E2833 – 図書館に来ない人を惹きつける方法:英国における図書館非利用者の実態調査から

カレントアウェアネス-E

No.511 2025.10.16

 

 E2833

図書館に来ない人を惹きつける方法:英国における図書館非利用者の実態調査から

国立国会図書館利用者サービス部人文課・森口歩(もりぐちあゆみ)

 

●はじめに

  2025年7月、公共図書館の利用率低下を背景として、英国の文化・メディア・スポーツ省(DCMS)が図書館非利用者の利用障壁等に関する調査報告書“What works to engage library non-users”を発表した。この報告書は、図書館非利用者へのオンライン調査、図書館職員へのオンライン調査、関係者とのワークショップをもとに、利用を阻む要因を探り、非利用者を図書館に惹きつけるためのアプローチを検討している。本稿ではその概要を紹介する。

●図書館非利用者の属性

  2024年1月から2025年2月にかけて実施された、無作為抽出されたイングランドの17歳以上を対象とするオンライン調査に回答した7,252人のうち、公共図書館サービスを1年以上利用していない4,243人を図書館非利用者と設定し、本調査の対象とした。調査分析手法等は冒頭の用語集及び付録で説明されている。

  非利用者が最後に図書館を利用した時期は、13歳未満が65%、13~17歳が58%、18~40歳が50%である(設問は複数回答可)。また、27%は子どもと一緒または子どものための利用、4%は孫と一緒または孫のための利用だった。

  非利用者のうち、3年以上利用していない人は44%、一度も利用したことがない人は6%である。3年以上利用していない人の割合が非利用者全体の平均より高い属性は、男性、55歳以上、白人(マイノリティを含む)、フルタイム勤務、大学を卒業していない、親(子どもの年齢に関わらず)、社会階層C1(監督、事務、下級の管理職・行政職・専門職を指す)という結果となった。地域差は見られなかった。

●非利用者の図書館に対する認識

  非利用者の81%は地域図書館の所在地を把握し、85%は行きやすい場所にあると答えた。56%が図書館で無料のオンライン貸出サービスを提供していると認識する一方で、58%は紙資料の貸出以外のサービスをよく知らず、83%は地域図書館のオンラインサービスをよく知らない。

  非利用者は、図書館は誰もが利用できて、静かでリラックスできる場であり、新刊・既刊の出版物が適切に管理されているなど、肯定的なイメージを持つ人が多い。しかし、こうした肯定的な認識は必ずしも図書館の利用にはつながらない現状が示された。

  彼らの認識は、情報や娯楽へオンラインで手軽にアクセスできる現代において、図書館がどのように時代に合わせて変化していくのか見極めることが根本的な課題だと示唆している。

●図書館利用への障壁

  図書館職員589人へのオンライン調査等も踏まえ、図書館利用への障壁として次の3点が挙げられている。

  • 能力の壁:紙資料の貸出以外のサービスを知らない、サービスに関する情報をどこで見つければ良いのかわからない等。
  • 機会の壁:開館時間が合わない、駐車場を利用しづらい/料金が高い、地域の図書館へ容易にアクセスできない等。
  • モチベーションの壁:類似の文献やサービスは書店やインターネット等でアクセスできる、本は自分で所有したい、興味があるサービス等が図書館には無い等。

●非利用者のグループと図書館の利用促進要因

  調査データをもとに、非利用者を5つのグループに分類して、その特徴や回答者の属性傾向から典型的な利用者像を設定し、利用を促す可能性が高い要因が検討されている。主な障壁は類似しているものの、その影響の強さがグループごとに異なることから、各グループの違いを理解し、ターゲットを絞った戦略を策定することでサービスの効果を最大化できるとしている。

  各グループの内容と利用促進要因は次のとおりである。

  • アームチェア・サポーター層(24%):図書館に肯定的だが利用は少ない。利用促進要因は、快適で居心地の良い空間、最新の出版物の幅広いラインナップ、使いやすいオンラインリソース等。
  • デジタルとコミュニティを求める層(25%): 図書館をコミュニティの中心として重視しながらも、さらなる利便性の向上やデジタル化の進展を求める。利用促進要因は、開館時間の延長、無料Wi-Fiや電子機器の提供、館内のカフェや軽食堂等。
  • 無関心層(23%):図書館と自分との関連性といった意識、図書館サービスに関する認知を欠く。利用促進要因は、十分な広さの駐車場。
  • 否定派層(9%):図書館に対して深く否定的な認識を持ち、利用に強い抵抗を示す。統計的に有意な利用促進要因は無い。
  • 熱心な受容者層(19%):図書館に非常に肯定的で、再び図書館を利用する可能性が最も高い。利用促進要因は、大人向けの魅力的なアクティビティやプログラム、交流やコミュニティ形成のためのイベント等。

●利用障壁への介入策

  図書館関係者とのワークショップをもとに、利用障壁への介入策を検討し、次のように優先度の高いアプローチ3点に絞り込んだ。各アプローチの概要、ターゲット、考慮すべきポイント、実行に向けた流れ、効果測定方法等を説明している。

  • ソーシャルメディアを通じた図書館のリーチ拡大
  • 図書館以外のサービスやパートナー協力事業による図書館スペースの活用とコミュニティハブへの転換
  • 図書館利用のメリットに関するターゲット別の発信

  ただし、一つで全てを解決する特効薬は無いため、非利用者のグループや利用障壁、地域のニーズに応じて、複数の介入策を組み合わせる必要がある。各介入策の実現可能性や影響、図書館のリソース配分等を検討し、小規模な試行による評価と調整を重ねることで、効果を最大限に引き出せるとしている。

  これらの取組は、図書館から離れた市民を再び惹きつけ、地域にとって大切な図書館資源を長く生かし続けることにつながると考えられている。

Ref:
“Research and analysis : What works to engage library non-users”. Department for Culture, Media & Sport. 2025-07-10.
https://www.gov.uk/government/publications/what-works-to-engage-library-non-users/what-works-to-engage-library-non-users
What works to engage library non-users – appendix. DCMS, 2025, 43p.
https://assets.publishing.service.gov.uk/media/685bda407d72089d199760e5/24-083097-01_DCMS_Library_Non-Users_Appendix_v3_ClientUseOnly_-_Clean___Access.pdf