・オクラホマ州立大学のデジタルアーカイブプロジェクトでは、同学の持つ約6万点の画像を含む大学史のデジタルアーカイブに対しAIの顔認識システムを組み込むことで、画像中に写る歴史上の人物を自動で特定しメタデータに紐づける運用を行っている。

  また、AIによるメタデータ生成に加えて、デジタルアーカイブ上のコンテンツの真正性を保証するための仕組みとしてブロックチェーンを取り入れたArchivAIフレームワークについて、開発者(米・アーカンソー歴史文化センター所属)による発表もあった。ここで使われるブロックチェーンは認可されたユーザーのみが参加するクローズドなものであるが、ブロックチェーンの核となる検証技術をデジタルアーカイブに最適な手法で活用している。デジタルアーカイブのフレームワークとしてAIとブロックチェーンのどちらか一方ではなく両方を統合した例は珍しい。

  日本からは、慶應義塾大学の明石枝里子氏と慶應義塾ミュージアム・コモンズの宮北剛己氏より、「SOI Asia」(School on Internet Asia)とそのサブプロジェクト「DHASH」(Digital Humanities Asia/And Science Hub)について報告があった。SOI Asiaはアジア太平洋地域の大学の機関から構成されるコンソーシアムであり、STEM教育とインターネット基盤構築に注力し、強固なネットワークを築いている。このネットワークを基盤とするDHASHは、アジア太平洋地域におけるデジタルヒューマニティーズを支援するオープンサイエンス基盤の構築を目指している。現在は、インドネシアやネパールの大学と協働し、文化的遺産のデジタルアーカイブ化に取り組んでいる。

  iPRES 2025のウェブサイトには、一部のセッションの予稿が掲載されているので、参照されたい。

  第22回となるiPRES 2026はデンマーク・コペンハーゲンで、2026年9月21日から25日までオンサイト及びオンラインのハイブリッド形式で開催される予定である。

Ref:
iPRES 2025.
https://www.ipres2025.nz/
The First Digital Nation.
https://www.tuvalu.tv/
PARADISEC.
https://www.paradisec.org.au/
“Toksave – Culture Talks”. PARADISEC.
https://www.paradisec.org.au/toksave-podcast/
Ngā Taonga Sound & Vision.
https://www.ngataonga.org.nz/
SOI Asia.
https://soi.asia/
“Developing Digital Archives of Cultural Heritage: Collaborative Efforts and Future Visions at the DHASH Project”. SOI Asia. 2025-03-26.
https://www.soi.asia/2025/03/26/developing-digital-archives-of-cultural-heritage-collaborative-efforts-and-future-visions-at-the-dhash-project/
木下貴文, 松田恵里. 第20回電子情報保存に関する国際会議(iPRES 2024)<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (491), E2752.
https://current.ndl.go.jp/e2752