E2734 – 日出町立小中学校の「学校日誌」の永年・永続的保存

カレントアウェアネス-E

No.488 2024.10.03

 

 E2734

日出町立小中学校の「学校日誌」の永年・永続的保存

日出町教育委員会・中尾征司(なかおせいじ)

 

  2024年4月から大分県の日出町教育委員会(以下「町教委」)は、所管する町立小中学校の「学校日誌」保存の取り組みに着手した。本稿では実務に携わってきた筆者の視点で、その概要と今後の展望、課題について述べる。

●保存の概要

  学校資料の一つである「学校日誌」は、児童や教職員が営む学校生活の日々を綴った記録で、現在は管理職である教頭(副校長)が作成を担っている。主には児童の出欠及び教職員の勤務状況、学校での行事や出来事などが記され、作成された時代により内容はやや異なる。「学校日誌」は学校教育法施行規則第28条第1項に、「学校において備えなければならない表簿」と規定され、同条第2項には5年間の保存が義務付けられている。

  町教委における「学校日誌」保存の取り組みは、法規上の保存年限が満了した所管小中学校(閉校を含む小学校6校及び中学校3校)の「学校日誌」を日出町歴史資料館・帆足萬里記念館(以下「資料館」)に移管し、「永年かつ永続的」に保存を図るものである。「永年かつ永続的」とは、「過年度」「現年度」「次年度以降」の全てを包括し、永年保存として取り扱う意を指す。

  「過年度」、いわゆる過去の時代から受け継がれてきた資料については、従前よりその史的評価をもって、文化財保護法上においては文化財指定・登録、公文書管理法上においては歴史的公文書等々、歴史資料としての保護が図られてきた。しかし、さらにその延長線上にある今日、これから作成がなされる資料までも保護の手を拡げる本件は極めて稀有な事例と捉えている。

●保存の背景

  「学校日誌」保存をめぐる町教委の取り組みは、教育長や学校長との協議を幾度も重ね、学校側の理解・了解を取り付け実現に至った。これ以前にも資料館では、学校資料の保存に向けた二つの取り組みを推し進めてきた。

  一つは、所管中学校(2校)でのアーカイブズ教育の実践的試みである。資料館では2017年より毎年、生徒や教職員が作成した学校教育活動資料の中から保存すべき資料を、彼ら自身で考え、選別し、その資料一式を資料館に収蔵(永年保存)している。

  もう一つは、「学校日誌」の展示公開である。2023年に日出小学校は創立150周年を迎え、資料館では記念特集展として「ひじの少年少女、まちの近代-学校日誌にみえてくる時代-」を開催した。企画調査では学校の全面協力を得て、近代(戦前期)の「学校日誌」や日誌の記載を証す資料が次々と見つかり、これまで知られることなく、また、真偽が定かでなかった多くの歴史をひも解くに至った。

  こうした取り組みを背景に学校、そして町教委全体に「学校日誌」を歴史資料と捉えるまなざしが醸成され、本件に結実するに至った。

●保存に向けた展望と課題

  町教委における「学校日誌」保存の取り組みは、早期着手を優先し、所管小中学校への文書通達(実際には依頼)による方法を採択したことで円滑にスタートを切ることができた。今後は例規を定めるなどして規則化を図り、恒久的な取り組みとして定着させていくことが必要である。

  また、これから作成される「学校日誌」については、日誌そのものの保存に加えて、記載される内容にも目を向けていかなければならない。将来にわたって書き継がれていく「学校日誌」の記載事項や記録がいかに在るべきか、日誌を作成する学校とこれを保存する資料館と立場の異なる両者で意見を交わす機会が必要であろう。「学校日誌」がその舞台となる学校(及び校区)に根ざした地域資料であること、そして「学校日誌」を作成するにあたり、児童や教職員が営む学校生活の日々と移り行きをつぶさに書き綴ること、この2点がまずもって両者に求められる共通認識(理解)として挙げられよう。

Ref:
“令和5年 特集展「ひじの少年・少女、まちの近代―学校日誌にみえてくる時代―」”. 日出町. 2023-10-24.
https://www.town.hiji.lg.jp/gyoseijoho/shisetsuannai/shiryokan_kinenkan/2642.html