カレントアウェアネス-E
No.474 2024.02.22
E2670
震災・防災等の学び合いスペース「I-ルーム」の開設
岩手県立図書館・菊地幸男(きくちさちお)
2023年11月3日、岩手県立図書館は「I-ルーム」を開設した。I-ルームとは、自然災害や防災・安全を総合的に学ぶことができるスペースであり、児童生徒やグループによる、震災や防災等の探究的な学びを支援することを目的とするものである。本稿では、I-ルーム開設の経緯と概要を紹介する。
●東日本大震災津波と「いわての復興教育」
岩手県立図書館は、「平民宰相」として国民に迎えられた岩手県の偉大な先人である、原敬(はらたかし)の申出をきっかけに1922(大正11)年に開館し、2022年に開館100周年を迎えた。大正・昭和・平成・令和と時代が移り行く中にあって、本県では、厳しい自然環境や社会的諸条件の下、多くの先人達が努力を重ね、数々の災害や困難を乗り越え、郷土の産業や県民の暮らしを発展させてきた。当館は、こうした本県の歴史や文化を後世に伝えていくための中核施設であると考えている。
2024年1月1日、令和6年能登半島地震が発生した。犠牲になられた方々に哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた全ての皆様に心からお見舞いを申し上げる。一日も早い復旧・復興を祈念している。本県においても、これまで数々の災害に見舞われており、そのうち特に、2011年3月11日には、東日本大震災津波が発生した。この災害により、岩手県をはじめ三陸沿岸では人的・物的に大きな被害があった。岩手県では、国内外からの多くの支援の下で、地域の底力を最大限に発揮し、復興に向けた歩みを着実に進めている。
東日本大震災津波から、まもなく13年になる。震災後に生まれた子どもや、震災を知らない子どもも増えており、震災の記憶の風化が懸念されている。東日本大震災津波以降、本県では、郷土を愛し、その復興・発展を支える人材を育成するために、各学校の教育活動を通して、三つの教育的価値「いきる」「かかわる」「そなえる」を育てる独自の「いわての復興教育」に取り組んでいる。「いきる」とは、命の大切さや心の在り方、これからの生き方に関すること。「かかわる」は、家族の絆やボランティア活動、県内外の支援活動、地域づくり等に関すること。「そなえる」は、科学的知見・防災リテラシーを踏まえた防災、災害時の行動に結びつく判断、家庭や地域での日頃の備え等に関することである。
当館としても、図書・新聞・雑誌・視聴覚資料等の多様な資料を総合的に活用しながら、グループ学習を支援する場の整備が求められていた。また、震災津波の教訓を後世に、未来に引き継いでいくことはもちろん、教訓を踏まえ普段から災害への備えを行うことの重要性がより認識されるようになっていた。こうした背景、経緯等から、I-ルームを開設することとなった。
●I-ルームの紹介
「I-ルーム」という呼称は、学び「合い」、出「会い」、「愛」と希望に満ちた岩手県(“I”wate Prefecture)等様々な「あい(I)」を集め、名付けたものである。このI-ルームは、東日本大震災津波からの復興や防災を含む今日的な課題について、児童生徒やグループによる学び・探究等を支援することを第一の目的としている。そして、自然災害や防災を総合的に学ぶことができる情報拠点として、I-ルームを活用した復興教育・防災教育を更に推進していく予定である。また、県内沿岸部の震災津波関連施設等と連携し、I-ルームにおいて震災・防災に関する展示や各施設の特色の紹介を行うことで、沿岸部の施設等に関心を持ってもらい、また、実際に足を運んでもらうといったゲートウェイ機能も担いたいと考えている。
I-ルーム(開架)には、東日本大震災関連約3,000冊、自然災害関連約500冊、防災関連約600冊と、震災直後に県内の市町村や団体、NPO等が作成したチラシ等約6,000点、計約1万点を配架している。その他閉架分も合わせると、当館全体で約3万4,000点の震災・防災関連資料を所蔵している。通常、図書館内では会話を控えるのがマナーだが、ここでは、児童生徒やグループが声を出して対話や意見交換をすることができる。学校や団体向けには、セット貸出や図書館職員による資料の提示、調べ方等の支援を行っている。書棚や机、椅子には県内産木材が使用され、温かみを感じられる落ち着いた空間になっている。
●今後の展望
I-ルームを開設して、4か月。これまで、県内の中学校による探究的な学びの成果発表や、日常時と非常時との垣根をなくそうという防災に関する新しい考え方である「フェーズフリー」に関する講演会の開催などを通して、県民のI-ルームの認知度が少しずつ上がっているように感じている。
今後、当館ではI-ルームを通して「いわての復興教育」における県内の小中高・特別支援学校の探究的な学びの支援を行うとともに、教育旅行で本県を訪れる児童生徒の学習の場としてのI-ルームの活用に取り組んでいく。
また、本県沿岸部にある震災津波関連施設等の紹介やこれらの施設と連携した展示を行うことにより、同地域への誘客促進や震災の風化防止に寄与していきたい。I-ルームを利活用していくことで、震災の教訓を未来につなぎ、復興に貢献できればと考えている。
Ref:
“震災・防災の学び合いスペース「I-ルーム」の開設について”. 岩手県立図書館. 2023-11-20.
https://www.library.pref.iwate.jp/info/announce/20231103_i-roomopen.html
“岩手県立図書館と原敬”. 岩手県立図書館. 2020-01-27.
https://www.library.pref.iwate.jp/aboutus/history/19211119.html