E2832 – 大学図書館等におけるシェアードサービスに関する報告書(英国)

カレントアウェアネス-E

No.511 2025.10.16

 

 E2832

大学図書館等におけるシェアードサービスに関する報告書(英国)

名古屋工業大学学術情報課・飯田智子(いいだともこ)

 

  2025年7月、英国国立・大学図書館協会(SCONUL)が、大学図書館等におけるシェアードサービス(業務の集約化・共有化)に関する報告書“Shared services in academic and research libraries”を公表した。同年5月にSCONUL加盟館の主要な図書館長らが参加した、図書館のシェアードサービスのさらなる発展の可能性を探る会議の成果報告書である。以下にその概要を紹介する。

  英国において図書館は長年にわたり、シェアードサービスの導入を積極的に検討し、実践してきており、議論はそれらの経験に基づいて行われた。3章では、ウェールズのコンソーシアムが図書館管理システム(LMS)を共同で導入して費用の大幅な削減を実現した事例から、スコットランドの大学図書館等による共同オープンアクセス(OA)出版事業まで、既存の10の成功事例が紹介されている。

  4章ではシェアードサービスがもたらす利点について、5章では、現実的な視点で洗い出された図書館の現在の課題と、シェアードサービスによる解決のアイデアが、議論をとおして特に関心を集めた、データ・プラットフォーム・スタッフのスキル・スペースの4つの領域に整理されて述べられている。

  6章では、それらの分析と評価に基づき、実行可能で優先度の高いアイデアが絞り込まれ、次の7つの提案がまとめられた。

  1. データ、プロセス、記録の標準化
    データ等の標準化は、機関間の大規模な連携のために重要な基盤を築くものであり、データ共有の効率化や重複の削減、AI活用や共同管理ツールの開発につながる。重要性はまだ広く認識されていないが、今後の取組に不可欠なステップである。
  2. オープン教育リソース(OER)リポジトリの構築
    機関間で教育・学習教材を再利用することで、コストの削減とオープン性、包摂性、さらに学術実践の共有という文化を促進する。
  3. 共有の研究成果リポジトリ
    コンテンツを一箇所に集約することで、各機関の研究成果へのアクセスを容易にし、英国の研究成果の可視性を高め、AIを活用した分析などの新サービスをも可能にする。
  4. デジタルスキル向上のための共同デジタル空間の開設
    様々な機関の学生と教職員がデジタルスキル開発において協働する共有のデジタル環境を構築する。そこでは複数の機関に分散したコレクションを横断的に活用することもできる。共通のインフラを活用することで、より包括的、連携的なデジタル体験の実現を目指す。
  5. 専門人材の集約と共有
    OAや研究データ等の専門知識を持つ人材を集約して共有のオフィスを設立し、各機関に高度な知識とサポートを提供する。
  6. 物理的コレクションの共同保管施設
    重要な物理的コレクションを収容するための共有の保管施設を設置することで、貴重資料の保存とアクセス性向上を図り、各機関の負担軽減とスペースの有効活用を促進する。
  7. 専門技術・メディア機器を備えた共同利用スペース
    これらのスペースは、高度なツールへの公平なアクセスを提供し、多様な分野の人々の創造性、実験、学際的なコラボレーションを促進する。

  報告書では各項目の詳細が議論の内容とともに説明され、あわせてこれにより何が可能になるのか、乗り越えるべき壁、および実現のための具体策についても紹介されている。

  最後に今後の展望として、SCONULは今後数か月間で、会員やパートナー団体と活発な議論を行い、協力しながらより良い解決策を模索することとしている。

  さて、日本でも2023年に「オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について(審議のまとめ)」が公開され、2030年にあるべき大学図書館の姿を実現するためには、大学図書館間あるいは他の学術情報提供機関との連携が不可欠であるとの認識が広まった。これから様々な取組を進めるにあたって、本報告書およびSCONULの活動が大いに参考となるだろう。

Ref:
“Shared services in academic and research libraries”. SCONUL. 2025-07-10.
https://www.sconul.ac.uk/News/View?g=8dbedd9b-9173-4f4c-8ee4-ce228f3f2db0
“Shared services in academic and research libraries”. SCONUL.
https://www.sconul.ac.uk/knowledge-hub/library-structures-and-strategies/shared-services-in-academic-and-research-libraries/
オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方検討部会. オープンサイエンス時代における大学図書館の在り方について(審議のまとめ). 2023, 24p.
https://www.mext.go.jp/content/20230325-mxt_jyohoka01-000028544.pdf.pdf