E2830 – 公共図書館が利用者にもたらす影響に関する調査(ニュージーランド)

カレントアウェアネス-E

No.510 2025.10.02

 

 E2830

公共図書館が利用者にもたらす影響に関する調査(ニュージーランド)

国立国会図書館関西館図書館協力課・三崎彩(みさきあや)

 

  2025年7月、ニュージーランドの公共図書館の管理職者等で構成される団体Public Libraries New Zealand(PLNZ)が、公共図書館が利用者にもたらす影響(インパクト)等に関する調査報告書“Community Impact Report 2024”(以下「報告書」)を公開した。本稿では、ニュージーランドの公共図書館の状況を概観した上で、報告書の概要を紹介する。

●ニュージーランドの公共図書館

  ニュージーランドの公共図書館に関するデータをまとめたPLNZの“Analysis and Insight Report 2023-2024”によると、2024年6月末時点で、ニュージーランドには分館を含め315の公共図書館があり、23の移動図書館が稼働している。全人口(515万人)の28%に当たる144万人が図書館で資料を借りており、貸出総数は増加傾向にある。図書館職員総数は3,275人(フルタイム換算(FTE)では2,450人)である。全ての公共図書館において無料でインターネットにアクセスすることができるほか、92%の図書館で高齢者のための宅配サービスが実施されている。1年間で計8万3,000を超えるイベントやプログラムが実施され、延べ150万人以上が参加したと報告されている。

●Community Impact Report 2024

  報告書は、公共図書館の価値を明確化し、将来の戦略を導くためのロードマップとしてPLNZが策定した「戦略的枠組み2020-2025」(Strategic Framework 2020-2025)における公共図書館のビジョンやサービス成果指標に基づき、図書館が利用者の生活などに与えるインパクトに関するアンケート調査の結果がまとめられたものである。

  調査は、2024年11月に全国の公共図書館を通して図書館利用者に対して実施され、8,648件の回答が得られた。回答者の7割以上が40歳以上で、75%が女性、22%が男性であった。アンケートでは、図書館の利用状況に関する一般的な質問と、公共図書館が利用者に与えるインパクトに関する質問が設定された。以下では、インパクトに関する調査結果を取り上げる。

  インパクト調査では、図書館が利用者に与えたインパクトが12の設問を通して測定された。各設問について、回答者が1から5の評価尺度(数値が高いほどより強く影響を受けたことを示す)で回答し、その平均がインパクトスコアとして算出された。そして、それらの結果が社会・経済・文化・環境の四つのインパクト領域に分類されてまとめられている。

  • 社会的インパクト

      87%が、図書館が読書への関心を高めたと回答した(インパクトスコア4.5)。また、85%は図書館が幸福感やウェルビーイングの向上に寄与した(同4.4)としているほか、約70%は図書館がコミュニティへの帰属意識を高めたと回答した(同4.1)。こうした結果から、図書館が利用者の心のよりどころとなって学びや自己実現の基盤を築くとともに、コミュニティのつながりを育み、インクルージョンを促進しているとしている。

  • 経済的インパクト

      48%が図書館を通して学びの機会が拡大したと回答した(同3.9)。このことから、生涯学習への取組等を通し、図書館は経済的なウェルビーイングにおいても重要な役割を果たしているとしている。一方、コンピュータースキルが向上したと回答したのは20%にとどまった(同3.2)ことから、図書館がデジタルインクルージョンの促進やデジタルデバイドの解消に向け、今後、一層寄与できる可能性があることにも言及している。

  • 文化的インパクト

      40%が、図書館を通じてニュージーランドの文化的多様性への理解が深まったと回答した(同3.6)。また、22%が自身のルーツを探求した(同3.2)、19%が先住民族の言語であるマオリ語に関するサポートを受けた(同3.0)と回答するなど、図書館は文化や世代をつなぐ懸け橋として機能しているとしている。

  • 環境的インパクト

      図書館が環境問題への意識向上に寄与したと回答したのは32%(同3.7)であったことから、図書館が今後、環境教育や持続可能性について関与を拡大できる余地があるとしている。

  調査結果からは、図書館が単に本を借りる場所ではなく、コミュニティのハブ、生涯学習への入口、テクノロジーへのアクセスポイントでもあり、人々のウェルビーイングの向上やコミュニティとのつながりを育むインクルーシブな場となっていることが明らかになったとしている。また、図書館は静的な存在ではなく、時代に適応し、未来を見据える組織であるとも述べられている。

  領域としてインパクトスコアが最も高かったのは社会的インパクト(4.1)であり、経済的インパクト(3.6)、環境的インパクト(3.4)、文化的インパクト(3.3)と続いた。PLNZでは、図書館が利用者に与えるインパクトに関するデータの蓄積や分析を進めることで、政策決定者による計画の立案や優先順位決定などの手がかりとなるとしている。

Ref:
“New Survey Confirms Public Libraries Are Cornerstones of Kiwi Communities”. Love Your Library. 2025–07-29.
https://loveyourlibrary.org.nz/libraries-in-action/library-stories/new-article-page-2
“Community Impact Report 2024”. Love Your Library.
https://loveyourlibrary.org.nz/libraries-in-action/reports/community-impact-report-2024
PLNZ. Community Impact Survey Results 2024. 2025, 12p.
https://loveyourlibrary.org.nz/assets/Community-Impact-Report/National-Impact-Survey-2024.pdf
“Analysis and Insight Report 2023/2024”. Love Your Library.
https://loveyourlibrary.org.nz/public/libraries-in-action/reports/analysis-and-insight-report
“Public Library Membership and Usage is Surging”. Love Your Library. 2025-04-08.
https://loveyourlibrary.org.nz/libraries-in-action/library-stories/public-library-membership-and-usage-is-surging
PLNZ. Analysis and Insight Report 2023-2024. 2024, 9p.
https://loveyourlibrary.org.nz/public/assets/Reports/PLNZ-Analysis-Insight-Report-2023_24.pdf
Public Libraries of New Zealand Strategic Framework 2020-2025. PLNZ. 41p.
https://loveyourlibrary.org.nz/public/assets/Uploads/menu-items/MASTER-PLNZ-Strategic-Framework_Final.pdf
“High level summary of impact areas of libraries”. National Library of New Zealand.
https://natlib.govt.nz/librarians/reports-and-research/data-research-and-evidence-strategy-resources/high-level-of-summary-of-literature-review
A Tool to Support Measuring Libraries Impact. Allen+Clarke. 2022.
https://natlib.govt.nz/files/nzlpp/nzlpp-working-towards-measuring-library-impact.pdf