E2839 – 米国公共図書館の職員に関する調査レポート2024年版

カレントアウェアネス-E

No.512 2025.11.06

 

 E2839

米国公共図書館の職員に関する調査レポート2024年版

東京大学附属図書館・橘風吉(たちばなふうきち)

 

  2025年8月、米国公共図書館協会(PLA)は、公共図書館の職員に関する調査レポートの2024年版“Public Library Staffing Report:Results from the 2024 PLA Annual Survey”を公開した。調査は、図書館職員の進化するニーズを理解し、対応するという取組みの一環である。2024年9月23日から12月21日まで、全米9,226の公共図書館を対象にアンケート調査が実施され、1,478館から回答が得られた(回答率16%)。本調査の特徴は、アクセシビリティに焦点が当てられ、2021年版の調査(E2559参照)と比較可能な点である。本稿では、調査レポートの内容について適宜2021年版と比較しつつ紹介する。

●職員給与と職員構成

  職員補充に苦労する図書館では、報酬が最大の懸念事項とされていた。2024年の図書館長の年間給与中央値は6万3,000ドル、新人司書は4万5,000ドルであり、2021年の4万5,752ドルから減少していた。黒人・先住民・有色人種(BIPOC)の職員の割合は米国人口に比して2021年の調査から依然として低かった。常勤職員の76.1%が白人であり、黒人9.1%、ヒスパニック8.8%、アジア系4.5%、その他は1.0%未満であった。非常勤職員はさらに白人比率が高く、81.2%が白人であった。

●図書館の役割

  公共図書館の約4分の3には、児童サービス、資料収集、公共プログラム、成人・青少年サービスに特化した職員が配置されていた。2021年と比較して役割に大きな変化はなかったが、地域連携やアウトリーチに特化した職員を配置する図書館が増加していた。新たな職務としてメイカースペーススタッフ、デジタルナビゲーター、AI専門家などが登場していた。

  職員の専門性向上に関しては、96.4%の図書館が職員向けのプログラムを有していた一方、研修費等の補助やメンター制度を導入している図書館は比較的少数にとどまった(それぞれ34.6%、9.1%)。職員の専門性向上に充てられる時間・資金は減少傾向にあるほか、本調査前の12か月に人員削減に至った図書館は18%で、その理由として最も多かったのは職員退職後の人員補充がなされなかったからであった(53.5%)。

●採用と人材定着

  公共図書館の88.5%が採用戦略を実施しており、2021年の91.5%から減少していた。主な戦略は、多様な層に向けた求人広告の掲載(70.8%)、応募書類のブラインド審査(47.1%)、求人情報における公平性・多様性・包摂性・アクセシビリティ(EDIA)関連の明示的な記載(40.4%)であった。潜在的な偏見や異文化理解について学ぶ研修の実施率は38.3%から30.9%に減少していた。マイノリティに属する職員の定着に関し、公共図書館の76.7%が少なくとも一つ以上の取組を行っていたが、行動計画の実施(4.1%)や新人職員向けのメンター制度の導入(7.3%)は少数にとどまっていた。2024年調査で追加された図書館学修士/図書館情報学修士(MLS/MLIS)の資格の有無を採用の要件としている公共図書館の比率は、館長職では51%、司書職では31.1%、管理職では17.2%であった。

●公平性・多様性・包摂性・アクセシビリティ(EDIA)の目標と活動

  2021年と比較して、EDIAに関する正式な文書化された目標を持つ公共図書館は19.1%から22.1%に増加した。主要な目標は包摂的な利用環境の提供(93.7%)、蔵書に関すること(93.6%)、アクセシビリティに関すること(90.5%)であった。白人至上主義の解消(17.1%)やマイノリティに属する職員への定着支援(37.8%)は2021年と比較して減少していた。EDIA活動全体への関与も93.3%から87.4%と減少傾向であったが、アクセシビリティの観点によるデジタル環境の定期的な見直し(57.1%)や神経多様性や障害者支援(47.3%)は増加していた。

●アクセシビリティ

  本調査において、アクセシビリティは「障害者が健常者と同等の情報・交流・サービスを得られる機会の保障」と定義されていた。公共図書館の90%以上が障害者対応の入口を備え、80%以上が米国障害者法(ADA)基準を満たす施設を有していた。公共図書館のなかで、視覚障害者のための点字表示やその他の支援を提供しているのは36%、アクセシブル技術搭載PCは48.4%であった。図書館が直面する制約としては予算が87.4%である。また354館がアクセシビリティを最優先事項としてインフラ改善を計画していた。

  調査結果は、公共図書館が地域社会との関わりや連携を強化している事実を示した。しかし、公共図書館は職員削減や多様性の欠如、様々な地域社会における資源配分の不均衡といった根深い課題に直面していた。このようなデータを収集し、報告することは、職員の意識の向上や図書館強化に向けた啓発活動に寄与する。

Ref:
“PLA Surveys and Data”. ALA.
https://www.ala.org/pla/data/plasurveys
Public Library Staffing Report: Results from the 2024 PLA Annual Survey. PLA, 2025, 53p.
https://www.ala.org/sites/default/files/2025-08/PLA_Staff_Survey_2025.pdf
青野正太.米国公共図書館の職員と多様性に関する調査.カレントアウェアネス-E.2022, (448), E2559.
https://current.ndl.go.jp/e2559